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2005年04月07日(木) 00時00分

おれおれ詐欺に代位請求権  東京新聞

 孫などを装って、高齢者から銀行口座にお金を振り込ませる「おれおれ詐欺」(振り込め詐欺)が相次ぐ中、だまされた被害者がお金の払い戻しを銀行に求めて起こした訴訟で、裁判所が払い戻しを命じる判例が出始めている。銀行口座は、名義人の権利が保護されているが、犯罪が明白な場合に限り「名義人に代わって被害者が銀行に払い戻しを請求できる」という「代位請求権」を認めた点が画期的だ。どのようなケースなら救済されるのか調べてみた。 (白井 康彦)

 三月三十日に東京地裁が下した判決は、振り込め詐欺の被害者救済に当たる弁護士らに高い評価を受けた。

 原告は、東京都や神奈川県、熊本県に住む高齢の男女五人。うち一人は融資絡みの詐欺の被害者で、残り四人は振り込め詐欺の被害者だ。

 犯人グループが被害者に電話。「おれだけど」「おれおれ」などと名乗って子や孫と思い込ませ「交通事故を起こして示談のために金が必要だ」と偽って指定した銀行口座に金を振り込ませた。

 銀行は大手の四銀行。五人の被害総額は約二百六十万円。被害者がだまされたことに気づいて警察に早めに連絡し、銀行は犯人グループがお金を引き出す前に振込先口座の凍結措置をした。

 犯人グループは既に逮捕されているが、口座の名義人は実在するかどうかは不明。この状態では、銀行も被害者の請求に応じるわけにいかず、訴訟に持ち込まれていた。

 判決は、銀行に対して被害者らに約二百六十万円の返還を命じ、銀行側も控訴しないとみられる。しかし、その論理構成は簡単なものではない。

 被害者はだまされたり脅されたりして、払う義務のない金を名義人の口座に振り込んだ。このため名義人に返還を求める権利がある(不当利得返還請求権)。

 一方、名義人は銀行に自分の預金の返還を求める権利がある(預金返還請求権)。名義人が銀行から預金を下ろし、被害者に返せば丸く収まるが、現実には名義人に連絡すらできない。

 この行き詰まり状況を打開するために、東京地裁は「被害者が名義人に代わって、銀行に対する預金返還請求権を代わりに行使できる」(代位請求権)という論理を打ち出した。

 原告代理人の村上徹弁護士は「最初は、被害者が銀行に対して不当利得の返還を求める主張にした。しかし、銀行の立場では、被害者に返還した後でも名義人に対して預金の返還義務が残るので、二重の負担になりかねないという問題があった」と説明する。

 代位請求権は、本来の請求権を持つ人が無資力である場合に限り認められるもの。今回のケースで、音信不通の名義人が無資力だと立証するのは難しいとみられていたが、東京地裁は名義人について「口座の預金以外の財産は見当たらない」と簡単な説明をしただけで、被害者を救った。

 村上弁護士によれば、同様な論理で銀行に被害者への払い戻しを命じた判決は最近、東京地裁でもう一件、東京簡裁でも一件あったという。

   × ×

 おれおれ詐欺の昨年一年間の認知件数は警察庁によると、一万四千八百七十四件で、被害総額は約百九十一億円。今回のような判決で救われる可能性があるのは、被害にすぐ気がついて警察に連絡し、銀行が振込先口座を凍結。口座の名義人が明らかでない場合だ。

 全国ヤミ金融対策会議事務局長の木村裕二弁護士は「こうしたケースは相当に多いと思う。今までは被害回復をあきらめることが多かったが、今後は被害者救済に取り組みやすくなる」と話す。

 ただ、村上弁護士は「裁判をすることがそもそも被害者に負担が重い。銀行業界がルールを作って、それに沿って振込金を返すのがより望ましい」と話している。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20050407/ftu_____kur_____001.shtml