悪のニュース記事

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2005年01月02日(日) 00時00分

熱人伝②VS悪質商法 吉田直美さん朝日新聞・

  「敵に回したくない」。誰からも、そう思われる男だ。

  盛岡市の消費生活センターの事務所。悪質業者を相手にすると、声が一段低くなる。受話器を口に押しつけ、相手を論理的に、じりじりと追いつめていく。

  「それは違法行為ですよね。契約は無効。すぐに返金してください」

  電話の相手は、盛岡市内で十数人の若い女性につきまとい、高額な宝石を売りつけた悪質業者だった。被害者からの相談を受け、すぐに契約金返還交渉に乗り出した。

  「これでもう、この業者は盛岡にはこないでしょうね」。受話器を置き、息を大きく吐き出して、ニヤリと笑った。

  悪質業者との交渉は真剣勝負。背景には暴力団の影もちらつく。「あんなにやって、身の安全が心配だ」。そんな周囲の心配にも、本人はどこ吹く風だ。

     ◇

  身に降りかかった二つの不幸が原点だった。

  中1の時、大工だった父を交通事故で失った。深夜の帰宅途中、車にはねられたのだ。運転していた男性は、父が赤信号を無視して渡ってきたと証言した。死人に口なし。無念だった。残された母親は、洋裁の内職で家計を支えた。

  99年、今度は放火で実家が全焼した。隣の空き家に放たれた火は瞬く間に広がり、母が守ってきた家は灰になった。

  「正直者がバカをみる。それがまかり通る社会を、おれは許せない」と思った。

  今は「天職」とも感じる消費生活センターの仕事。社会に出て、そこにたどり着くまでには、15年の月日がたっていた。

  盛岡の高校を卒業後、市内のホテルに就職。「客にNOと言わないサービス」を、徹底的にたたき込まれた。忙しさに、自分の時間が持てないのが不満で1年余で辞めた。公務員に転職すると時間はできたが、事務仕事に情熱を持て余し、青年海外協力隊員に志願。市職員の身分のままソロモン諸島に派遣され、2年間米作りに取り組んだ。その3年後には、今度は市役所を休職してまた2年、バヌアツで援助の仕事に就いた。

  復職して待っていたのが、消費生活センターの仕事だった。

     ◇

  悪質商法に負けない街をつくりたいと思っている。若い人の被害が増えていると知れば、学校などに足を運び、架空請求や悪質商法の危険を訴える。

  「こないだデパートの前で、きれいな女性に声をかけられてね……」などと、キャッチセールスに遭遇した実体験を、大きな身ぶりを交え、ユーモアたっぷりに語る。

  話にひき込まれた中高生たちは「役人の話なんて退屈でつまらないと思っていたけど、かなり楽しめたよ」と、感心する。

  人の良い県民性が踏みにじられるのを見るのは、悲しい。だから悪質業者の新手の手口に遭うたびに、ファイトが沸く。

  「盛岡に来たらお相手させて頂きます」

  矛を収める気は、さらさらない。

 (敬称略)


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http://mytown.asahi.com/iwate/news01.asp?kiji=6991