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2004年07月15日(木) 17時30分

「イラクでの米国人殺害事件」に関するブログ発言が引き起こした波紋WIRED

 人気ウェブログ『 http://www.dailykos.com/ デイリー・コス』主宰者で、精力的なブロガー、マーコス・ムーリツァス・ズニガ氏が掲示したコメントをめぐって、今年に入ってからブログ・コミュニティーでは論争の嵐が吹き荒れた。発端となったのは、イラクのファルージャで殺害された連合国暫定当局(CPA)の請負業者4人についてムーリツァス氏が掲示した、不用意なコメントだった。このときの、切断され黒焦げになった死体の写真は、CNNのトップニュースとして取り上げられたほか、『ニューヨーク・タイムズ』紙の第1面にも掲載された。従軍経験のあるムーリツァス氏は、この4人は命令によってあの場所にいたわけではないと指摘した。イラク再建のためにいたのでもない。「戦争を遂行して利益を得ようとそこにいたのだ。やっちまえ」

 当然、この暴言は、広範にわたる政治グループの代表者、多数を怒らせた。そしてここからが面白いのだが、やはりインターネットの世界だけあって、この発言はデータと同じような超スピードで広まった。さらに悪いことに、これらはすぐにネット界の各地で書き込まれ、すぐに消えるパーティーのおしゃべりなどとは違って、アーカイブに入れられて永久保管されてしまった。この発言に対して、保守派は即座にボイコット運動を組織し、リベラル派のブロガーも参入してムーリツァス氏に謝罪を要求し、スポンサー3社は広告から撤退し、こうした論争に対して過敏になっている大統領候補ジョン・ケリー氏の陣営はキャンペーンのウェブログで次のようなコメントを出している。「米国人殺害について、デイリー・コスに掲載された容認しがたい発言を考慮した結果、 http://www.johnkerry.com/index.html われわれのサイトでは同ブログへのリンクをはずした」

 ブログが、大統領候補者の公式ウェブサイトからリンクをはずされた(そして、実際に広告を失った)事実は、注目に値する出来事と言える——これは、ブログが現実に、無視できない存在になってきたことを示しているからだ。ムーリツァス氏の発言が、現にこんな大議論を引き起こしたのだ。『ウォールストリート・ジャーナル』紙もこの件について報じているし、『ウィークリー・スタンダード』誌や『アメリカン・スペクテーター』誌といった右寄りの紙版メディアでも取り上げている。スペクテーター誌は、一部の民主党員のことを「悪意のウイルス」を撒き散らしていると非難した。

 しかしもっと重要なのは、ケリー陣営が、デイリー・コスのリンクを外す際、ほんとうに熟考したうえで決定を行なったのかということだ。これは危険な先例を作ることになる。あるサイトへのリンクを掲載しているからといって、その内容を支持していることになるのだろうか? その内容を暗に推薦していることになるのだろうか? もしそうなら、ムーリツァス氏が「死者を冒涜しているとしかいいようがない」のと同様、きわどいコメントが掲載されている他のサイトへのリンクをケリー陣営が掲示していることは、どう正当化できるのだろう。ちなみに、この「死者を冒涜しているとしかいいようがない」という表現は、ニューヨーク大学ジャーナリズム学部の私の同僚教官ジェイ・ローゼン氏が、自身の運営するブログ『 http://journalism.nyu.edu/pubzone/weblogs/pressthink/ プレスシンク』で使ったる表現だ。

 たとえば、ケリー陣営は、『 http://www.democraticunderground.com/ デモクラティック・アンダーグラウンド』というサイトと相互リンクしている。このサイトでは、「アンティー・ピンコ」[Pinko:アカの、の意]というペンネームのコラムニストが、読者から寄せられたイラク、経済、オンラインカジノなどに関するさまざまな質問に、アン・ランダースばりの回答をしている。また別のコラムニストは、ケリー氏に選挙活動上の助言を申し出て、「ダサいブッシュ」[Dubya Doofus:Dubyaは「w」のテキサス弁の発音をからかったもの]に比べれば、ケリー氏は「大統領」らしく見えると述べている。『保守派の愚か者トップテン』コーナーの『No.152』では、匿名投稿者がジョン・アシュクロフト司法長官について、「連邦捜査局(FBI)からの、テロリスト追跡の捜査官を数百名追加してほしいとの要請をしりぞけた」と書き、さらに、「こんちくしょう。ビル・クリントンとテロ大好き野郎ども! ジョン・アシュクロフトにやらせたことの結果を見てみろよ!」と畳み掛けている。さらに『No.160』では、保守系の権威ビル・クリストル氏を「うすのろ」と呼んでいる。

