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2004年07月30日(金) 00時00分

“走る喫煙室”タクシー乗務員悲鳴 『健康第一』…ついに提訴 原告代表の安井さん。屋根にある「禁煙」の表示は、認可が認められた当初のもの=杉並区で 東京新聞

 タクシー禁煙化政策を進めなかったため、乗客の喫煙で健康被害を受けたとして、東京都内のタクシー乗務員ら二十六人が先週、国を相手取り、計千三百六十万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。客離れを恐れる業界は導入に消極的で、禁煙車はまだ全体の1%だけ。狭い車内で受動喫煙に苦しむ非喫煙者の乗務員らにとって、問題は切実だ。

 「国は健康被害に苦しむ運転手の命を、虫けらのようにしか思っていない。『走る喫煙室』にするのではなく、事業者に禁煙タクシーの導入を義務づけてほしい」

 原告代表の安井幸一さん(70)=東京都杉並区=は、一九八八年に第一号の禁煙タクシー認可を取った個人タクシー運転手だ。「一人で快適な職場に安住しているだけでは、ほかの乗務員たちに申し訳ない。『第一号』としての責任がある」と提訴の理由を語る。

 安井さんがタクシー乗務員になったのは五十一年前。乗客の七割近くが喫煙する時代だった。煙が立ち込める車内で、のどや目の不快感に悩まされ続けた。三十代から息苦しさなどの症状が現れ、狭心症や動脈硬化を患った。今も治療が続く。

 八六年二月、「事件」が起きた。喫煙する男性客に「窓を少し開けてもらえませんか」と頼んだが、客はかまわず吸い続けた。安井さんが五、六センチ運転席の窓を開けると「寒いじゃないか」と逆ギレされた。業界の指導機関に通報され、涙をのんで始末書を提出した。

 安井さんは翌年、「喫煙客の乗車を拒否できる」とする約款を加えた禁煙タクシーを申請した。世論の追い風もあり、四カ月で認可を受けた。

 「最初はからんでくる客もいて苦労したが、反応は年々良くなっている。わざわざ禁煙タクシーを選んで乗ってくれる喫煙者が、最近は多い」

 国に対しては、業界へのタクシー全面禁煙化を指導するよう再三、要望してきた。七月に「利用者利便の確保の観点からも、一律に喫煙を規制することは困難」(国土交通省自動車交通局)などの回答を受けたのを機に、提訴に踏み切った。

●乗客も原告に

 原告には、タクシー利用者二十三人も含まれる。気管支炎症を患ったのを機に煙に敏感になった栃木県小山市の農業、板子文夫さん(62)は、タクシーに乗るたびに、残留煙でのどや胸、頭の痛みに襲われる。「タクシーは乳幼児から老人、病人も利用する公共輸送機関なのに、なぜ禁煙にならないのか」と訴える。

 禁煙タクシーを求める声の高まりは、業界の利用者調査=表=でも明らかだ。二〇〇〇年には認可申請なしで禁煙化できるようにもなった。だが、導入の動きは鈍い。業界団体によると、全国の禁煙タクシーは三月末現在で約三千八百台。法人タクシーの1%、個人の3%にすぎない。

 訴訟の原告で、都内のタクシー会社に勤務する平田信夫さん(61)は、健康増進法の施行を機に昨春、会社側に禁煙車の導入を要望したが、「時期尚早」と退けられた。長時間勤務のストレスからか、乗務員自身の喫煙率が一般より高いことも、導入を妨げているという。「一部の社だけ禁煙化しても、喫煙者とのトラブルが起きる。国の指導で全面禁煙にすれば、乗客も納得してくれる」

●都内初の禁煙化

 都内では今月、大森交通(大田区)が初めて全車両(三十五台)を禁煙にした。二年前から段階的に禁煙化を進めてきた郭成子社長(52)は「乗務員の健康を守ることを第一に考えたい」と話す。

 禁煙車と知ると乗らない人が二−三割はいるが、一時的な乗客減を気にしていない。「選んで乗ってもらえるタクシーにする一つの条件は、禁煙だと感じている」

 訴訟を支援しているたばこ問題情報センター代表の渡辺文学さんは「海外主要都市のタクシーで、喫煙を野放しにしているところはほとんどない」と指摘。「私もヘビースモーカーだったから分かるが、喫煙者の七割は『たばこをやめたい』と思っている。タクシー禁煙化は喫煙者のためでもある」と訴えている。

 文・石井敬/写真・高瀬晃、稲岡悟



http://www.tokyo-np.co.jp/00/thatu/20040730/mng_____thatu___000.shtml