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2004年09月28日(火) 00時00分

小泉武夫の食味学 … タコ飯読売新聞


噛めば噛むほど旨味が口の中に広がるタコ飯

 兵庫県明石市と淡路島との間が、有名な明石海峡で、日本有数の潮の流れの速いところである。明石側の神戸市舞子と、淡路町松帆の浦は、海峡の幅たったの4キロで、潮流最強時は時速9キロの速さで潮が流れている。

 潮の流れの速いところは、魚介類がとても美味で、豊予海峡(大分県佐賀関と愛媛県佐田岬)の関サバや関アジ、鳴門海峡(徳島県鳴門市と兵庫県淡路島)の鯛、そしてこの明石海峡のタコなどはその象徴的地域である。

 潮の流れが速いと、なぜ魚は美味かというと、その速い流れに抗して、魚たちが常に激しく動かざるを得ず、従って肉質はしっかりと締まり、味が乗るのだ、といわれている。明石海峡のタコは、昔からその美味さは多くの文献に登場し、「麦藁蛸に祭鱧」といわれるほど夏から晩夏、初秋が旬とされている。

 タコの食べ方は刺し身、三杯酢、寿司種、煮つけ、おでん(関東煮)などいろいろあるが、「タコ飯」も実に美味しいタコの賞味法である。タコ飯は、生ダコを小さく切り、それに酒、醤油、味醂などで濃い目に煮たものを飯に炊き込むのが一般的であるが、明石市二見あたりでは干したタコを使うのが妙だ。干したタコは余分な水分が飛んで、ぐっと身が締まり、味も濃くなる。それを細片して酒や醤油、みりんなどで調味し、これを飯に炊き込むと、タコの身から出たうま味は、飯にほどよく味を付け、またタコの身には飯の甘味が入っていって、互いが絶妙の味を持つことになる。そして、飯のほかほかとした柔らかさと、一夜干したタコならではのシコシコとした快い硬さの歯応えが素晴らしい対比感を生むのである。干したタコを使うと、このような妙味を味わえるだけでなく、干すことによってその保存性を生かせば、いつでも食べられるという生活の知恵も絡んでいるのである。

 鮹壺やはかなき夢を夏の月  芭蕉

旅行読売2004年10月号より

http://www.yomiuri.co.jp/tabi/gourmet/fudoki/fd041003.htm