 「ダサいブッシュ」、「ピンコ」、「テロ大好き野郎」、「うすのろ」といった言葉はどれをとっても、大統領たる人物にふさわしいとは言えないだろう。

 それだけではない。以前、デモクラティック・アンダーグラウンドのトップページには、エディー・ラフ氏と名乗る男性による風刺文が掲載されていたが、ラフ氏は、年代を2007年に設定した仮説シナリオのなかで、ブッシュが再選された場合の米国の将来について次のように警告している。「そして、北朝鮮がひどい原子力事故を起こしたのは残念だった。なんということだ。この恐ろしい国家を侵略するために、ゲイの兵士たちを派遣した後だったというのに。あの国がなくなってしまったとは。ゲイ以外にもいる役に立たない若造どもをまとめて送り込むのにちょうどいい国だったんだ。これまでに黒人やメキシコ人をアフガニスタン、イラク、イラン、シリアに送ってきたのと同じようにだ」

 別に、デモクラティック・アンダーグラウンドを非難しているわけではない。結局のところ、ケリー陣営のウェブサイトは『 http://www.democrats.org/blog/ キッキング・アス』(Kicking Ass:『民主党全国委員会』の公式サイト)や『 http://home.earthlink.net/~fsrhine/ ビートブッシュブログ』(BeatBushBlog)へのリンクも掲載しているのだ。ビートブッシュブログの投稿者は最近、「いったいわれわれの『戦争大好き大統領』はいくつの戦争でくそを食らったら気がすむんだ? イラク戦争、アフガニスタン戦争、『ドラッグとの戦い』、『テロとの戦い』……」と書き込んでいる。ジョン・ケリー氏はたしかにこの意見に感情的に共鳴するかもしれないが、こんな言葉の使い方は絶対に支持しないだろう(もっとも、先日の上院議会で、米ハリバートン社との関係を質問して食い下がったパトリック・J・レイヒー上院議員に対して、「くそ食らえ」と言ったと伝えられるディック・チェイニー米副大統領なら、また話は違ってくるしれないが)。

 私は個人的には、このような毒のあるコメントに喝采を送るものだ。民主党、共和党、独立系関連のブログやウェブサイトに書き込まれたものであっても、『 http://www.acronymfinder.com/af-query.asp?p=dict&String=exact&Acronym=ROYGBIV ROYGBIV』に書き込む変人たちの意見であっても、どこから発信されたものでも構わない。言論の自由に関しては、私は文字通りの自由論者なのだ。

 しかしケリー氏とその陣営が、信念を貫くつもり(つまり、偽善ではない、ということ)であれば、ケリー氏の公式見解に反する意見を掲載するサイトにはいっさいリンクを張らないほうがいい。それも今すぐに撤去すべきだ。

 ムーリツァス氏は結局、謝罪とは言えない謝罪を掲載することで結んだ。「かなり愚かな発言をしてしまったということだ」とムーリツァス氏は堂々と記している。「私が連中に、恰好の打ちやすいボールを投げてしまったため、みんなが異様に興奮してしまったわけだ……しばらくは本当にやきもきしていた」という。また同氏によれば、「憎悪に満ちた」電子メールを30通ほど受け取っており、そのなかには暴力を示唆する脅しや、差別的な罵りの言葉も含まれていたという。

 しかし、心配することはない。ムーリツァス氏は失った広告分は取り戻している。オハイオ州の議員候補ジェフ・シーマン氏の広告もその1つだが、シーマン氏はデイリー・コスに広告を出すことにした理由を、「米国憲法修正第1条と、自分のウェブサイトでは何でも言いたいことを発言できるという万人の権利」を信じているからだと述べている。そして「デイリー・コスの以前の広告主がこうむったような、保守派による嫌がらせは、われわれの選挙活動にはいっさい許さない」としている。

 ではケリー候補、リンクを外す作業を始めたまえ。

( http://www.penenberg.com/ Adam L. Penenbergはニューヨーク大学の助教授で、同大学ジャーナリズム学部の『 http://journalism.nyu.edu/currentstudents/coursesofstudy/ber/index.html ビジネスおよび経済関連報道』プログラムの副責任者も務めている)

[日本語版:近藤尚子/湯田賢司]

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