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2004年10月09日(土) 00時00分

巧妙化おれおれ詐欺 東京新聞

 百億円を突破−。「おれおれ詐欺」による今年一−八月までの被害額が、過去最悪を更新した。これまで高齢者に集中していた被害が、四十−五十歳代を中心に若年化している。最近は、あらかじめ被害者方の氏名や家族状況などの個人情報を入手、家族や友人などの名をかたり、相手を信じ込ます手口が目立つ。対策をすり抜けるように犯行は巧妙化、被害は拡大する一方だ。

■『事故の相手流産しそう』

 その電話はやけに早口の男からだった。

 「〇〇さん(二男の実名)の会社の同僚のマツイだが、〇〇さんが車の運転中、都内の交差点で事故を起こした。相手は二人で、うち一人は妊婦。流産しそうなので、病院に運んだ。〇〇さんは警察に行っているので、私が代わりに病院に来ている」

 横浜市内で一人暮らしの女性(78)宅に、こんな電話がかかってきたのは先月だった。マツイという同僚は実在する。二男の名前を聞いたこともあり、女性は信用したが、うその話だった。ただ、長男に連絡するよう主張したため、電話が切れた。金の請求前に犯行をあきらめたらしい。

 おれおれ詐欺は、高齢者を狙いその子どもや孫などになりすます手口だが、最近は家族の名前を自ら名乗る手口が目立つ。個人情報を入手、犯行に利用しているようだ。

 先月、都内の私立高校を卒業、都内の国立大学に通う男性(21)宅に、本人を名乗った電話があった。母親が出ると「〇〇だけど、お母さん?」。しかし、自宅に本人がいたため、「息子ならいますが…」と答えると電話は切れた。

 同じ高校の別の卒業生宅などにも、息子や孫を名乗った電話がかかってきている。手口は「付き合っている女性が妊娠してしまい、中絶するために金がいる」というものだった。

 埼玉県内の会社員(49)宅に、同じ高校を卒業した長男あてに、作る予定のない卒業生名簿製作を名目に、携帯電話番号を聞き出そうとした電話もあった。他の卒業生宅にも同様の電話がかかってきた。おれおれ詐欺との関連は不明だが、この会社員は「名前を知っていることから、この高校の名簿が流出しているようだ」と話す。

 卒業名簿などが悪用されたとみられるケースは、今夏、都内の大学でも相次いだ。

 「保護者会から『危険なので、名簿を作るのをやめた』と連絡を受けた」と明かすのは北里大学総務課だ。同大では、今夏を中心に七日までに八十二件のおれおれ詐欺の被害報告があった。実害があったのは六件で、被害は一件二百万円くらいだという。

 手口は「交通事故を持ち出し弁護士や警官を名乗り、次に子息が出てくる劇団型。子息の携帯の番号を会話で聞きだし父母側が子息に連絡を取るのを妨害するケースもあった」(同課)。

 同課は「被害には特定の学年が多く、保護者会が作っている名簿が利用された可能性がある。今は電話があれば、生年月日を質問するなど、確認行為を注意しており、被害は収まった。名簿にどこまで情報を載せるか検討中だ」と話す。

 日本大学でも先月までに、学生らから被害報告が八件あった。広報課は「同じ学部生で、出身高校が一緒の学生に被害が多く、出身校の卒業名簿が悪用されたことも考えられる。今後は、名簿の扱いもより注意しないといけないかもしれない」と言う。やはり高校の卒業名簿などの個人情報が使われた可能性がある。

■40—50歳代の被害最も多く

 警察庁によると、今年一−八月の被害総額は昨年一年間の約四十三億二千万円から倍増した=右面グラフ参照。被害者も四十−五十歳代が多く、これら高校の卒業名簿の対象となる世帯とも一致する。

 どうやって個人情報を入手しているのか。

 ヤミ金融に詳しいフリーライターの金賢氏は「ヤミ金業者の中には、取り締まりが厳しくなってきて、架空請求やおれおれ詐欺に移る業者もいる」とした上で、手口を説明する。「ヤミ金業者が出した広告に電話をかけてきた人に、家族や住所、職場などいろいろなことを根掘り葉掘り聞いて入手する。また裏の名簿業者から一件十円とか、五十円とかで個人情報を買うこともある。こうした名簿が、おれおれ詐欺に利用される可能性はある」

 個人情報の流出は、ネット上でも起こる。インターネットジャーナリストの森一矢氏は「外部からの依頼で、ネットサイト管理者内部の人間が漏らすのがほとんどだが、管理者側が業者に情報を流す場合もある。出会い系サイトの無料登録の情報なら一件三、四百円。有料登録なら一件三、四千円で取引される」と明かす。

 さらに「アンケートやプレゼントなどの告知を出すケースもある。プレゼントなどを告知すれば、二、三週間で、十万件くらい集まる場合もある。その情報が売られることもある。プレゼントにつられ、入力する行為の怖さを知った方がよい」とも指摘する。

 被害者の性別構成は全体の七割以上が女性だ。

 おれおれ詐欺に詳しい村千鶴子弁護士は「犯人が被害者宅に電話して午後三時までに銀行口座に振り込ませるには、午後二時ごろに電話するのが通常パターン。その時間帯に在宅している層は限られ、以前は同居していない高齢者層がターゲットだったが、今は対象年齢は『何でもあり』となっている」とみる。

 「犯人側にすれば、いかにもありそうな現実性のある話で、生々しさを演出できるかが一番のポイント」と静岡県立大学の西田公昭助教授(社会心理学)が指摘するように、個人情報を駆使してもっともらしさをさらに補強しているともいえる。

 警察官などを名乗る手口も多い。犯人は、相手の反応に合わせて話を修正しながら、データを積み重ねているが、被害者はそうはいかない。

 西田氏は「今まで接したことのない警察官や弁護士が登場し、対応が分からないところに、恐怖感と時間がないという切迫感のセットでパニック状態に追い込み、被害者をおぼれさせて縄を投げるのが手口。被害者は経験がないから対処方法を知らず、ワラをもすがる思いで飛びついてしまう」と被害者心理を分析する。

■『私は大丈夫』認識を変えて

 対策について西田氏は「多くは『私だけは大丈夫だ』と勝手に思いこんでいるが、自分もだまされることはあると認識すべきだ。家族構成などの個人情報の多くは漏れているということを前提に対処が必要だ」と警鐘を鳴らす。

 村弁護士はこう提案する。「警察と名乗る相手からの電話の場合は、所属の警察署や担当を聞いてこちらからかけ直す。その場合、相手から聞いた電話番号でなく、こちらで確認した番号に連絡することが重要。すぐに新手の手口が現れ、いたちごっこだが、家族で日ごろから、不審電話への対応策やお互いの確認方法、金銭が絡む処理方法などについて共通認識を持っておくことも大切だ」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20041009/mng_____tokuho__000.shtml