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2004年11月28日(日) 00時00分

さぬきうどん 『不正表示』で戸惑う現場 東京新聞

 さぬきうどん製品の不正表示事件で、うどんブームに沸く香川県が揺らいでいる。県警が立件へ向け動く一方、ブームを支える人気店などから県に対して怒りの声も上がる。「未完成の県内産小麦を強引に後押しする県の姿勢が事件を引き起こした」といった批判がある。人気に水を差す影響が出るのか。渦中の讃岐路を歩いた。 (藤原正樹)

 周囲に田園地帯が広がる一軒の民家。その前に客が長い行列をつくる。看板が無ければ店舗と分からないたたずまいだ。

 「二玉で!」。うどん玉だけが入ったどんぶりを手渡された客は自分で天ぷらや油揚げなどの具を取り、汁をかける。店内にはテーブルが一つしかなく、客のほとんどは店外でうどんをすする。県内トップクラスの人気店「がもう」(坂出市)ではそんな光景が営業終了の午後二時まで繰り広げられる。東京でも人気を呼ぶセルフうどん店の“原風景”だ。

 同店が使っているのは、豪州産小麦「ASW(オーストラリアン・スタンダード・ホワイト)」で作った小麦粉だけだ。著作「恐るべきさぬきうどん」でブームの発端をつくった四国学院大学の田尾和俊教授は「人気店の大多数がASWしか使っていない。うどん原料小麦の90%はASW。さぬきうどんのうまさとして定着しているのはASWの味」と指摘し「『県産100%でなければ、さぬきうどんではない』という誤解も広がっている。事件が与えたダメージは大きい」。

■「良い物混ぜて事件になった」

 今回の不正表示事件は、県産の「さぬきの夢2000小麦粉100%」と表示した商品の八割が豪州産だったというもの。だが「さぬきの夢の方が“不良品”。良い物を混ぜて事件になった極めて変な例だ」と田尾氏は言う。県は景品表示法に基づいて改善命令を出したが、同法は「実際のものより著しく優良であると一般消費者に誤解される表示」を禁止するもので「これも違反に当たらない」(ある高松市議)。

 さぬきの夢はうどんの原料としてどうなのか。「がもう」の蒲生正店主(57)は「試しに一度さぬきの夢でうどんを作った。味はいいが、ゆでて三十分程度で“腰”がなくなる。ASWなら三時間は持つのに。今の品質では、ゆで玉の持ち帰りがあるウチの店では使えない」と証言する。

 そんな批判がある「さぬきの夢2000」だが、県農業試験場が八年の歳月をかけ、二〇〇〇年に開発した新品種だ。国産小麦としては、最優秀の評価も得ている。県内の産学官が参画した「さぬきの夢2000推進プロジェクトチーム」の尽力が今年七月に放映されたNHK番組「プロジェクトX」でも紹介された。

 同番組に出演した吉原食糧(坂出市)の吉原良一専務は「ASWは確かに高品質だが、自分が子どものころに味わったもちもち感と風味がない。さぬきの夢には懐かしい小麦の香りがする」と話す。

 県農業試験場の多田伸司主席研究員も「うどんブームの影響で全国的に味のレベルが上がっている。さぬきうどんの付加価値を高めるには県産小麦でアピールする必要がある」と強調する一方、「さぬきの夢はASWに比べてグルテン(タンパク質)が少なく腰が弱い。歩留まり率が低く、収穫量に対して小麦粉になる量が少ない。まだまだ改良していかなくては」と弱点も認める。

 多田氏と同じく課題を挙げる関係者は多いが、県が出す「さぬきの夢2000」PRパンフレットには「さぬきの夢はASWを上回る高い評価を得ている」と記載されている。“身内”である多田氏も「自分もどうかと思う」と首を傾げる内容だ。
 
