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2004年07月27日(火) 00時00分

NHKの“金銭感覚”とは? 制作費の着服発覚 『公金意識』かけ声だけ 東京新聞

 四千八百万円−。NHKのチーフプロデューサーが、着服していた番組制作費だ。今後の調査で金額はさらに増える可能性もある。しかも看板番組「紅白歌合戦」も不正に利用され、それを上司が三年も放置していた。制作費は、もとは視聴者の受信料である。不況のなか払い続ける視聴者からの“公金”との意識が希薄すぎないか。「みなさまの受信料」を使う“金銭感覚”とは−。

■採算度外視?番組づくり

 「公金」。NHKは職員に、受信料をこう認識するよう求める。「公金意識」を身につけるため、職員の新人研修は「受信料徴収」から始まるという。

 「朝から晩まで、ベテランの営業担当と一緒に訪問したが、怒られてばかりだった。『NHKは見ない』と言ってるおじいさんの後ろで、相撲が映っていたりしてね」と研修で、集金を体験したある記者は振り返る。

 同様の研修は、管理職に登用される際にも所属部署にかかわりなく再度行われるという。

■タクシー1回受信料10軒分

 「何をするにも『公金意識を持て』と言われる。取材でタクシーに一、二万円を使うと『このために十軒回って、受信料を徴収しなきゃいけないんだな』と思うときもある。ただ、すぐ忘れちゃうんですけどね」と漏らした。

 実際、特殊法人「NHK」を支えるのは「みなさまの受信料」だ。放送法で、NHKを受信できる設備があれば、受信契約をしなければならないと規定されており、予算や事業計画には国会の承認が必要となっている。二〇〇四年度予算では、事業収入総額約六千七百八十五億円のうち、96・5%にあたる六千五百五十億円が受信料収入となっている。収支予算に基づいて受信料の月額=別表参照=も決められている。

 NHKのホームページでは「NHKが自主性・自立性を保てるのは、受信料制度という土台があるからです」と強調する。

 だが、NHKの「公金意識」について、例えば報道現場では「なるべく制作費を安くしなければならない民放とは、確かに感覚が違う。お金に糸目をつけない仕事っぷりは、正直、うらやましいですよ。採算を度外視した番組づくりは、民放では絶対にできない」とある民放記者は嘆息する。

 「例えば、海外取材では数年前まで、現地のテレビ局から回線を借りて映像を送っていた。回線料は一分で数十万円もするので、民放各社は五分、十分と分単位で借りていたが、NHKはいつも三十分以上も回線を押さえていた。通訳や運転手などの料金やチップも値切りもせずにばらまくので、NHKが取材した後は、どこでも価格が高騰している」とその“金銭感覚”を話した。

 受信料による六千五百五十億円もの事業収入の使い道について、個々の職員だけでなく、NHKの事業のあり方にも批判がある。永田寿康衆院議員(民主)は、事業肥大化を国会で追及してきた。三十社近い子会社や関連会社が、番組制作や出版などさまざまな事業を手がける。

 永田氏は「それらの役員の多くがNHKの元職員の天下りか、現役の職員だ。子会社との取引を通じて受信料が子会社に流れる仕組みになっている。そうであれば、受信料で制作された大河ドラマのビデオ売り上げなどは、子会社の利益にするのではなく、還元すべきではないか」と述べる。

■『三菱と同じ隠ぺい体質』

 さらに永田氏は「NHKの予算や事業計画を国会で審議する際も、子会社による付帯業務については説明がないといってよく、実際は野放しになっている。これではNHKの経営を十分にチェックできない。NHKの番組自体は良い内容も多いが、動物番組を一例にすれば、いくら貴重な映像でも三年も四年もかけて番組づくりをしていると聞くと、コスト意識や経営感覚は大丈夫かなと思う」と指摘する。

 災害報道などNHKだけが負う報道の責務もあり、制作費の多寡を一概に言えない。だが、今回の着服事件では、三年前に“犯行”を承知していたにもかかわらず、問題視せずに放置、隠ぺいしていたことが明らかになった。

 NHK経営広報部では「受信料は文字通りの公金なので、いささかの疑念ももたれないよう繰り返し指導している。新人、二年目、新任デスク、新管理職など、節目ごとに公金意識の徹底をテーマにした研修を行っている」と説明。今回の不祥事に対しては二十六日、海老沢勝二会長を本部長とする業務総点検実施本部を設置、経理指導の点検などを行い、再発防止を図るという。

 だが、元NHK政治部記者で、椙山女学園大教授の川崎泰資氏は「NHKの隠ぺい体質が招いた起こるべくして起こった事件だ。『公金』に手をつけて放置したことは、組織的な隠ぺいも同然だ。三菱ふそうのリコール隠しと全く同じ、組織の体質の問題。海老沢会長は減給程度の処分でお茶を濁そうとしているが、トップが退陣して本気で再生を図らないかぎり、何度でも起こり得る」と断じる。

 営業幹部だった元NHK職員も「厳密にいえば、テレビがあればNHKは受信契約を取る権利があるが、受信料を絶対に払わない人がいても罰せられることはない。だから、受信料を払いたくなるように信頼されなければいけないし、情報機関であるからこそ法令順守も問われるはずだった」と憤る。

■どうせ“税金”薄い罪の意識

 受信料制度について、放送評論家の志賀信夫氏は「日本での放送開始当時、放送は非常に大きな投資が要るので皆で維持しようとこの制度が始まった」と導入の経緯を説明。

 その上で「番組制作費の一つ一つが公表されているわけではなく、少々の不正支出はばれなければいいだろうという当事者の考えが根底にのぞかれる。受信料という広く集めた“税金”だから、視聴者に迷惑をかけているという意識が逆に薄いのではないか。番組づくりと視聴者が乖離(かいり)している」と不祥事の原因を分析する。

 同様に公共放送の英BBCは受信料と国からの税金で運営されている。門奈直樹・立教大教授(比較マスコミ論)は「英BBCは、詳細なプロデューサーガイドラインを定め、それを公表することによって透明性を高め、視聴者の信頼を得ていく姿勢だ。視聴者を味方につけることが、政府の圧力に屈せずに放送の独立性を保つことにつながると考えている」と説明する。

■避けられない料金の値上げ

 一方「対照的にNHKは放送ガイドラインを一般に公表していない。その中には『受信料は公金だと意識する』といった項目が入っているにもかかわらずだ。NHKは秘密主義がBBCと比べて強すぎる。今回の流用事件でも、事件の詳細な経緯と内部の議論を公開して説明責任を果たすべきだ」と注文を付ける。

 前出の志賀氏はこう予測する。「地上波デジタル放送の設備投資で収支が圧迫されて、今後は受信料の値上げは避けられない」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040727/mng_____tokuho__000.shtml