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2005年01月25日(火) 00時00分

固定電話 基本料下げの先は 20年後なくなる!? 東京新聞

 かつて家庭の電話といえば「黒電話」と呼ばれた固定電話だった。その姿の変化とともに、電話事業のあり方も大きく変わった。携帯電話が普及、インターネットの発達でIP電話化が進む。同時に、固定電話事業への新規参入と料金値下げ競争の激化も。固定電話の将来はどうなるのか。それをほぼ独占してきたNTTは?

■携帯があれば不自由しない

 「固定電話の加入権は実家に一つ余っている。でもね、ふだん使わないのに基本料金を払うのはもったいない」。都内の大学生(22)は、一人住まいのアパートの部屋に固定電話を置かない理由をこう話す。仲間とは「必需品」の携帯電話で連絡する。「携帯だけあれば不自由を感じない」

 別の学生(21)は「固定電話はあるが、まずかかってこない。インターネットの接続以外には、ほとんど使わない」と言う。

 百年を超える電話サービスの歴史は、まず、携帯電話の普及で地殻変動が起こった。

 家庭や職場の固定電話の加入数は一九九六年度末のピーク時に六千百四十六万に達したが、その後は一転して減り始め、現在は約五千百万にまで落ち込んでいる。これと同時進行で本格化したのが固定電話の基本料金の低料金競争。

 プロ野球界への進出や携帯電話事業への参入表明で話題の孫正義社長率いるソフトバンクの傘下の日本テレコムが十二月、割安な固定電話サービス「おとくライン」を打ち出した。

 「契約獲得目標は公表していない」(同社広報室)というものの、孫氏は記者会見で、固定電話へ参入する狙いを「基本料金で一・八兆円、通話料金は一・四兆円の市場が、競争がないままNTT東西が独占してきた」からだと述べ、巨大市場を見すえる。

 さらに、KDDIも今年二月から割安な固定電話サービスを始める。先行の平成電電も含め、低料金競争に一気に火がついた。

 これに対し、東西のNTT地域会社は一月、民営化後初めて固定電話の基本料を引き下げ、通話料も値下げした。プッシュ回線の利用者の場合、最大で月額五百四十円の値下げで、減収はNTT東日本だけで「約九百億円」にのぼると見込まれ、経営への影響も避けられない。

 IT(情報技術)事情に詳しいジャーナリスト谷岡康則氏は指摘する。

 「NTTは、このまま他社に市場を侵略されて一兆円市場を失うよりは、数千億円を損しても市場を守る方が得だと判断しているのだろう。かたや孫氏には単なる通信事業ではなく、メディア支配の野望があるのではないか。もっとも、通信事業には『設備産業』という側面があるから(主力事業がころころ変わる)ソフトバンクが通信事業に対して、どの程度の覚悟で参入しているのか不信感は残っている」

 その上で、今回の低料金競争については「競争の影響で通信会社が『収益を上げられなくなる』のではなく、NTTが『暴利を上げられなくなる』だけ。ソフトバンクに限らず他の電話会社も『顧客から設備費を取らずに参入しても利益を上げられる』からこそ参入している」と言う。

■世界中に無料通話のソフト

 PC(パソコン)ユーザーの間では、激化する固定電話の基本料金値下げ合戦をよそ目に、インターネットを通じて世界中のユーザーとの通話を可能にする無料ソフト「スカイプ」をパソコンに搭載させたPC電話が普及しつつある。

 国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの池田信夫教授(情報産業論)は「無料でIP電話ができる『スカイプ』を使ったサービスが世界の流れだ。十年後、世界中が『スカイプ』になる」とし、固定電話から電話局までNTTの電話線を借りる直収型といわれる固定電話サービスに参入したソフトバンクの動きを疑問視する。

 「多角化路線を目指しているのだろうが、これまで開拓した(BBフォンという)IP電話の顧客を食う形になり、会社として得策なのか疑問だ。ソフトバンク社内でも、参入に対して社内が分裂状態になり、社長が押し切る形で参入したと聞いている」

 NTTによる独占が崩れ始めようとしている固定電話事業の将来は、いったいどうなるのだろうか。

 日本総合研究所の新保豊主席研究員は「NTTが持つ固定電話六千万回線のうち、十年以内に、三分の一がPC電話に移行する可能性が高い」と予想しながらも「ただ、固定電話への新規参入で固定電話の価値が見直され、あと数十年は重要な存在であり続けるだろう」とみる。その理由として「NTTはこの十年間、固定電話事業に関する設備投資をしており、その投資を回収するまで撤退できない事情もある」とし「固定電話のIP電話化が進んで低料金になり、携帯電話の顧客を切り崩すような動きが出る可能性もある」と続けた。

 NTTは昨年十一月、二〇一〇年には現在の回線のうち約半分の三千万回線を光ファイバー通信による固定電話に置き換える計画を打ち出し、自ら大きくかじを切った。「本丸」の固定電話の仕組みを大きく変える構想で、将来的に「光IP電話」という固定電話の新サービスの充実で、加入者の獲得を狙う。

 パソコンや情報家電との融合、音声で話している最中に文字情報も送ることなど、「電話の中にインターネットが入り込む」(前出の谷岡氏)といったサービスが期待できるからだ。

 IP化が進んでも、端末にPCを使うか、電話機を使うかは、消費者の趣味の問題だ。新保氏は「パソコンが普及しても、筆記用具がなくならないように、消費者のニーズがなくなることはない。百年の歴史を持つ電話機には、優れた合理性がある」と話す。

 また、多摩大学の井上伸雄教授(電気通信)は「PC電話は音声品質が悪く、固定電話並みになるのは五年以上先だ。企業の大事な商談は、PC電話ではまだまだできない。現在のIP電話からは一一〇番などの緊急電話ができないのも問題だ」と、技術面から固定電話の残存を予想する。

 一方、池田氏は「二十年先には固定電話はなくなるだろう。パソコンと一体化したテレビ電話が主流になる。そして、今使われている電話番号はなくなり、今のメールアドレス帳をクリックすれば電話がつながる形になる。顔を見て話す人間として一番自然な通信形態になる」と話す。

 NTTは、生き残っていくために、将来どういう形をとればいいのか。

 新保氏は「固定電話だけの市場は縮小するので、携帯電話との融合サービスを始める必要がある。携帯にかかってきた電話を固定電話に切り替えるサービスが企業対象に実施されているが、一般家庭にも広めるべきだ」と提言する。

■米AT&Tと同じ道たどる

 池田氏は「電話による収入が半分以下になり『電話会社ではない』と宣言した米国のAT&Tのようにならざるを得ない。AT&Tは、低価格よりセキュリティー面を重視する企業向けのサービスを行う“情報システム会社”に活路を見いだしたが、NTTもその道をたどる」と予想する。

<メモ>

 IP電話 インターネット・プロトコル(IP)と呼ばれるネットで使われる通信技術を活用する通話方式。一回線で複数の通話ができるなど効率的利用が可能なほか、通信機器が従来の電話交換機に比べて低価格なため、コスト削減により通話料を安くできる。当初は、回線混雑時の音質が、従来の固定電話網に比べて悪いなどの欠点があったが、技術の進歩でほぼ解消されている。KDDIは固定電話網のオールIP化を表明。NTTもオールIP化を目指すなど、急速な拡大が見込まれている。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20050125/mng_____tokuho__000.shtml