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2004年08月29日(日) 00時00分

批判派『プライバシー侵害ソフト』 擁護派『次世代のネットシステム』 ウィニー論争さらに過熱 東京新聞

 ファイル共有ソフト「Winny(ウィニー)」を開発し、著作権法違反容疑(侵害ほう助)で逮捕された東大大学院助手金子勇被告(34)の初公判が、九月一日に開かれる。法廷の場での審理を待たず、ウィニーをめぐっては「次世代のネットシステム」か「プライバシー侵害ソフト」かで、その論議は続いている。逮捕から約四カ月たった現在、激論のボルテージは上がる一方だ。

 「著作権侵害をさせるためのものとして開発したのではない。侵害をした正犯者の二人と面識がなく彼らが著作権違反をするなど全く分からなかった」

 金子被告は逮捕当初、容疑を認める供述をしていたとされるが、現在はこう全面否認に転じている。

 弁護士十数人でつくる「Winny弁護団」事務局長の壇俊光弁護士は「法定速度以上で走ることができる自動車を作り、運転者が速度違反で逮捕されても、自動車メーカーの技術者は逮捕されない。金子被告は違法なファイルをやりとりしないように求める説明書をウィニーに添付しており、利用者が悪用したにすぎない。結局は利用者のモラルと著作権侵害をしやすいウィニーの周辺環境の問題だ」と訴える。

 京都府警が、金子被告がネット上の掲示板で「47氏」という名前で書き込んでいた内容を「警察に対する挑発」ととらえ、悪用されることを前提として開発したと判断した点については「金子被告になりすました人物が47氏の名前で書き込んでいるケースが相当ある」と反論する。

 ウィニーは、映像や音楽などの情報を共有、交換し合えるソフト。欲しい情報を短時間で検索できる。人気情報などはネットワーク上に大量に複製、広がるため著作権侵害と指摘されている。

■処罰すれば開発者委縮

 だが弁護団は、ウィニーの特徴として、大容量のデータをやりとりするのに適した次世代のシステムとして有用で、匿名性が高く自由な言論を保障するのに有効だと主張する。高い匿名性からプライバシーが守られるソフトとして評価する専門家も多い。

 従来の「サーバー/クライアント型ネットワーク」の場合=図参照、末端の個々のパソコンはすべて情報を配信するコンピューターであるサーバーにつながり、サーバー側は利用者の特定が可能だ。そのため利用者が発信する情報がサーバー管理者に問題があると判断された場合、その利用者との接続を断ち切られたり、発信情報を削除される場合もある。

 これに対し、ウィニーのような「ピア(仲間、人の意味)トゥピア型(P2P)ネットワーク」は、個々のパソコン同士が結びついており、サーバーはない。管理者もおらず、情報発信などやりとりは自由だ。新たなネットビジネスにつながる可能性を秘めているといわれる。

 「この仕組み自体が従来のネットに置き換えられうる」と弁護団の一人は話し、壇弁護士は「このようなすばらしい技術の開発者を処罰すれば、開発者が委縮して技術の発展が止まる」と危ぐする。

 ネット上で自然発生的に結成された「金子氏を支える会」にはこうした主張に賛同した人々から一千五百万円を超える寄付が集まり、壇弁護士は「今回の不当逮捕への関心の高さを実感する」と自信を見せる。

■双方の主張すべて公開

 こうした主張や経緯は、基本的にすべてネット上で公開されている。これらを参考に他の弁護士や学者、コンピューター技術者も盛んに議論を戦わせている。中には、もちろんウィニーに否定的な意見もある。

 独立行政法人産業技術総合研究所グリッド研究センターの高木浩光・セキュアプログラミングチーム長もその一人だ。コンピューターセキュリティーの専門家の立場から「ウィニーは著作権侵害だけではなく、一般市民のプライバシーを侵害する装置として使える」と批判し続けている。

 高木氏によれば、ウィニーの問題点の一つは、一度ネット上に提供されたファイルは、削除することができない点だ。

 「ある特定の人物を攻撃する目的で、その人物の盗撮映像をウィニーに出すと、途中で削除できないままどんどん広がる。回復不能で重大なプライバシー侵害を引き起こすことができる。ウィニーにも削除機能はあるという主張もあるが、機能していない」

 個々のパソコンがファイルを中継し、分散して効率的に通信処理を行うこともウィニーの特徴だが、それを実現するため、中継に使われたパソコンにはファイルが残り、暗号化されて表示される。

 「ユーザーは中継したファイルの多くが違法だと知っていたはずだが、暗号化されているから自分が権利侵害に加担していることを認識しにくい。ユーザーのモラルを低下させ、うそつきにするシステムだ」

 さらに高木氏は「言論の自由の保障や匿名性を保証するシステムの研究は大事だ」と前置きした上で、そもそもウィニーが生まれた経緯を疑問視する。

 「外国人が作ったWinMXというファイル交換ソフトを使い違法なファイル交換をした学生二人が二〇〇一年に逮捕された。これを機にMXでは匿名性が低く違法なファイル交換が当局に発覚するということで、次のソフトが模索され始めた。匿名性を高めたウィニーが登場したのはこういう経緯からで、金子被告つまり47氏も盛んにこの点を宣伝していた」と指摘。「P2P利用の新しいビジネス展開などという理屈は後付けだ」と手厳しい。

■現職検事が論戦参加?

 否定派の論陣には異色の人物も登場している。ウィニー関連の話題を扱うウェブログ(ホームページの一種)に書き込みをしていた人物だが、ハイテク犯罪に精通し“ハッカー検事”といわれる現職検事だと指摘されている。

 壇弁護士が開設したウェブログでも金子被告を批判。別のウェブログでは「ハイテク犯罪の有罪率はほぼ百パーセントなので勝ち目がない」「弁護方針としては全面降伏執行猶予狙いも一考です」などと書き込んだため、「本当に検事だとすればどういう意図なのか」と問題視する声も上がった。

 一連の論争について、情報ネットワーク法学会副理事長で、南山大学教授の町村泰貴氏は「それだけ金子被告の逮捕の衝撃が大きかったということだろう」と話す。

 「映像でも音楽でも文章でも、ものごとを公表する従来の秩序をゲリラ的に破壊しながら進み、事件や論争を経て徐々にビジネス化、合法化してきたのがインターネットだ。数年前なら電子商取引など危なくて信頼できなかったが、それは使ってみて問題点が明らかになったから。ウィニーも同じだ」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040829/mng_____tokuho__000.shtml