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2005年01月07日(金) 00時00分

『犯罪抑止』か『更生妨げ』か 性犯罪者住所把握 東京新聞

 警察庁などが本格的な導入を検討し始めた、性犯罪の前歴者の現住所把握システム。強姦(ごうかん)などの性犯罪は再犯率が高いとされ、同庁は「再犯や被害拡大の抑止に効果がある」と指摘する。一方、前歴者を監視し疎外する社会をつくることは更生の妨げとなり、「一生、犯罪者のレッテルを張るのか」との指摘も。子どもが犠牲になる凶悪事件の続発。治安向上への願いのはざまで、地域社会は寛容を失うのか。住民にも重い課題が突き付けられている。 

 警察庁のまとめによると、全国の強姦事件被疑者の再犯率は二〇〇一年で8・9%、強制わいせつは11・5%。ただ、これは、同じ罪種の再犯に限った数字だ。

 同庁科学警察研究所の「十三歳未満の少女を対象とした強姦事件の犯人像分析」と題する研究論文によると、一九八二年から九七年までに摘発された五百二十四人のうち、27・9%が性犯罪歴を持っていた。奈良市の事件で誘拐容疑で逮捕された元新聞販売店従業員も過去二回、女児に対する強制わいせつなどで有罪判決を受けている。

 性犯罪は増加傾向。一昨年の強姦事件の認知件数は二千四百七十二件で、十年前の一・五倍に膨らんだ。九〇年代前半には90%を超えた検挙率は60%台半ばという。

 現行制度では、刑務所を出所した人の動向は警察には知らされない。警察庁が住所把握の仕組みづくりに乗り出すのは、奈良市の事件で性犯罪に対する世論の関心が高まっており、「鉄は熱いうちに打つ」(漆間巌長官)必要があるとの考えからだ。

 六日に開かれた国家公安委員会では、「性犯罪の前歴者の情報を住民にも公開すべきだ」という踏み込んだ意見も複数の委員から出たという。

 ただ、米国などで導入されている前歴者の公開制度については、「差別を助長したり、更生を妨げる」と消極論が強い。漆間長官も法整備に対し前向きな意欲と同時に、「住民に知らせるかどうかは徹底した議論が必要」と慎重に取り組む意向もみせている。また、前歴者の現在の状況把握と合わせて、漆間長官は、刑務所などの施設で更生をさせるためのプログラムを義務付ける措置の必要性なども指摘している。

■識者のコメント

 指宿信・立命館大学法科大学院教授(刑事訴訟法、法情報学)の話 性犯罪の前歴者の現住所を把握するといっても、自ら申し出るよう義務づけたり、転居の届け出を受けた地方自治体が警察に報告することは、新たな法制度を設けねばできない。データベース化された前歴者の情報を公開するとしても、プライバシー保護に優越するような権利を憲法上、住民は持っていない。監視で安全が守られることに依存していると、恐るべき監視社会ができてしまう。犯罪者はいくら更生しても一生レッテルを張られたままになる。将来起こり得る犯罪の情報収集がどこまで許されるのか、そうしたシステムで、社会や個人が何を失うか、冷静に議論すべきだ。

 精神科医の和田秀樹氏の話 残念ながらだが、性犯罪者に関しては情報公開の検討も必要だろう。精神科医としてみると、性犯罪は病気ではなく嗜好(しこう)であり、矯正は大変困難だ。矯正プログラムづくりが進んでいる米国でさえ、矯正できていない。さらに性犯罪が問題なのは、傷害などの犯罪と比べても被害者の心の傷が大きく、しかも一生というくらい長く癒えないことだ。このような状況を考えれば、情報公開のほかにも、犯人の再犯を阻止するために重罰化、さらには去勢やホルモン治療といったことも検討課題といえるだろう。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/sya/20050107/mng_____sya_____008.shtml