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2004年10月10日(日) 00時00分

リスクの大小が問題 東京新聞

 三年間行われてきた牛海綿状脳症(BSE)の感染の有無を調べる全頭検査が近く廃止されます。これにより危険(リスク)が増すかどうかが最大の問題です。

 国産牛はすべてBSE検査をしているから百%安全だ−と思われているかもしれませんが、必ずしもそうとはいえないようです。

 内閣府の食品安全委員会が九月末に名古屋市で開いた市民との「意見交換会」でも「全頭検査より特定危険部位(SRM)の徹底的除去が重要だ」などの声が出ました。

 全頭検査の見直しを容認する意見は、東京都内の厚労、農水両省共催の意見交換会でも見られました。

■月齢20カ月に検出限界

 安全委は九月初め、BSE対策についての中間報告を公表しました。

 その中で、二〇〇一年十月以来の約三百五十万頭の全頭検査の結果をもとに、月齢二十一カ月以上の牛では、今後もBSEの病原体である異常プリオンの存在を確認できる可能性があると強調しました。

 その半面、二十カ月以下の感染牛を確認できなかったことは「今後のBSE対策を検討する上で十分考慮すべき事実」とも述べています。

 要するに、現在の検査法では二十カ月付近に検出限界があると言っているのです。両省はこの中間報告をもとに、近くBSE検査の対象を全頭から二十一カ月以上に緩和する見直し案をまとめることにしています。

 問題は、この二十カ月の線引きが妥当かどうかです。

 どんな病原体の検査法にも検出限界があり、例えば献血時の検査でもエイズや肝炎ウイルスを完全には検出できません。仮に、ゼロリスクを求めるならば輸血を完全に禁止しなければならなくなります。

 同様にBSE検査にも検出限界がある以上、それ以下の月齢牛の検査を行っても異常プリオンの確認は不可能です。牛肉を食べないことが最も安全ですが、非現実的でしょう。

■消費者も冷静な判断を

 むしろ問題にすべきは全頭検査をやめたときのリスクの大きさです。

 感染牛が多発した英国では、それを食べたことが原因と思われる神経系の致死的疾患である「クロイツフェルト・ヤコブ病」患者がこれまでに百四十七人発生しました。将来五千人に達するとの見方もあります。

 ですが、わが国ではBSE対策がとられる前といえども、英国などから輸入された牛の頭数、牛由来の飼料(肉骨粉)の量が少ないうえ、それらをもとにした試算でも、患者の発生は将来にわたり最大限一人未満と推計されています。

 これは感染牛を丸ごと食べたとの前提ですが、日本には英国のような牛の脳を食べる習慣がなく、実際のリスクはさらに小さいのです。そのうえ、〇一年から始まったBSE検査などの対策で、リスクはいっそう減っていると考えられます。

 それでも「危険」とみるか「ほとんど安全」とみるかは各自の受け止め方次第でしょう。

 全頭検査をやめる以上、他の対策を強化する必要があります。現状ではまだ不十分です。異常プリオンのほとんどは脳や脊髄(せきずい)、腸などのSRMに蓄積しますが、牛を解体する際のその除去、牛用と鶏など他の動物用飼料が混ざらないような飼料規制をいっそう強化しなければなりません。それをどう保障するか、厚労、農水両省には大きな課題です。検出限界の改善をはじめとする技術開発にも努めなければなりません。

 全頭検査は、消費者の混乱や不安を静めるために必要でした。岐阜県など一部自治体が独自に全頭検査を継続するのも過渡期の対応としてやむを得ないでしょう。ですが、BSE発生から三年たったいま、消費者にもリスクの大きさを見極める冷静さが求められています。

 全頭検査の廃止について安全委や両省は「あくまで国内のBSE対策の見直し」と言っています。しかし、国民が懸念するのは、それが昨年末に感染牛が確認されて以来途絶えている米国産牛肉の輸入再開交渉にかかわってくるからです。

 その場合、米国には日本と同等のBSE対策を求めなければなりません。現状では二十カ月以下のBSE検査を免除しても、日本のような牛の個別管理が不徹底の米国で順守されるかどうか疑問です。日米専門家会合で、米国は牛肉の色など肉質による月齢の判定法を提案していますが、こんなあいまいな方法では日本の消費者は納得しないでしょう。

 わが国ではSRMの除去をすべての牛について行ってきました。今後もこの方針を堅持する考えですが、米国の対象は三十カ月以上で、先進国で最も緩いのも気がかりです。

■米国にも同等の規制を

 実際に輸入を再開するには、米国が月齢の正確な把握と同時に、日本並みのSRM除去を証明することが不可欠です。日本がそれを無条件で検証、立ち入り調査などができる体制づくりを求めることも必要です。

 へたに譲歩すれば、全頭検査の廃止は、国民の不安を尻目に米国産牛肉の輸入を再開するのが目的だったという非難は免れえません。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/sha/20041010/col_____sha_____001.shtml