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2004年08月07日(土) 00時00分

おれおれ詐欺 “仕事”の実態 東京新聞

 「お宅の息子さんが交通事故を起こした」。突然、ウソの電話をかけ、高額を振り込ませる“おれおれ詐欺”。全国各地で頻発し、ついに今年半年間の被害額は昨年一年間を抜き、五十七億円にも達した。本紙は首都圏で犯行に携わっていたという関係者に接触し、実態の一部を聞くことができた。一体、どんな人物、組織が動いているのか。 (蒲 敏哉)

 都内のファミリーレストランに現れたのは二十代前半の二人組。昨秋から今春にかけ“仕事”に携わっていたという。現在はアルバイトでスポーツ関係のコーチをしている。

 「はじめからおれおれ詐欺をしていたわけでない。ヤミ金融の事務所の手伝いが最初だった」とこの世界に入ったきっかけを話す。

 もともとは暴走族。あちこち走り回り、遊ぶうちに誘われた。単なるバイト感覚だった。やがてそこのオーナーの紹介で、「出会い系サイト」を経営する事務所へ“転職”した。

 サイトに自分のデータを入力した男性会員が、女性会員とホームページ上で会話するのが売りだ。

■演技の新人は「研修所」で訓練

 二人は最初、パソコン九台が並んだ神奈川県内のアパートで、朝から夕方まで、キーボードのたたき方から画像添付のやり方、客とのクレジット決済の仕方などを仕込まれた。ヤミ金業者が出資し、同様のサイトの経営者が“新人”を送り込む施設で、「研修所」と呼ばれていたという。

 次いで、都内東部のJR沿線の複数のマンションに置かれた事務所に配属された。

 二人は自分たちの役割について「女性を装って、アクセスしてくる男性の相手をしていた。『私も会いたい』『写真が見たかったら四十ポイント(一ポイント十円)入れてね』とか返事を打ち込んでいた。係名はオペとかサクラとか呼んでいた」と説明する。

 「結局、『会って話したい』となるが、その場合、約束だけはする。すっぽかす理由は『近くまで行ったけど怖くなっちゃった』とか適当だ」と苦笑いする。

■公衆電話の電話帳も利用

 ここでのバイト代は一日一万円。やがて、思うような売り上げが上がらなくなり、オーナーや仲間から「『おれおれ』をやろう」という話になったという。

 仮想の女性から、実在する「孫や子ども」になりすます犯罪への転身だった。

 「まず用意するのは名簿。氏名、生年月日、住所、実家住所、携帯電話番号がプリントアウトされ、束になったものをヤミの名簿屋から買ってくる。さらに地方で公衆電話の電話帳も集めてくる」と“顧客情報”の集め方を説明する。

 「さらに携帯電話。今はプリペイド式も本人確認が必要なので使えない。借金の返済が滞っている人に複数の会社で携帯電話をつくらせる。銀行口座や印鑑、キャッシュカードもそう。こうした小道具は、最初に勤めたヤミ金業者などが顧客を使ってそろえるが、いったん専門業者に買い取らせる。ワンクッション置いて所有関係を第三者にしてから、例えば口座は一つ四、五万円で購入する」

 おれおれ詐欺の手口は、ほぼ全国共通だ。

 「対象者の自宅を所轄する警察署を番号案内で探し、実家にはその警察の交通係を名乗る。『お宅の息子さんが、停車中の車に追突し、女性が重傷で病院に運ばれた。女性の親が来ているので話してくれ』とか。そこで別の係が怒った調子で『慰謝料と車の修理で二百万−三百万円かかる。警察に訴えて事件にしてもらってもよいが、そちらに前科が付くので示談にしてもいい』とたたみかける。他人の振りをする演技は、出会い系サイトでやってましたから」と説明する。

 さらに「電話の前に注意するのは、入手した銀行口座の持ち主の名前をあらかじめ名乗ること。後で整合性が保てなくなる。また、交渉中、相手が子どもに直接確認できないよう、並行して、ほかの係が携帯電話の会社に連絡し、子どもの携帯電話を停止することも重要」と詳細に手の内を明かした。

 そうした手口にどれだけの人がだまされるか。

 「北海道から沖縄まで所轄署を名乗り電話したが、実際は相手の家に子どもがいたり、警察に直接問い合わせされてしまった」と話す。が、一方で「ただ、オーナーは『一番良いときは六千万円稼いだ』と自慢していた」とも打ち明けた。

 二人は「おれおれ詐欺は大がかりな組織と見られがちだが、暴力団員一歩手前の二十代が、友人関係の中で緩やかに連携しているのが実態。ただ、関西方面には、警察事情に詳しいアドバイザーがいて『今は捜査が強化されているから派手にやるな』とか指示が時折出されていた」とグループの陰に、犯行を支える人物がいたこともにおわせた。その上で、二人はこう反省の言葉を口にした。

 「悪いことをしているという後ろめたさは常にあった。事情を知った友人からも非難され、手を引いたが、申し訳なかったなという気持ちでいっぱいだ」

 警察庁のまとめによると、今年上半期(一−六月)で「おれおれ詐欺」は昨年同期比七・五倍の六千二百八十四件。警察の取り締まり強化や報道で昨年十月ごろ、いったん沈静化したが、今年四月から再び増え始めた。被害総額は昨年一年間で四十三億円だったが、今年は半年間ですでに五十七億八千万円を超えた。一件当たりの平均被害額も五割増の百五十万円だ。

 今年の一件当たりの被害の最高額は、北海道網走市の事件の二千二百万円。また、今月五日、埼玉県草加市で約千四百万円、同県秩父郡では約千三百万円をだまし取られる事件が相次いで発覚した。草加市の事件では住宅購入資金がだまし取られた。

 警視庁の捜査員によると、詐欺グループはおもに二十代の若者。元ヤミ金融業者や暴走族、中学、高校の先輩後輩などの結びつきが多い。一種の会社組織のようなグループもあり、元締の下に「社員」がいて、二十万円の「固定給」のほかに、詐欺を成功させた場合には「成功報酬」が支払われる仕組みだ。さらに「この仕組みではもうからない」と離反した「社員」が、自ら元締となり詐欺をはたらいたケースもある。

 最近増えているのが、手の込んだ「劇団型」だ。

 五月に警視庁が立件したケースでは、被害者の孫を装った男が電話をかけ「友人のバイクで事故を起こした」とうそをつき、別の男がその友人を装い「製造中止の貴重なバイクだ。修理費が高い」と念を押す。さらにその後、“友人”が「事故の相手が会社社長の高級車だった」と話し、社長車の運転手を名乗る男が「修理をしないと私がクビになる」と泣きついた。

 翌日には修理工場の従業員を装った男が「社長が事故車に乗りたくないと言っている。新車の購入代金がいる」と金を要求。結局、被害者の女性は三回にわたり金を振り込み、約八百二十万円をだまし取られた。 
  (大村 歩)


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040807/mng_____tokuho__000.shtml