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2004年10月16日(土) 00時00分

【検証−広がる”オレオレ詐欺”】 ㊤朝日新聞・

 突然の電話、狙われた親心
  怒声に動転、疑う間なく


 金沢市に住む団体職員の長男(23)の携帯電話に母親(55)から着信があったのは9月6日午後1時20分ごろ。その時、母親がついさっき振り込んだ現金15万円はすでに引き出されていた。

 「もしもし、大丈夫?」「え?」「入れたからね、入れたからね」「え、えっ? 何?」「お金入れたからね、大丈夫なの?」「ん? お母さん? どうしたの」「事故のお金。15万円、今、振り込んだよ」「えっ? 何の話、それ」

 長男と二言三言かわすうちに、母親は「あぁ、『オレオレ詐欺』にひっかかっちゃったんだ」と気づいた。「オレオレ詐欺」のことは、新聞やテレビを通して知ってはいた。

 「でも、まさか自分にふりかかるとは思ってもいなかった」

◆◇◆


 東京都府中市の実家。専業主婦の母親がいつものように1人で昼食を済ませた時、家の電話が鳴った。受話器を取ると、泣きじゃくって声にならない声が聞こえてきた。若い男の声だったこともあり、母親は長男かな、と思った。

 泣いて「ごめん」と言うので、「○○なの?」と長男の名前を呼んだ。小さく「そう」と返ってきたので、長男だと確信した。「どうしたの?」。優しい言葉をかけようとしたところ、電話の相手が代わり、怒声が響いた。「お前の息子が組長の車にぶつけた。どないしてくれるんや」

 突然すごまれて、母親は「腰が抜けた」。電話口の男は、長男が警察との話し合いが終わった後に逃げたと怒り、「保険金が出るまでの立て替え金を払え」と現金300万円を要求してきた。

 母親はあわてて家中からお金をかき集め、銀行の現金自動出入機(ATM)へ向かい、現金15万円を振り込んだ。男は母親の携帯電話の番号を聞きだして会話を続け、「早くしないと指を全部切るぞ」「臓器を売り飛ばす」などと言って脅し続けた。

◆◇◆


 家族は母親と会社員の父親(55)、長女(27)、長男の4人暮らしだった。長女が結婚して家を離れ、実家から大学に通っていた長男も就職で金沢へ。専業主婦の母親は平日は1人でいることがほとんど。犯行はそんな日常に、電話1本で突然割り込んできた。

 長男は夏休みに数日帰省していた。この日の親子の会話はそれ以来だったが、母親は「遠くにいる息子のことはいつも気にしている。車に乗っているので事故を起こしやしないかと心配していた」と振り返る。

 「オレオレ詐欺」について、長男は「一体どこのだれがひっかかるんだ」と思っていた。自分の母親が被害者になった時も、「なんで信じてしまったの」と一瞬あきれたが、しばらくすると親心をひしひしと感じて「これからはこまめに連絡しよう」と思い直した。

 長男は言う。

 「被害が15万円で済んでまだ良かったと思うしかない。でも、お金の問題よりも、親子の情愛につけこまれたことが何より許せない」

◇◆◇
 

 身内を装って電話で現金をだまし取る「オレオレ詐欺」が横行している。今年1月からの県内での被害額は1億2千万円を超えた。県警は金融機関などと連携して摘発に躍起だが、手口は巧妙化し続け、いたちごっこが続く。活路はあるのか。被害の実態と防止に向けた取り組みを追った。(10/16)

http://mytown.asahi.com/ishikawa/news01.asp?kiji=8023