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2004年08月05日(木) 00時00分

PL法成立10年 少ない訴訟 総数57件 難しい欠陥証明 東京新聞

 製造物の欠陥が原因で身体や財産に被害を受けた時のメーカーの損害賠償責任を定めた製造物責任法(PL法)が成立して十年。当初予想されたほどPL法訴訟が起きない一方、雪印乳業の食中毒や三菱自動車のリコール隠しなど、製品が消費者の生命、健康を脅かす事件が相次いでおり、消費者問題の専門家からは同法の改正を求める声が上がっている。 (西尾 述志)

 「(訴訟件数の少なさが)企業の緊張感の低下を招き、三菱自動車をはじめとする企業不祥事につながった」と指摘するのは、PL法に詳しい金城学院大大学院教授(民法)の山口正久さん。

 国民生活センターの調べでは、同法に基づく訴訟件数は、現在までに五十七件。山口さんによると、訴訟社会の米国では二〇〇一年度、連邦裁判所で約一万三千件のPL裁判が起きており、さらに州裁判所のPL裁判件数は、この十数倍に上ると推測されるという。

 米国は極端だが、日本では本来、起こされるべき裁判が起こされず、被害者が泣き寝入りしているケースが多いとみられている。少ない一番の理由は、裁判の大変さだろう。時間、費用、労力が掛かる上、欠陥の立証が難しいからだ。

 さらに、PL法の運用を監視している市民組織「PLオンブズ会議」のメンバーで弁護士の中村雅人さんは「提訴されると企業側のイメージが落ちるので、PL保険を使って見舞金を被害者に渡して手を打つケースも多いのでは」とみる。日本消費生活研究所長の宮本一子さんは「例えば子どもが事故に遭った時、親は商品の問題と考えず、自分を責めがちです」と話す。

 PL法の施行前、各企業は消費者から提訴が続発しないか戦々恐々としていたという。が、実際は年間数える程度。PLオンブズ会議が今年五月、八十三社から回答を得た企業アンケートでは、53%(複数回答)が「濫訴(らんそ)にならなかった」として、訴訟の少なさで同法を評価しているほどだ。

 訴訟を起こしやすくするため山口さんは「懲罰的賠償をPL法に盛り込むべきだ」と主張する。通常、実際に受けた損害以上の賠償請求は認められないが、リコール隠しなどメーカーに重大な過失があった時、通常の損害賠償に加え、懲罰的な賠償も認めるという考え方。PLオンブズ会議では最大二倍までの懲罰的賠償を提案している。

 山口さんは「刑事責任の追及は警察、検察の役割だが、取り上げられるのは氷山の一角。一般市民が懲罰的賠償請求をすることで企業の順法精神が高まる」と強調する。中村さんも「通常の賠償金だけでは、鑑定費用や交通費など訴訟費用を賄えない原告もいる。社会のための訴訟という面もあり、懲罰的賠償でカバーすべきだ」と指摘する。

 欠陥の証明の難しさについて、中村さんは「闇の中に手を突っ込んでいるようだ」と表現する。製品の設計図や実験データなどの情報は企業が持っている。民事訴訟法に基づき、被害者は企業に証拠開示を求めることができるが、「企業秘密」を盾に回答を拒むケースが多く、そもそも、どんな資料を持っているかすら分からないという。

 PLオンブズ会議は、法改正で「企業が正当な理由なく情報を開示しない場合、製造物に欠陥があると認める」ことを求めている。一方、証拠開示しないと法廷侮辱罪に問われる米国では、企業があえて大量の資料を出し、必要な情報の「宝探し」になってしまうことがあるという。

 仮に資料を得られても日本の裁判所は、欠陥を「7−8割」まで証明することを消費者側に求めるという。一方、米国の裁判所は「51%」証明ができたと判断すれば欠陥と認めるといい、日本では裁判所の判断の厳しさも問題だとされる。

 証明の困難さを補うため、同会議は「テレビを見ていたら火を噴いた」など、製品を普通に使っていて考えられない損害が生じた場合は「欠陥があったと推定すべきだ」という「推定規定」を法に盛り込むことも主張する。さらに事故時点で欠陥があったと判断した場合、その欠陥は出荷時点で既にあったという存在時期の推定規定も求めている。

 ■PL法 一九九四年六月に成立、九五年七月に施行。欠陥製品による被害に対し、メーカーなどに損害賠償責任を負わせた。設計・製造上の欠陥に加え、注意書きの不備など表示上の欠陥も対象になる。欠陥の立証は被害者側がしなければならない。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20040805/ftu_____kur_____001.shtml