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2004年09月22日(水) 00時00分

子どもを守ろう 盛岡の『前歴情報提供』問題(下) 識者に聞く 東京新聞

 盛岡東署が行方不明となった元服役囚男性の前歴情報を市教委に提供した問題。「子どもの安全優先か」「男性の人権保護か」。子どもが被害に遭う事件が続く中、二者択一で答えを出せるだろうか。識者に聞いた。

■小山洋子さん<東京都小学校PTA協議会相談役>

 市民に必要な情報は人権に配慮しつつ公開されなければならない。警察は、誠実に情報提供したと思う。「あとは子どもの安全確保のため何が必要か、考えてください」と現場を信頼しての判断だっただろう。

 だが、市民への情報提供の「プロ」であるはずの教育委員会や学校が、提供に不慣れだったと感じる。

 一般的に考えても今回は「誘拐殺人」までは必要なかったと思う。警察からの情報を保護者や子どもたちに提供する前に、もう一度考える作業を怠っていなかったか。

 これまでは地域で事件が起きても、警察も教委も個人情報は囲い込んできた。そのため子どもへの犯罪がエスカレートする例も少なくなかった。

 今、事件の増加を背景に状況は急激に変化し、情報も公開されているが、扱い方が不慣れなら混乱も生じる。そのときに大事なのは、特定機関や個人を批判し「もう情報提供しない」と逆戻りさせないこと。連絡体制や表現法を見直し、情報伝達のレベルを上げる好機にしてほしい。

 「子どもの安全か、人権保護か」という対立的な議論はどこまでも平行線で物事を解決しない。今回も「命を救う」「人間を大切にする」と考えれば精神障害者も子どもも共に守るもので、すぐ対立構図でとらえるメディアも問題だと思う。

 風聞を広げ、不安をあおるという危険は、不審者情報の提供にいつも伴う。情報の扱い方などは個々人がその都度、常識や状況に照らして考えてほしい。警察と学校側の日常的なコミュニケーションが大事だと思う。

■大澤真幸さん<京都大大学院助教授(比較社会学)>

 私も一児の父だし、親たちの気持ちはよくわかる。それでも、今回の警察の対応は行き過ぎだったと思う。

 この男性はすでに刑期を終え、精神病院も他人を傷つける危険がないと判断して外出を許可している。

 私たちの社会には、いろいろな人がいる。中には、過ち(犯罪)を犯す人もいる。そのために法があり、裁きがある。逆に言えば、私たちの社会は、法にのっとって刑を終えた者は受け入れる覚悟を持っているということではないか。

 とすれば、どんな前歴者に対しても、まして精神障害者に対しては差別的に対応すべきではない。警察はせいぜい、しかじかの特徴を有する精神障害者の方が、付近で行方不明になっているので、気が付いた方は通報をしてほしい、という連絡にとどめるべきだった。

 私は、地域の人がほとんど全員一致の形で警察の対応をよしとしていることに…コミュニティーが、法の精神が想定しているものよりもはるかに低い寛容さしか持っていないことに驚いている。

 学校の先生たちには、こうしたときにこそ、日ごろ説いている平等の理念や開かれた社会への意思が本物であることを行動で示してほしい。

 同様のケースでは、男性を差別するような説明はしないで、今回のように子どもたちを通学路ごとにグループ分けし、先生たちが全員協力して子どもの帰宅に最後まで付き添うというやり方が考えられる。そうすれば、行方不明者に遭遇しても適切に対応できるのではないだろうか。

■取材記者から

 現地を取材すると、市教委や学校、保護者のほか、多くの市民が一様に警察の対応を支持していた。「人権侵害」を危ぐする声はほとんど聞かれなかった。今や、子どもが犠牲となる事件は後を絶たず都会、地方を問わない。それだけ市民の危機感が強いことの裏返しなのかもしれない。

 市民の安全を守るには、必要な情報の迅速な公開が欠かせない。その情報はできるだけ詳しくなければ教育現場に危機感は伝わらず、取るべき行動も的確に判断できない。

 だが、情報を詳しくすれば当事者の人権を侵害する恐れが伴う。どこまでならいいかの判断も常に、難しい。

 やはり、人権に最大限に気を配りつつ、その都度、答えを出すしかないのだろう。情報提供に苦慮する現場を一刀両断的に批判するような言動は、思考も議論も止めてしまいかねない。柔軟で前向きな議論を重ね、子どもが安全に暮らせる環境を社会全体でつくっていきたい。

  (岩岡 千景)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20040922/ftu_____kur_____001.shtml