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2004年08月03日(火) 00時00分

『兵庫7人刺殺』は防げなかったのか 『実害ない』警察動かず? 東京新聞

 兵庫県加古川市の二軒の民家で計七人が刺殺された事件で、容疑者の無職男(47)は、殺害された二軒と隣接する親族だった。以前から、付近住民とのトラブルも絶えず、住民が警察に相談することもあったが、「実害がない」と取り上げてもらえなかったともいう。七人殺害という惨事は防ぐことはできなかったのか。 (星野恵一、松井学)

■住民『巡回は増えたようだった』

 「二家族七人殺害」。JR加古川駅の改札を出ると、壁に地元紙の号外が張り出されていた。女子大生(21)は「この辺で号外が出るなんてほとんどない」と、事件に驚きを隠さない。

 現場は、市の中心街から西に数キロの西神吉町大国。のどかな田園風景の中に、約三百戸の集落が広がる。七人が犠牲となった家の一帯は、警察の黄色い規制線が広範囲に巡らされ、藤城康孝容疑者が放火した自宅は、壁が焼け落ち、骨組みだけが残っていた。

 「『長年の恨み』と話してるようだけど、逆恨みもいいところ。恨んでいたのは(被害者の藤城)勝則さんたちの方だ。大きな音を立てると、康孝(容疑者)が怒鳴るし、車のエンジンもかけていられない。猫の死骸(しがい)を投げ込まれることもあった。理不尽な話」。近所の五十代の女性は話す。

 「数年前から、自宅近くにプレハブを造って住んでいた。窓には新聞で目張りをし、中から外の様子をうかがっていたようだ。気持ち悪かった」。家庭内暴力についての証言もある。「朝夕、母親がパンやコーヒーを運んでいた。そうしないと、どつくから。弟と妹はもう家を出ているが、『あんちゃんがいるから』と寄りつかなかった」。家で包丁を投げつけられるなどした父親は「ここにいたら殺される」と十数年前に家を出たといい、母親と二人暮らしだった。

 近所とのトラブルも再三だった。「田んぼで仕事をしているだけで、怒鳴り散らされた」(七十一歳の無職男性)。先の女性は「自分が物を言えそうな人には、道で立ち話しているだけで『やかましい』と叫ぶ。畑仕事の人を、カマやら何か持って追いかけ、襟首をつかんだりした」と話す。

■「2年ほど前に交番に届けた」

 トラブルは隣近所だけでは手に余り、二年余り前には「近くの交番に届け出る」(町内会関係者)という事態にまで発展した。

 当時、十数人が集まった会合の緊迫した様子を、出席した一人はこう話す。「ある人は心労でひどく痩(や)せてしまい、『畑作業をしている時、通りがかった康孝(容疑者)と、目が合っただけで大声で怒鳴られ、殴られる』と涙を浮かべて会合で訴えていた。母親に話して注意してもらおうかとも考えたが、逆恨みが怖くて言えなかった」

 この時の会合では、皆で相談して警察に言おうと決めたという。「『巡回パトロールを増やしてください』とお願いし、その後は回数が増えた感じがしていた。だけど、殺人事件まで起こるなんて考えられない」(出席者)と悔やむ。

 “警察沙汰(ざた)”については、こんな話もある。殺害された藤城利彦さん(64)が昨年、車のバックの仕方が気に入らないと、いきなり康孝容疑者に車から引きずりだされ、同じく殺害された長男伸一さん(27)が警察に通報したこともあったという。情報が錯綜(さくそう)しており、同一の話かどうかは不明だが、先の女性がこう明かす。「去年か一昨年の夜、トラブルでパトカーが呼ばれたことがある。でも母親が『警察沙汰だけはやめてほしい』と頭を下げたんで、被害届は出てないかもしれない。警察が本人に一言でも声をかけていたら、事件はなかったかもしれないが…」

 殺害された藤城澄子さん(64)の知人の女性(58)も「澄子さんは『警察にも相談した』と言っていた。すぐ近くに変わった人がいるとは以前から聞いていたが」と言ったまま押し黙った。

 別の主婦(60)は「警察が取り合わなかったんでしょう。うちの近くにも同じような問題の子がいるが、警察は刃物沙汰でもないと、『両者で話し合ってくれ』というだけ」と漏らした。

 大国地区にはいわゆる隣組のような「隣保」という組織が三十くらいあるが、一歩隣保の外に出ると、人々はよその家の事情には疎い。「火事で騒いでたのは知ってるが、事件は朝の報道で知った。近所の人とのトラブルで、警察に相談していたことは聞いているが、結局、民事の話は介入しづらいし、人権問題もあるんでしょう」と、少し離れた場所に住む主婦(56)は冷めた見方だ。

■加古川署は相談放置か『事態どう把握』検証を

 地元住民が口にした警察沙汰について、会見などで、「それだけのトラブルがあれば、私の耳にも入るはずだが、(事件は)寝耳に水だった」と話した、当の加古川署の副署長は、取材に「被害届は出ていない。今のところ、そうした相談が警察にあったか確認できていない。これからの調査で、確認できれば住民の人にも説明したい。それしか言えない」と釈明した。しかし、この日夜、同署は、二〇〇一年七月と〇二年七月、近所からトラブルの相談があったことを認めた。

■『桶川ストーカー』『宇都宮散弾銃』でも悲劇

 こうした警察の対応について、二〇〇二年七月、宇都宮市で隣家の無職男=当時(62)、犯行後自殺=に、妻公子さん=当時(60)=を散弾銃で殺害された田中道雄さん(62)は、「また、妻と同じような事件が起きてしまったと思いながらニュースを見ていた」と話す。

 公子さん殺害事件では、無職男からたびたび嫌がらせを受け、警察に再三相談したが、何ら問題解決せず、その上で、男には猟銃所持が許可されていたとして、田中さんら遺族が栃木県などに損害賠償を求める訴訟を起こしている。

■「殺されないとダメなのか」

 田中さんは「当時、嫌がらせについて、いろいろなところに相談したが、警察に行けと口をそろえた。その警察はけが人が出たり、死者が出るという、目に見える被害がなければ受け付けてくれない。隣同士のいざこざ、言った言わないの話と相手にされず、家内も最後のころは、『私が殺されないとダメなのか』と話していた」と振り返る。

 桶川ストーカー殺人事件で、警察が名誉棄損の告訴を無視したため、娘の詩織さん=当時(21)=が殺害されたとして、埼玉県を相手取り国家賠償を求め、裁判を行っている会社員猪野憲一さん(54)も「住民が助けを求めているのに、警察がその訴えを無視しているケースは全国にたくさんあると思う。何のための警察なのか」と憤る。

 「今の日本は、どんなことで殺人事件に発展するか分からない。被害の訴えに真剣さが足りなかったとか、現場に行かなくても大丈夫だろうとか、そんな警察の勝手な判断が後で大事件を引き起こしている」と、強く批判した。その上で「警察は市民から助けを求められたらまず、現場に駆け付けるべきだ。そのことを警察官個人も組織としての警察も徹底してほしい。事件が起きたら動きますなんておかしい」と指摘する。

 田中さんは最後にこう危惧(きぐ)した。「今回の事件も、警察を含めた公的な機関がどう事態を把握し、その上で、どう対応していたのか、をきちんと調べないといけない。問題を浮き彫りにしないと、再発防止はできないし、十年、二十年と同じことが繰り返される」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040803/mng_____tokuho__000.shtml