 田尾氏は「素晴らしい商品を開発しようという試みは応援するが、ASWを駆逐するのが目的のようなPRをする真意が分からない。ASWは、さぬきうどん関係者が豪州に技術指導に出向き、日豪の協力で完成したものだ。これこそ優れた先見の明を持った“プロジェクトX”。ASWをおとしめるようなPRは先人の偉業を否定することになる」と批判的だ。
 
■乗り遅れ組の起死回生策に

 さらに、プロジェクトの背景として「さぬきの夢100%を使っているのは、ブームに乗り遅れたうどん店がほとんどだ。起死回生策として新しい物に飛びついたのだろう。県は地元品種の成功で国から補助金を得る狙い。両者の意図が合致したのだろう」と言う。
 実際、農林水産省は食料自給率の向上を掲げて麦作振興の補助金を拡充。生産者の収入を確保する麦作経営安定資金も、来年度から品質評価に応じた支払いにする方針を出している。県が良品質をPRする根拠はあるようだ。
 
 県独自のさぬきの夢栽培農家への助成金制度などで、生産量は急増しているが、県内でうどん生産に使う小麦粉の3%程度でしかない。来年度には県内小麦作付けのすべてがさぬきの夢になる予定だが5%以下だ。それでもプロジェクトでは「生産量が少ない県産小麦を少量ずつ混ぜても魅力がない。ブランド化を進めるには100%の商品が必要」との方針を掲げる。
 
 これを「鶴丸」(高松市)の鶴見康夫店主(56)は「現場を知らない役人が机の上で計算した数字。平地面積が狭い香川県の“猫の額”で、全国ブランドの小麦収穫ができるわけがない」とあきれ返る。「讃岐家」(同)の村川正信店主(57)も「さぬきの夢がASWを超える品種に改良されたとしても、取り合いになり、手に入らない。中途半端な量でしかない」。
 
■生産量以上の「100%」出回る

 不正表示事件が起きた背景もこの辺りにある。前出の蒲生店主は「数%のシェアしかない小麦粉100%の商品を作れというのは無理がある。PRも大きすぎて無理があるから“穴”が出てくる」と、事件を引き起こした歪(ひず)みを指摘する。
 
 さらに、複数の関係者から「さぬきの夢の生産量では考えられないほどの商品が出回っているのは確か。他にも不正表示が発覚しないとは言い切れない」という声も出る。
 
 高松市のデパート「高松天満屋」は、お歳暮商戦でさぬきの夢製品の取り扱いをやめた。同店広報は「県警の捜査も入り、真相が分からない。紛らわしい物は置かない」と説明する。県は抜き打ち検査を近く始める方針で、まだまだ余波は続きそうだ。
 
 吉原専務はそんな批判を超えて、さぬきの夢への支持を求める。
 
 「県産小麦で作ったさぬきうどん復活を願う声も強かった。産官学の協力も異例なら、ASWに迫るような国産小麦ができたのは前例のない画期的なことだ。さぬきの夢は、腰が弱いぶん、しっかり踏み込むなど昔ながらの製法で取り組むことを求められる。伝統的な製法を見直す機会にもなる。ASWとは個性が違うことを認識し、お互いに生かし合えれば」
 
 ただ、前出の市議は「客がネギを切ったり汁を注いだりするのは、貧乏くさくて他県の人に知られると恥ずかしいと昔は思っていたが、観光客から見ると、そんな遊び感覚と、うどん一玉百円以下という庶民的な値段で受けている」として「さぬきうどんの人気は、ブランド化とは一番かけ離れたものだ」と言う。

(メモ)さぬきうどん製品不正表示事件 JA香川県が主にオーストラリア産小麦を原料とするさぬきうどん製品を「さぬきの夢2000小麦粉100%」と不正表示、販売していたのに対し、香川県は8日、日本農林規格(JAS)法と景品表示法に基づき、改善命令を出した。同県警も19日、不正競争防止法違反(虚偽表示)容疑で、JA関連本部や製粉業者などを捜索、立件に向け動きだした。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20041128/mng_____tokuho__000.shtml