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2005年02月02日(水) 21時35分

「一太郎」判決の衝撃ITmediaニュース

 国産ワープロソフト「一太郎」に下った「特許侵害」と「製造販売の停止」という法の裁き。当面は現状通りの販売が続くが、ソフトウェア業界やユーザーに与えた衝撃は大きい。訴訟の経緯や争点などをまとめた。

●経緯

 問題となった特許「情報処理装置及び情報処理方法」(特許番号第2803236号)は松下が1988年10月に出願し、1998年7月に登録された。

 2002年11月、松下はジャストのソフト「ジャストホーム2家計簿パック」を搭載したソーテック製PCが同特許を侵害しているとして、ジャストとソーテックに対し、PCの販売差し止めを求める仮処分を申請。その後ソーテックが同PCの販売をとりやめたため、松下は申請を取り下げた。

 ジャストは2003年8月、ジャストホーム2が松下の特許権を侵害しておらず、特許法に基づく差し止め請求権が松下にないことの確認を求める訴えを起こした。東京地裁は2004年8月、ジャストの特許権侵害を認めない判決を下し、ジャストが勝訴した。

 判決があった月、松下は「一太郎」「花子」が同特許権を侵害しているとしてジャストを提訴。2月1日の東京地裁判決で勝訴した。

  -   訴訟など
  1988.10   松下、「情報処理装置及び情報処理方法」出願
  1998.7   「情報処理装置及び情報処理方法」登録(特許第2803236号)
  2002.11   松下、「ジャストホーム2家計簿パック」搭載のソーテック製PCが特許権を侵害しているとし、ソーテックとジャストに対し、PCの販売差し止めを求める仮処分申請
  2002.11以降   ソーテック、上記PCの販売中止
  2003.6   松下、ジャストとソーテックに対する仮処分申請取り下げ
  2003.8   ジャスト、松下に対し「ジャストホーム2」の販売差し止め請求権がないことを確認する訴訟提起、松下は反訴
  2004.8   東京地裁、ジャストの特許権侵害を認めない判決(ジャスト勝訴)
  2004.8   松下、ジャストを特許権侵害で提訴
  2005.2   東京地裁、ジャストの特許権侵害を認める判決(松下勝訴)

●アイコン特許とは

 松下が侵害されたと主張している「情報処理装置及び情報処理方法」(特許番号第2803236号)の請求項は以下の通り。

(1)アイコンの機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン、および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させる表示手段と、前記表示手段の表示画面上に表示されたアイコンを指定する指定手段と、前記指定手段による、第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて、前記表示手段の表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させる制御手段とを有することを特徴とする情報処理装置。

(2)前記制御手段は、前記指定手段による第2のアイコンの指定が、第1のアイコンの指定の直後でない場合は、前記第2のアイコンの所定の情報処理機能を実行させることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。

(3)データを入力する入力装置と、データを表示する表示装置とを備える装置を制御する情報処理方法であって、機能説明を表示させる機能を実行させる第1のアイコン、および所定の情報処理機能を実行させるための第2のアイコンを表示画面に表示させ、第1のアイコンの指定に引き続く第2のアイコンの指定に応じて、表示画面上に前記第2のアイコンの機能説明を表示させることを特徴とする情報処理方法。

 請求項からは分かりにくいが、「アイコンの機能説明を表示させる第1のアイコン」をクリックした後、「情報処理を行う第2のアイコン」をクリックすると、第2のアイコンの機能説明を表示させるというもの。ワープロ用の技術だったとされる。

 訴訟では、ジャストのソフトに搭載されている「バルーンヘルプ」と呼ばれる機能が、同特許を侵害しているかどうかが争点となった。バルーンヘルプは、ヘルプボタンをクリックした後、別のボタンをクリックすれば、そのボタンの機能説明文が表示されるというもの。例えば、ヘルプボタンクリック後に「印刷」ボタンをクリックすれば、「画面上の文書を印刷します」などと表示される仕組みだ。

 ヘルプボタンが松下の特許でいう「第1のアイコン」、印刷ボタンなどが「第2のアイコン」に当たるかどうかが、訴訟で争われた。

●争点1──「アイコン」とは?

 ジャストが勝訴した昨年の「ジャストホーム2」判決と、松下が勝訴した今年の「一太郎」「花子」判決の明暗を分けたのは「アイコン」の定義だ。両訴訟の判決で裁判所は、アイコンを「表示画面上に、各種データや処理機能を絵または絵文字として表示して、コマンドを処理するもの」と定義。「絵」「絵文字」が判断のキモとなる。

 ジャストホーム2のヘルプボタンのマークは「?」。裁判所は、「?」は単なる記号・文字で、アイコンに該当しないと判断した。

 一方、現行の「一太郎」や「花子」のヘルプボタンは、「?」とマウスの絵を組み合わせたデザイン。裁判所はこれを「絵」「絵文字」と判断し「アイコン」と認定したようだ。ジャストは「マウスの絵があった方が分かりやすいだろうと判断して追加した」と説明するが、この配慮が結果的に仇になった格好だ。

 つまり、同じヘルプボタンでも、文字や記号ならアイコンではないため特許権侵害にあたらず、絵や絵文字なら侵害となる、という判断だ。同様の機能を持つソフトは珍しくないが、ボタンのデザインが「アイコン」でなければ侵害を問われないと考えられる。

●争点2──「進歩性」

 ジャスト側は今回の訴訟で、「松下の特許は、当時の刊行物などを読めば容易に着想できるため進歩性がない」とし、特許の無効を主張。特許取得以前に発行された書籍などを証拠として提出した。

