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2004年11月30日(火) 00時00分

イラク派遣延長と世論  都合の悪い声は『衆愚』 東京新聞

 来月十四日に期限切れとなる自衛隊のイラク派遣延長で、防衛庁長官がテレビ番組で一年間延長の考えをあっさり口にした。一方で、「国民世論も勘案したい」と発言してきた小泉首相は、二十六日の参院特別委で、半数以上が派遣延長反対という世論調査に、「(その結果に)常に従うものではない」と話す。国会審議で「説明責任」も果たされない中、いったい「世論」とは−。

■賛否のワケ聞く市民の試み

 二十八日午後、東京・JR原宿駅近くの神宮橋。パネルを持った少人数のメンバーが、若者たちに派遣延長について「シール投票」を呼びかけていた。

 「賛成」「反対」「分からない」と三分割されたパネルに、シールを張っていく、テレビ番組などでおなじみの手法。若者も結構、気軽にシールを張っていく。張った人にはメンバーが簡単にその理由を聞き、ノートに書き取っていく。

 今月から始まった市民のネットワークによる「世論調査」の一こまだ。

 奇抜なファッションに身を包んだ、横浜市内の中学二年生の少女(14)は「反対」に一票。「社会の授業でやったし興味は持ってる。延長しても何も変わらないでしょ。人が死ぬかもしれない。香田証生さんが首切られて殺されたけど、三日間くらい寝られなかった」

 「分からない」に一票を投じた都内の指圧師、大西達也さん(26)は「もともとの派遣理由すらはっきりしない見切り発車。国会の議論も学校のホームルーム並み、情報不足で判断できないよ」と話し、隣で友人の会社員嶋根悠也さん(26)もうなずいた。

■16都道府県で累計8600人回答

 同様のシール投票は現在、週末を中心に十六都道府県で実施され、累計八千六百十九人(二十八日現在)が回答、延長に賛成は千七十一票(12・4%)、反対六千五百九十票(76・5%)、分からない九百五十八票(11・1%)という結果だ。今後、兵庫、愛知でも実施される予定という。

 呼びかけたのは、金沢市の主婦小原美由紀さん(39)。「小泉首相が今月二日、『派遣延長は国民世論の動向を踏まえ』と発言したが、国民の声をどうやって吸い上げるのか疑問だった。マスコミの世論調査は自分のところに電話がかかってこないし、結果も数字だけで意見の詳細な中身も分からない。調査対象千人程度の調査なら、いっそ自分たちでやれるかな、と」

 初めは金沢、都内など数カ所だったが、ネットの呼びかけなどで広がった。「長崎でも始まったが、私も活動を新聞記事で知った。従来の平和運動組織などに関係ない人が、自発的に始めた例も多い」

 通常の世論調査と違うのは、賛成、反対の数字だけではなく、シール投票の人たちに、それぞれ理由を聞き、それをネット上=http://members3.jcom.home.ne.jp/support-sdf/=で公開していることだろう。

 小原さんが投票で初めて気づかされた事実もある。「『どうせ政府が決めるんだから』という政治への無力感、無関心がよく言われるが、実は直接聞くと、賛成、反対理由にもさまざまな意見が含まれている。『分からない』という回答も、一般的にはものを考えない人ととらえられがちだが、実際には『熟慮しているが判断がつかない』という人が半数以上だった」

 その上で、シール投票の意義について強調する。「賛成、反対の数字を出すことが目的ではない。一般の人が意見を言う場をつくり、スポンジのように街の声を吸い上げたい。平和運動は特別な人がやるものといったイメージがあるが、敷居が低いシール運動に参加することで、微力でも政治にかかわっていることを実感できる」

 こうした市民の側からの「世論調査」とは別に、各メディアが行った調査でも、朝日新聞=賛成25%、反対63%▽毎日新聞=賛成27%、反対51%▽読売新聞=賛成25%、反対53%▽NHK=賛成26%、反対63%−などと、延長反対の数字が並ぶ。

 小泉首相は結局、こうしたさまざまな世論を無視してでも派遣延長を決めてしまうのだろうか。首相が考える世論とは何か。

 政治広報センターの宮川隆義社長は「自分にとって味方になるものが『世論』、そうでないものは『衆愚』の意見にすぎない。始めに結論ありきが小泉流の政治手法。危険な綱渡りだが、自民党内の反小泉勢力も野党も歯止めをかけられなくなっている」と話す。

■追認する国民、首相は『学習』

 明治学院大学の川上和久教授(メディア論)も「就任当初はポピュリズムとやゆされるほど世論を意識したが、在任期間が長くなり変質した。『国民は政府決定を追認する傾向がある』ことを学習したからだ。イラク派遣直後は支持率が低迷したが、その後徐々に回復した事実もある。今回の延長決定でも、時間がたてば世論がついてくるという考えだろう」と分析する。

 「政治の世界では世論に従わず、少数意見を通すべき場合もある。しかし、世論に逆らう方針を取るなら、なぜそうしなければならないのか、きちんと国民に説明する必要がある」と指摘するのは、立教大学の服部孝章教授(メディア法)だ。「説明責任も果たさないうちに、派遣延長を水面下で進めるやり方にずるさを感じる。世論を蔑視(べっし)し、説明責任も果たさず、物事がどんどん進んでいくのを世論があきらめるのを待つという政治手法は、民主政治の大原則にもとる」と厳しく批判した。

 今回のシール投票は、延長期限切れの十四日まで実施されるという。目標は一万人だが、前出の川上氏はこうしたシール投票など、詳細な世論調査の必要性を指摘する。

■『モラルハザード、広がる恐れ』

 「無党派層の増加など市民の価値観が多様化し、マスコミが実施する選挙前の世論調査も当たらなくなってきている。簡単な選択式設問なら、その時の気分で答えるからだ。今回のシール投票や自由記述の小論文などでないと、市民の考えを正確にすくいとれない時勢になっている」

 政治と「世論」が乖離(かいり)するという、こうした状況は何をもたらすのだろうか。

 東京の投票行動に参加した大学教員の今村和宏氏は「国民の一般常識から考えても、全く説明責任を果たさないまま、なし崩し的に延長を決めるという小泉首相のやり方は、開き直りとしか受け取れない。これでは、国会や法律、常識も飛び越えて、何でもありということになってしまう」と話し、こう危ぐした。

 「シール投票で、中高生に話を聞いたとき、感じたのが『小泉さんっていいかげんだよなぁ』という声だった。政治のトップがいいかげんで本当によいのか。このままでは、社会全体にモラルハザード(倫理観の欠如)が広がってしまうのではないか。そちらの方が怖い」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20041130/mng_____tokuho__000.shtml