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2004年11月16日(火) 00時00分

小泉武夫の食味学 … きりたんぽ読売新聞


昔は新米が口に入る時期が今より1か月以上遅かったとか。そのため、きりたんぽ鍋を食べたのも11月に入ってから。暮から正月にかけてが最もよく食べられたという

 秋田県の名物「きりたんぽ」は元々、冷飯(ひやめし)の料理法として工夫されたものだが、今では普通の料理として客膳にも供せられるようになった有名な郷土料理である。

 日常食の飯を擂鉢(すりばち)で搗(つき)潰し、粘りが出てきたところで細竹に塗りつけ、炭火でこんがりと焼く「たんぽ」(蒲英)の姿は、信州、飛騨、三河の一部に見られる「御幣(ごへい)餅」と同工異曲で、起源は相当に古い。

 昔はその焼き「たんぽ」に胡桃(くるみ)味噌や胡麻(ごま)味噌、山椒(さんしょう)味噌を塗っただけのものであったが、それが鍋料理的な方向に歩みだしてからは、御幣餅と袂(たもと)を分けた。

 始めは温(あった)め返しの味噌汁や冷や汁の中に入れていたのであったが、そのうちに、雑煮(ぞうに)感覚が入って、鍋にさまざまな地産の具を入れた本格的な料理に進化していく。今では鶏肉(有名な比内地鶏などが使われる)、ネギ、セリ、刻みゴボウ、焼豆腐、茸(きのこ)類などが入って、それこそ誠に立派な鍋料理となった。

 「きりたんぽ」は、栄養的に見れば実に優れた食べものである。鶏肉(昔は干魚も使ったという)や豆腐からはしっかりとタンパク質が摂取でき、棒状飯である「たんぽ」からは炭水化物が豊かに得られ、また、さまざまな野菜や茸からは確実に多量の繊維質が体に入ってくる。

 とりわけ、繊維質の摂り方が優れていて、さまざまな出汁を吸った美味な野菜類を沢山食べれるので、実に理想的である。

 体に多量の繊維質が入ると、胆汁酸の分泌を多くして、脂肪の分解や血中のコレステロールや老廃物の過剰を抑えるのに効果的であるばかりでなく、腸管を清掃し、有益な腸内細菌を多く増殖させて、お通じもよくなるのである。

 昔の人は体験的によくその辺りを知っていて、例えばセリを使うにも決して繊維質の塊(かたまり)である根茎などは切り取らずに鍋に放り込んだ。

 稲作民族日本人の考えた稀に見る健康鍋である。

旅行読売2004年12月号より

http://www.yomiuri.co.jp/tabi/gourmet/fudoki/fd041203.htm