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2004年10月13日(水) 00時00分

NHK地域スタッフの反乱 きょう会長に辞任要求 東京新聞

 「皆さまのNHK」に逆風が吹いている。一連の不祥事などで、受信料の不払いと保留が三万一千件を超え、全国で集金や契約などを行う地域スタッフの一部組合が十三日、海老沢勝二会長の辞任を要求する文書を出すという。一方で、管理職千人が不払いの受信者宅に対し“おわび行脚”を始めた。NHKも自浄努力を進めているが、異常事態に波紋は広がる一方だ。視聴者の信頼回復は−。

 「われわれの受信料がいいかげんに使われるのは許せない。海老沢(会長)が辞めてから出直して来い」

 東北地方で地域スタッフとして受信料徴収を請け負う西沢義一さん(50)=仮名=は、戸別訪問先で契約者のけんまくにたじろいだ。

 先月一カ月で六人から支払いを拒否された。「お客さんの九割が銀行口座からの自動引き落としで受信料を払っている。口座引き落としを中止した人が一体どのくらいいるのか分からない」と不安を口にする。

■ごう慢な釈明、怒りの火に油

 不正が発覚した七月下旬ごろから「こんなことに受信料が使われるなら払いたくない」という声が相次ぎ、海老沢会長が先月九日、国会で陳謝した際には「何だあの偉そうな態度は」「頭の下げ方が悪い」といった苦情も加わったという。

 NHKでは一九九三年にドキュメンタリー番組でやらせ問題が発覚し、世論の強い批判を浴びたが、西沢さんは「当時は、支払い拒否のような反応はなかった。二十年以上、徴収の仕事をしているが、こんな経験は初めてだ」と振り返る。

■すでに一部が要求、門前払い

 こうした事態に、NHKの地域スタッフの全日本放送受信料労働組合(全受労、組合員約二百人)の盛岡、横浜両支部が一日、会長辞任を求める文書をそれぞれの担当放送局に出したが、受け取りを拒否された。

 このため、全受労として十三日、あらためて海老沢会長の辞任などを含めた要求書を出すという。全受労の成沢浩中央書記長(72)は話す。「組合員からはわれわれが騒げば、不払いがさらに増えると心配する声もあった。しかし、今までの不祥事では、辛抱していればまた元に戻ることが期待できたが、今回は違う。このままではじり貧状態が続く。議論したが、何とかしなければという声が相次いだ」

 NHKの地域スタッフは全国で約五千七百人。このうち、地域スタッフの組織としては、ほかに日本放送協会集金労働組合(N集労、約三千百人)などがある。地域スタッフは、いずれもNHKと委託契約を結んでおり、契約上は個人事業主になる。

■歩合給を直撃、背景に減収も

 背景には地域スタッフの実情もある。スタッフは固定給十五万円のほかは、いわゆる歩合給だ。受信料不払いや契約拒否は、即減収につながり、生活に直結する。

 「今回の問題で、スタッフはすでに一万数千円から三万円の減収になっている」(成沢氏)という。

 九一年から約十年間、地域スタッフを経験し、「NHK集金人の光と影」という著書がある谷口斗樽氏(67)は、その不安定な身分をこう説明する。「徴収額が少なかったり、客とトラブルを起こす集金人は容赦なく首を切られた。今のような就職難の時代なら募集の苦労もなく、補充の人材はいくらでも見つかる」

 そんな現場の実態を会長ら最高幹部たちは知っているのだろうか。かつて地域スタッフを統括する立場にあったNHKの元営業系幹部は「一度たりとも集金したことのない彼らに現場の苦労など分かるはずがない」と言い切った。

 前出の西沢さんは「スカウト活動で不正をした巨人軍も渡辺恒雄前オーナーが辞めたことで批判が収まった。NHKもけじめをつけてほしい。それが契約者とじかに接しているわれわれの実感だ」と訴える。

 こうした中、今月七日の定例記者会見で、海老沢会長は、全受労の辞任要求の動きに、「どっかの新聞に載っていたが、一部の組合から辞任要求などはきていない。地域スタッフは個人契約で委託業務。名前は労働組合となっているが、最高裁でも組合と認めていない。(辞任要求は)お門違い」と切って捨てた。

 これに対し、成沢書記長は反論する。「たしかに労働基準法上は労働者と認めないとの判例はあったが、労働組合法上では労働者、つまり労働組合と認められている。プロ野球の労働組合と同じだ。実際に、NHKもわれわれと団体交渉は行っているし、値上げ交渉なども行ってきた」

■組合の間にも対応バラツキ

 ただ地域スタッフの組合でも、対応にはばらつきがある。NHK労連傘下のN集労は「(支払い拒否続出で)損害を受けている面もある。経営側とは話し合いの窓口を持っており、こちらの主張を粛々と訴えている。全受労と同じ立場ではない」と話す。

 NHKが発表した不払いなど三万一千件は、海老沢会長自ら会見で「われわれが幹部になってから、記憶にない数字」と話す。この危機感が、前代未聞の管理職千人の行脚につながった。

 NHK経営広報部は「先週末から担当者に一人の管理職がつき、個人宅を中心に回っている。すべての不払い・保留者のところに行くわけではない。訪問では、受信者の意見を聞き、こちらが把握している事実を伝えることで理解を求めたい」と説明する。

■契約解除用紙 束で持つ姿も

 この不払いの数字に疑問を投げかけるのは、元NHK甲府放送局長で椙山女学園大学の川崎泰資教授だ。「公表された数字は集金人から上がった数字だけで、口座引き落とし分の契約解除の数字は含まれていない。もっと多大な不払いが出ているだろう」と指摘。「都内の商店街で集金する銀行員の中には、NHK契約解除の用紙を束で持ち歩く人もいると聞く。『名前とはんこをいただければこちらでやっておきます』というのが、営業サービスになっている」と付け加えた。

 なぜここまで受信料不払いが拡大したのか。放送評論家の佐怒賀三夫氏は「罰則規定がないことを突いた従来の不払いと違い、今回は明確な問題意識がある。説得行脚にも簡単に応じないだろう。一連の不祥事の影響より、(NHK幹部を参考人招致した)衆院総務委員会を生中継しなかったことなど、釈明方法への反発が強い」と分析する。

■冬ソナ元気 組織は末期

 さらに、その隠ぺい体質を指摘する。「NHKは特殊法人なのに、報道機関ということで特別に情報公開義務を免除されている。それでも独自の情報公開制度を作っているが、番組制作費など受信料の使われ方や政治家との付き合いなど、一番重要な情報は公開されない」とした上で、「本質的な情報公開をして透明性を示さなければ、今後も不祥事が続発するだろう」と悲観する。実際、“本体内部”からも不満の声が上がっているようだ。佐怒賀氏の元には、NHK番組制作者から「冬ソナは元気ですが、番組・体制とも末期的状況です」というファクスも届いたという。

 解決策はあるのか。川崎氏は「NHKのOBとして情けないが、開局以来最大の危機だ」として、提言する。「海老沢会長は国会で『原点に返って一から出直す』と答弁したが、本当に原点に返るなら、自民党・総務省に顔を向ける態度を改め、受信者の利益を第一に考えなければならない。職を辞任し、新会長の下で心から謝罪し信頼を回復していくしか道はない」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20041013/mng_____tokuho__000.shtml