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2004年10月19日(火) 00時00分

小泉武夫の食味学 … 芋煮読売新聞


現代の芋煮は牛肉が入っているので、だしを使わなくてもコクのある味わい

 秋の山形の味覚といえば、何と言っても芋煮である。以前、山形市の知人から馬見ヶ崎川の河原で芋煮会をやるというので誘われ、嬉しく参加した思い出がある。その時は、大鍋にサトイモ、コンニャク、ネギ、牛肉が入れられ、味付けは醤油であった。

 その仕方を見ていると、なかなか順序があるもので、はじめにサトイモとコンニャクを煮、それが煮えるころ合いを見て牛肉を入れ、最後にネギを入れていた。コンニャクは、割箸で突ついてから手ちぎりで入れるのは、味を含むようにするためで、ネギを最後に入れるのは煮えすぎると味が出てしまうためだろう。

 調べてみると大正時代から昭和初期までは、牛肉の代わりに鱈(たら)や身欠(みがき)ニシンのような魚の干物を使っていた。

 山形県、岩手県あたりがサトイモの北限で、とりわけ盆地でよく採れる。山形の芋煮会のような野外での芋煮会食はほかに京都や島根県津和野、仙台近郊などの盆地に多いのもそのためなのかも知れない。

 とにかく山形県は、サトイモをよく食べるので、その食習俗も多く、「いも名月」「三九日(みくにち)」など秋の収穫時の行事にはこの芋は不可欠の食材である。サトイモと鶏肉、コンニャク、ニンジン、大根、ネギなどを入れて煮、醤油で味付けし、神仏に供えるのである。サトイモの茎(くき)を干して芋茎(いもがら)にし、味噌汁の具にまでして食べつくすのもサトイモ食文化の濃いことを意味している。

 わが国では古来から「イモ」といえばこのサトイモのことで、その後にジャガイモやサツマイモが渡来してきた。であるからサトイモは、大切な農民信仰、とりわけ畑作儀礼と稲作儀礼の迫間(はざま)にあって、それは多収穫の願いを意味している。即ち、女子が子孫を繁殖せしめるように、芋が小芋、孫芋を生じて蕃殖することに掛けてあるのだ。その吉例にあやかって、サトイモ料理は広く食べられているのである。

旅行読売2004年11月号より

http://www.yomiuri.co.jp/tabi/gourmet/fudoki/fd041103.htm