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2004年09月14日(火) 00時00分

温泉法改正 待ったなし 東京新聞

 長野県・白骨温泉に端を発した「温泉偽装」問題で、環境省がようやく重い腰を上げ、五十六年ぶりとなる温泉法の抜本的見直しに向け検討に入った。全国の有名温泉まで名前を連ねた問題だが、果たして温泉そのものの信頼回復は図れるのか。温泉学者が指摘する『望まれる温泉』の姿とは。

 「都心の海辺にこんな巨大な温泉場ができるとは」。十三日、都内で開かれた日本温泉科学会(会長・岡田晃・元金沢大学長)に出席し、お台場の温泉施設「大江戸温泉物語」を視察した学者からは大きな声が上がった。

 昨年三月オープンしたこの施設は敷地面積九千九百平方メートル、浴場施設としては全国最大規模だ。初年度百二十六万人が利用した。

 浴槽は男女で計十四カ所(サウナ除く)。地下千四百メートルから温泉をくみ上げるが、施設担当者は「源泉を使用する浴槽は男女各一カ所だけ。そのほかは白湯(さゆ)です」と明かす。

 温泉の分析を担当した中央温泉研究所の甘露寺泰雄所長は「ここは源泉使用の浴槽は明示しており、おのずと浴槽ごとの違いは分かる。温泉地としてはかなり良心的では」と説明する。

 しかし、白骨温泉での問題発覚後、各都道府県の調査で水道水や井戸水をわかし“温泉”を名乗る宿泊地が相次いで見つかり、「看板に偽りあり」の宿は後を絶たない。

 北海道では道庁が「自主点検の結果、道内は問題なし」と発表後、小樽市が二〇〇二年十二月中、朝里川温泉で、市営の配湯施設から温泉でなく水道水をホテルなどに送っていたことが判明。宮城県では、井戸水を沸かすなどし温泉と表示していた施設が二十四軒、群馬県では伊香保温泉などで井戸水などを使用しながら温泉と混同される表示をしていた宿泊施設が十五軒に上った。

 北陸では福井県の芦原(あわら)温泉で四軒が水道水や井戸水を使用しながら温泉と表示。三重県の湯の山温泉で一軒が水道水を使用しながら入湯税まで徴収、最初に問題になった長野県では白骨温泉以外で入浴剤を入れていた施設が十軒判明した。

 関西では、神戸市の有馬温泉の二施設が温泉法の利用許可を受けずに営業。京都府では笠置町の旅館一軒が七年前に温泉が枯渇して以降も“温泉旅館”として営業し、九州では熊本県南小国町の民宿が温泉枯渇後十年間も入湯税を徴収するなど、本紙調査分だけでも十三日現在で十八道府県に上っている。

 こうした問題が噴出する中開かれた日本温泉科学会では、学者らから、温泉の現状や温泉法の対応の遅れを懸念する声が相次いだ。

■「泉質の変化は相当数に上る」

 今学会定期大会を主宰する大山正雄理事(大会会長)は「竹下元首相のふるさと創生基金に支えられ、一九七三年度に約一万六千カ所あった全国の源泉数が九〇年度は約二万二千カ所に増えた(図参照・大山理事提供)。国内には約二千五百カ所以上の温泉地があるが、湧出量の減少や泉質の変化が起きている温泉は相当数に上る。限られた資源を利用していけば当然生まれる結果だ」と指摘する。

 その上で、温泉法の最大の問題点として「一度利用許可を受けて温泉成分を分析してしまえば、永久に変更しなくてもよいというのは、実態を考えればおかしい。温泉は自然物。開発の影響も考えられ、五年ごとの点検、分析は法的に定めるべき」と強調する。さらに「現行では、極論すればおちょこ一杯でも温泉が入った浴槽は“温泉”と言える。熱い温泉の場合、加水してさます場合もあるが程度問題。源泉に対する加水割合を明確に表示しなければ『100%温泉』と信じる顧客をだますことになる」と訴える。

 そして科学的見地から温泉法の抱える根本的問題点をこう明かす。

 「法律で温泉として認める成分の一つとしてメタ珪酸(けいさん)が掲げられているが、これは法律のお手本とした欧州の内容をそのまま引用したもの。欧州ではこの成分が特殊だったが、日本は火山国ゆえに成分の元になる安山岩が多い。冷たくてもこの成分さえ出た水は、すべて温泉になってしまう」

 前述の甘露寺氏は、現在、浴槽の温泉について、循環式よりも源泉かけ流しを重視する声が上がっていることに「かつてはどこの温泉もかけ流しだったが、浴槽を掃除しないまま、ばい菌が繁殖する問題があり、六〇年代から殺菌機能のある循環式が取り入れられた経緯がある。いたずらにかけ流しを珍重するのは衛生上問題がある」と指摘。入浴剤の投入についても「四十年前から使っている温泉地もあるし、専用の入浴剤を開発している製薬会社もある。時節柄やたらに非難する傾向があるが、要は表示の問題で利用者にきちんと説明されていれば問題は起きない」と強調する。

■「飲用の効能も明確化が必要」

 その上で、温泉法に関しては「温泉療法の面では、飲用の際の効能など、薬事法と関連し明確化すべき。さらに温泉地から流れ出る排水をどう処理すべきか。年間数百件の新たな掘削が行われる中、河川の生態系への影響を視野に入れた対応もしなければ」と言葉を強める。

 こうした学識者の声について、温泉法改正に向け検討に入った環境省はどう受け止めているのか。

 ある幹部は「現場は相当混乱している。早急に手を打つためにも、まず省令を改正し、浴槽ごとの表示やかけ流しの有無など表示方法から手を付けたい。法改正を来年初めの通常国会に間に合わすのは時間的に厳しいが、来年度中には国民が納得できるような法律を整備したい」と説明する。

 しかし、別の幹部は「これだけ国民の関心が高い重要案件。省令だけの改正で当面乗り切るのはどうか。追い風の吹いている今こそ通常国会に向け全力で取り組むべきでは」と話す。

 一方、ある幹部はこう声をひそめる。「温泉地の旅館組合は与野党問わず最も堅い票田で、かついずれも中小か零細業者。この問題では総論賛成だが各論は絶対反対だ。法改正のプロセスの中で表立ってではないが、はた目には分からない形で圧力をかけてくることもあり得る。相当な覚悟が必要だ」

 法改正を志向しながらどこか慎重な国の姿勢に大山理事はこう警鐘を鳴らす。

 「旅館は零細かもしれないが、国民一人が宿に泊まれば一万円以上は落とす一大産業になっていることを見落としてはならない。小泉首相は日本の観光立国をアピールしているが、基本は温泉。温泉地を今のような混乱状態に放置したままでは、海外のどこからもお客さんを呼べなくなる」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040914/mng_____tokuho__000.shtml