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2005年03月30日(水) 00時00分

日航機トラブル続出のウラ 東京新聞

 旅客機の無許可離陸滑走など、日航機のトラブル、ミスが相次ぐ。二十八日には、国土交通省が異例の査察を行ったが、同省の航空局長は、一連のトラブルについて「ヒューマンファクター(人的要因)が多い」と指摘した。原発と同じく複雑なシステム、膨大な機器を抱える航空機も、そのトラブルの多くは人的要因によるとの指摘もある。なぜ、日航の“迷走”は止まらないのか。

 「非常脱出扉のドア操作ミスと管制指示誤認の問題は、手順の変更や工夫などで防ぎうるヒューマンファクター的なエラーだが、貨物機の主脚部品の誤使用は明らかな組織の安全意識の欠落から発生したケース。同列には論じられない」

 日本航空乗員組合の角田憲一副委員長は、国交省から事業改善命令などを求められたトラブルをこう分析し、組織上の問題点の改善の必要性を強調した。

 改善命令などは韓国・仁川空港での誤進入や、新千歳空港での無許可離陸滑走などに対し出された。貨物用など計五機のジャンボ機が、強度不足の規定外部品を装着したまま飛行、うち一機は八年間に約七千五百回も飛行していた整備ミスも発覚した。

 これらのトラブルのうち、組合側が最も重視しているのは部品交換せず誤使用を続けた整備ミスだ。

 乗員組合によると、会社側が部品の誤使用を把握したのは昨年十二月。その時点で、ボーイング社に照会し「使用不可」の回答を得たが、少なくとも一カ月は放置されていたという。

 角田副委員長もあきれ気味に振り返る。「会社側は当初、『ボ社の回答文書が他の書類に紛れ込んでしまった』と弁明していたが、最近の説明では『回答はメールできていた』と二転三転する始末。一月十九日に再度、ボ社に照会し、同様の回答を得たにもかかわらず、誤使用を続け、最終的に部品を取り換えたのは同社から三度目の回答があった一月末。ニューマケドニアからアンカレジに運航中の貨物機が、成田空港に戻ってきてからだ」

 これが事実ならば、会社側は事態を把握しながら、迅速な対応を怠っていたことになる。

 日本航空の元パイロットは「技術担当者は現場からの問い合わせで当然、部品交換の必要性は分かっていただろう。しかし、貨物機には予備機がない。部品交換すれば、何便も欠航となるため、次の整備まで部品交換を先送りしようとしたのではないか」と推測。そのうえで「このケースは技術責任者の判断の問題だが、的確に判断すべき立場の人に情報が伝わっていたのだろうか。そうでなければ、組織が機能不全に陥っていると言われても仕方ない」と指摘。角田副委員長も「日航グループではコスト削減策が推し進められる中、現場の切実な声が経営トップに届いていない。届いても改善されない状況が続いていた」と話した。

 日航は一九八五年八月の日航ジャンボ機墜落事故を受け、「絶対安全の確立」を第一に掲げた。しかし、整備部門などでは九三年以降、日航本体での整備士の採用を中止。それに代わって分社化や海外委託化などに伴い、ベテラン整備士が整備現場以外への転出を迫られたり、人手不足の中で過酷な勤務を強いられているのが現状という。

 「昔は整備士も自分が担当した飛行機に体験同乗し、整備状況をチェックするような勤務があったが、整備を下請けするようになってから、体験同乗もなくなった。自分が整備した飛行機に乗れない整備士にどうして仕事への意欲が起きますか」。前出の元パイロットはこう話す。

 ヒューマンファクターに言及するのは、航空評論家の青木謙知氏だ。青木氏は「いろんなレベルのミスが全部同じように取り上げられているようなところもあるが、管制官の指示に従わないというのは、かなり重大なミスだ」と指摘する。

 なぜ、こうしたミスが相次ぐのだろうか。

 元日航関係者は「現在の日航の状況は、ハインリッヒの法則の二十九の事故の領域に入るものだ」と警告する。アメリカの技師ハインリッヒが労災統計から導きだした法則で、一つの重大事故の背後には、二十九の軽傷事故と三百の無傷災害があるとされる。

 この元関係者は要因としてまず、組織の上層部の問題を挙げる。「日航は年中、組合と対決しているため、組合対策をしている労務は聖域とされ、労務が言うと従わなければならないという、水戸黄門の印籠(いんろう)のような存在だ。労務畑の兼子勲会長兼CEOは意見を言う人間を嫌いイエスマンだけを残した」

■米パンナムの破産思い出す

 この元関係者はJASとの統合についても「運航整備規程から賃金体系、企業年金の有無まで全く違う。本来吸収合併すべきものを対等合併にしても、うまくはいかない」と断言する。

 「指揮命令系統もあいまいで末端まで浸透しない。人事もどっちに主導権があるのか分からない。ずうたいが大きくなりすぎて小回りはきかず中はがたがた。米国のパンアメリカン航空がナショナル航空を買収したことで肥大化し(湾岸戦争後の)石油ショックで破産した時を思い出す」

 そういう状態の中、合理化は進む。「経費削減が進み、訓練も徹底的にやらないことで乗員の質やモラルが下がってくる。それが管制指示の聞き違いや、乗務員による非常用脱出装置の作動忘れなどのミスにつながっているのではないか」

■JAS統合で風通しは悪く

 航空評論家の杉浦一機氏は三つの要因を挙げる。「一つには、御巣鷹(日航ジャンボ機墜落事故)から二十年が経過し安全意識が希薄になっている。事故が起きてハチマキを締め直し、また緩んだところで事故が起きるというのは世界中の航空会社で起きている。二つ目はJAL、JASの統合で組織が複雑になり、風通しが悪くなっている。三つ目はJALのもともとの体質である社内の激しい派閥争い。兼子会長になってから抑えられていたが、去年後半から暴露合戦として表に出てきている」

 この三つは絡み合っている。「JASを吸収して拡大するのは長年の課題だったが、マイナス要因も一緒に引っ張り込むということで実現してこなかった。それを分社化してマイナス部分を排除するというのが兼子会長のシナリオだったが、うまくいかなかった。九二年からリストラで血を流してきたが、業績悪化でもう一度リストラしなければならないということで社内には不満が高まっている。兼子会長はこの統合のことで頭がいっぱいで、安全対策にまで頭が回らない」

 杉浦氏は言う。「経営陣が降格などの形で責任はとっても、原因を究明していない。責任だけでなく対策をとらなければ事態は解決しない」

 前出の元日航関係者はこう訴える。「安全管理はトップと従業員が同じ意識を持たなければならない。安全は金をかけても目には見えず合理化の中では無視されがちだ。上層部におかしなものにはノーと言える勇気のある人間を戻さなければだめだ」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050330/mng_____tokuho__000.shtml