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2004年08月26日(木) 04時03分

「誘拐殺人の前歴者が行方不明」警察情報で集団下校読売新聞

 盛岡市内でかつて身代金目的の男児誘拐殺人事件を起こした元服役囚の男性が24日、入院先の病院からの外出中に姿を消したのを受けて、岩手県警盛岡東署が、実名を伏せるなどの配慮をした上で、前歴を含めた男性の情報を盛岡市教委に伝えていたことがわかった。

 情報提供を受けた市内の小中学校の一部は、授業を打ち切って児童生徒を集団下校させるなどの措置をとった。男性は25日午前、東京都内で保護された。父母らからは、「適切な処置」「当然だ」とする一方で、「子どもたちの不安をあおった面はなかったのか」との声も上がった。

 盛岡東署によると、24日正午過ぎ、盛岡市内の病院から「入院中の男性患者が外出先から帰らないので捜して欲しい」と捜索願が出された。病院は「男性は精神的に安定しており、自分や他人を傷つける恐れがない」として外出許可を出していたという。

 同署が調べたところ、男性は誘拐、殺人などの罪で実刑判決を受け、刑期を終えた元服役囚とわかった。同署は「万が一もあるので学校関係には情報提供した方がいい」と判断、盛岡市教委に「過去、男児誘拐殺人事件を起こした男性が病院から外出中、行方不明になった。注意してほしい」と電話で連絡した。実名を伏せたうえで年齢、身長、服装、髪形も伝えた。

 盛岡市教委から報告を受けた県教委は内容を書いたメモを、滝沢村など周辺10町村の教育委員会や高校にファクス。連絡を受けた盛岡市内のある小学校は6時間目の授業を取りやめ、児童を集団下校させた。父母が相次いで車で迎えに駆け付けた中学校もあった。

 また、不安を抱いた父母の間では「殺人犯が脱走した」「子供を狙ってすぐに犯罪を犯す可能性がある」といった話も飛び交ったという。

 教育機関への情報提供について、盛岡東署の佐々木芳春副署長は「住民の安全を第一に考えて情報を提供した。判断に誤りはなかったと考えている」と話す。これに対し、日弁連人権擁護委員長の佐々木健次弁護士(仙台市)は「前歴情報は当人への偏見をあおりかねない、最も大切なプライバシーの一つ。警察の対応に行きすぎた面があったのではないか」と指摘する。

 一方、盛岡市教委や滝沢村教委は「長崎の女児殺害や池田小事件など、最近は子どもが巻き込まれる事件が多く、教育現場はいつも身構えている状態。警察の連絡は子どもの安全を最優先に考えた適切な処置だった」と評価する。

 盛岡市内の小学校PTA役員の女性(38)は「プライバシーの大切さは分かるが、子どもの安全にかかわることなので、今回の情報提供は当然だと思う。親としては、同じ犯罪を繰り返さないとも限らないという不安がぬぐえない」とし、滝沢村内の中学校に息子2人を通わせている男性(46)は「子どもが襲われる事件が、いつどこで起こっても不思議ではない時代。警察から素早く情報が提供されてありがたかった半面、子どもの不安をあおったのではないかという心配もある」と話した。

 ◆住民への犯罪情報提供の動き広がる◆

 再被害を恐れる犯罪被害者に、加害者の情報を知らせる「出所情報通知制度」が始まったのは2001年10月。被害者は検察庁などを通じて、受刑者の出所予定時期や、場合によっては、出所後の居住地も知ることができるようになった。

 欧米では、常習的な性犯罪者の顔写真や住所などを公表して、地域の人々に注意を呼び掛ける取り組みがすでに広がっており、国内でも、自治体が警察の協力を得て、子供が巻き込まれた犯罪に関する情報を住民に提供しようという動きが出始めている。

 こうした流れの中で今回岩手県警が取った対応について、治安問題に詳しい東京都立大法学部の前田雅英教授(55)は「病状や行方不明になった経緯がはっきりしないので一概には言えないが、過去に犯罪を起こし、再犯の可能性が高い人物が所在不明になったという事実は、住民にとって重要な安全情報と言える。警察が、人権に配慮したうえで、適切な情報を住民に伝えることは必要だ」と話している。

 また、被害者学が専門の諸沢英道・常磐大教授は「日本ではこれまで加害者の人権を重視する傾向が強かったが、ここ数年、より大切な一般市民の安全確保に重点を置くように変わってきた」と指摘。岩手県警の措置については「同様の事態があっても、従来の警察なら放置していただろう。市民の安全こそが重要だという意識が警察に根付いてきた現れだ」と評価している。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20040826i201.htm