 提出したのは(1)キーボード上の操作説明キーと機能キーを連続して押すと、機能キーの操作説明が表示される仕組みに関する先行特許(1986年登録)(2)キーボードの各キーに対応したボタンを画面上に表示し、画面のボタンをクリックすれば、キーボードをタイプした時と同じ結果が得られる技術の紹介記事(1986年発行の書籍から)——など。(1)と(2)を組み合わせれば、特許内容は容易に発想できたとジャストは主張した。

 しかし判決は「画面上のキーが現実のキーと対応している(2)の場合と異なり、アイコンは現実のキーと必ずしも対応しないため、当時の時点で簡単に着想できたとは言えない」とし、すべてを退けた。

●既存ユーザーへの影響はなし

 裁判所はジャストに「一太郎」「花子」の製造・販売の中止と製品の廃棄を命じる判決を言い渡したが、仮執行宣言は見送っており、ただちに販売停止にはならない。仮執行宣言の見送りについては「相当ではない」としたのみで理由は明らかにされていないが、裁判所が影響の大きさを考慮したのでは、という見方もある。

 最新版の「一太郎2005」「花子2005」も予定通り2月10日に発売する。仮に販売停止が確定しても、既存ユーザーはこれまで通り利用できる。

 ジャストは今回の判決を、「当社の見解と大きく異なる」とし、控訴して抗戦する方針だ。

●経営への影響

 判決があった2月1日、ジャストは2004年度第3四半期の連結決算を発表。民間・自治体向けライセンス製品の販売などが計画未達となり、売上高68億2000万円に対し16億4700万円の経常損失、9億5600万円の純損失を計上した。

 同社は企業システム系事業の拡大を進めているが、一太郎と花子は前期に半分弱の売り上げを稼いだ大黒柱。特に自治体系では一太郎が広く普及しており、判決が販売に悪影響を及ぼした場合、業績悪化も懸念される。

 同社は投資家向けに「『2005』は予定通り発売するため、今期業績への影響はない」と呼びかけたが、2月2日の市場では四半期決算の不調と判決のショックから同社株式は売られ、前日比ストップ安(100円安)の500円となった。

●狙われたソーテック

 今回の騒ぎから、カシオ計算機による「マルチウインドウ」訴訟を思い出す関係者は多い。「PCディスプレイ上に複数の画面を重ね合わせて表示する発明」についてカシオが特許権を主張し、この機能を持つWindows OSを搭載したPCを販売して特許権を侵害したとして、ソーテックを訴えた。

 松下、カシオとも標的にしたのはソーテックだった。ジャストは訴訟で「ソーテック以外にもNECや日立製作所が製品をプリインストールして販売していたが、松下は他のメーカーに比べ訴訟対応能力に劣ると思われるソーテックのみに警告書を発した」と非難した。

 例えWindowsが各社の特許を侵害する機能を搭載していたとしても、ここで公正取引委員会がメスを入れた「特許非係争条項」が生きてくる。また大手電機メーカーを相手取るとしても、ライバル企業とはいえ何らかの取引関係があるのが普通で、訴訟能力も考慮すれば敵に回すのは得策とは言えまい。そこで新興の独立系メーカーだったソーテックが狙われた──という想像もできる。

 いったん勝訴というお墨付きを得られれば、後は各社にライセンス契約を申し入れるだけでいい。リスク管理に敏感なメーカーであれば、これを受け入れる可能性は十分にある。普通なら8年で償却され、紙くず同然となる休眠特許が小銭を生み続けてくれる。知財部門のお手柄というわけだ。

 国を挙げてプロ・パテントのかけ声がかかる中、各社は休眠特許の“虫干し”を進めている。同種の訴訟が減ることはなさそうだ。

●ソフトウェア特許をめぐって

 松下はジャストに対し、1995年からライセンス契約を申し入れていたという。だがジャストは「同技術はWindowsに標準搭載されている機能を利用したもので、松下の特許権を侵害していない」としてこれを拒否していた。

 判決を受け、著名なプログラマーが松下製品の不買を表明するなど、開発者サイドにも波紋が広がっている。ITmedia編集部に意見を寄せたある読者は「知財保護の必要性は認めるが、すでに一般化した技術についても特許出願する例があり、開発者の手足をしばるような状況になることが懸念される。中小零細企業ではソフトの開発に手一杯で、法務にまで十分な人材も手間も資金も回せない。こうした訴訟が相次ぐと、開発意欲を萎縮させかねない」と批判する。

 ソフトウェア特許をめぐっては、Linuxに対するMicrosoftの攻撃や、相次ぐサブマリン特許の“浮上”で世界的な議論になってきている。

 欧州連合(EU)はソフトウェア特許の法制化の動きを進めているが、これに対しLinux開発者のリーナス・トーバルズ氏が「ソフト特許案は欺瞞的かつ危険で民主主義に反する」と反対を表明。特にMicrosoftを警戒するオープンソース系企業が反発姿勢を強めている。「ソフトの作者は著作権法で十分保護されている」が反論の骨子だが、「ソフト特許は『強者の法律』を確立するもので、公正どころか不公正な状況が作り出されてしまう」と懸念している。

■さらに画像の入った記事はこちら
  http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0502/02/news080.html

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http://www.itmedia.co.jp/news/
(ITmediaニュース) - 2月2日21時35分更新

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050202-00000054-zdn_n-sci