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2004年07月14日(水) 00時00分

雇用保険不正受給 『詐欺集団』の実態 東京新聞

 雇用保険の不正受給をめぐる問題(6月22日特報面)で、複数の関係者の証言から、一連の不正の影に「社会保険労務士」の存在がちらついていることが分かった。本紙に届いた告発文には「労務士」の記述はないが、「詐欺集団」と、雇用保険の制度を熟知した「労務士」に接点がある可能性も出てきた。「詐欺集団」の実態を追った。         (星野 恵一)

 都内のコンピューター関連会社の社長あてに封書が届いたのは四月中旬だった。差出人は不明だ。活字でこう記してあった。「A(文書では実名)が〇〇(社長の会社)の名を利用して、雇用保険でもうけている」。告発だった。

 社長は知人のAに書面を見せて尋ねたが、Aは自らの疑惑には「ありえない」としながら、「心当たりがある」と答えた。だが、その後、「心当たりのある人が電話に出ない」とも話した、という。

 そのAは再三の取材申し込みに重い口を開いた。「雇用保険の助成金のことで、ある人に申請の仕方を教えてもらったことがある。その人が関係あるのかと思ったが…」。だが、「心当たりのある人物」については、口を閉ざした。

 社長が話す。「警察に連絡することも考えたが、そこまでは、と思い、そのままになっている」。だが、同様の文書が行政機関にも届けられたことから、公共職業安定所(ハローワーク)や当局から社長に問い合わせが相次いだ。社長には思い当たる節があった。

■「従業員の名も貸してほしい」

 話は数年前にさかのぼる。知人が「社会保険労務士」を名乗る男を連れてきた。「労務士」は「ここ(社長の事務所)で、新しいサービス事業を起こしたことにしたい。雇うことにする人の名前も貸してほしい」

 社長は事情を把握せぬまま、知り合いの名前を貸し、「労務士」が書いた書類をハローワークに送った。「〇〇サービス」という新事業を始めた形だ。「労務士」は「異業種の新規事業を起こすと、従業員一人当たり数十万円の支度金が出る」とも話した、という。

 厚労省によれば、これに当てはまりそうなのが、「中小企業雇用創出人材確保助成金」(昨年五月廃止)だ。創業や異業種への参入の場合、雇った従業員(制限六人まで)の賃金の半分を一年間助成していた。同制度には併せて「受給資格者創業特別助成金」(一昨年三月廃止)があり、創業時にボーナス的な助成も行っていた。雇用主は一人雇用すれば四十万円、二人で五十万円、三人以上で六十万円の助成金を受給できた。財源はすべて社会保険料だ。

 人材確保助成金は不正受給の温床だった。一昨年度に発覚した不正は百八十九件、被害は約十三億四千万円に上った。返還額はわずか約四億千二百万円だ。同年度に詐欺で刑事立件されたのは三十七件で、大分県では社会保険労務士らが絡んだ事件もあった。

 先の社長は、形式上、新規事業の創業者となったが、もちろん実態はない。では、助成金は実際に支給されたのか。社長は「私自身も、名前を貸した知人も金は受け取っていない。ただ、ハローワークからは、(助成金の受給要件確認の)問い合わせがあった」と振り返る。
 
 「結果的に利用された」と社長は話し、真相を知る「労務士」については「その後、連絡は途絶えている」という。社長に「労務士」を紹介した知人の男性も、取材に対し、「都内に社会保険労務士事務所を持っていたが、何年も連絡がない」と話す。
 
 都内の社会保険労務士が加入する団体によれば、この「労務士」の登録は今も残っている。だが、登録先の電話は通じず、事務所があるはずのマンションを訪ねると、既に別の住人がいた。関係者は「二、三カ月分くらい家賃をためたまま、数年前に出ていった。夜逃げに近かった。まじめそうな人だったが、事務所を始めたばかりなのに人を六人も七人も雇って派手だった」と振り返った。
 
■それぞれが面識 本当の黒幕は?

 さて、先のAは、本紙に寄せられた「告発文」に記載のある別の女性Bとも面識があった。
 
 このBも取材に対し、「Aとは化粧品や健康食品の販売で知り合った。Aを知ったのはSの紹介だった」と面識があることを認めた。Sとは、「告発文」で「詐欺疑惑」の中心的な存在として書かれた人物だ。
 
 Bは「不正受給はしていない」と疑惑自体は否定する。が、「告発文」で、「本人(B)が不正受給しているほか、他人になりすましての不正受給などがある」と記されていることを告げると、Bは思わず口にした。「そんなことを言うのは〇〇(先の社会保険労務士)しかいない。〇〇はSさんと知り合いで、何かあって、その腹いせとしか思えない」
 
 意図せず、「労務士」とSとの接点の可能性を示す証言が出た。Sは、本名と別名を使い分けているとされ、それもBにただすと、「Sは昔から知っているけど、二つ名を使っている理由なんて知らない」と、電話でせせら笑った。
 
 「告発文」には、Aらのほか、不正受給に「利用されている」とされる法人名、何らかの関与があるとされる人物が複数記載されている。記載された会社法人のうち、二つの有限会社は、設立年月日や社名、役員名、住所こそ違うが、両社とも資本金は三百万円で事業目的も全く一緒だ。
 
 そのうち一つの有限会社の住所地を訪ねたところ、建っていたのは築四十年以上の木造二階建てアパートだ。大家は、その社名も、登記上の役員Cについても「そんな人は住んでない」と首をひねる。Cを捜し出し取材したが、「分かりません」と繰り返すばかり。自らの名が役員として登記されている有限会社についても「知らない」の一点ばりだ。ただ、関係者は「労務士については、Cがだいぶ前に知り合ったような話はしていた」と話した。「労務士」は「告発文」には出てこないが、登場人物たちが線でつながり始めた。

 カギを握るとみられるSは、以前借りていたアパートは引き払っている。Sの自宅を割り出し、取材申し込みを文書で繰り返したが、現在までに連絡はない。
 
■確認書類も万全 「見抜けない」

 再び「告発文」に戻る。そこには、不正を繰り返しているとみられる人たちについて、「ばれたらお金をかえせば済むとしか考えていません」と指摘し、こうも記していた。「公共職業安定所は、もめ事、トラブルを嫌い、刑事事件にしないことを逆手に取り、高をくくっています」「手口が巧妙になってきており、(安定所に提出する)確認書類がきちんとしており、安定所でも見抜けません」
 
 前回、お伝えした通り、不正を見抜くのは容易ではない。東京労働局も一連の事態については、「告発文」で重い腰を上げたのが実情のようだ。不正受給のすそ野は、想像以上に広がっていそうだ。

■本誌に届いた「告発文」要旨

 詐欺集団が雇用保険基本手当の不正受給を繰り返し行っている。加担者は二、三十名。名義貸しで加担者に成り済まし、替え玉受給しているケース、さらに第三者の名前を無断で悪用しているケースがある。

 善意の第三者の会社を無断で悪用しているケース、ありもしないでっち上げの個人事業所と実態はさまざま。雇用保険財政の厳しい中、雇用保険三事業(雇用安定、能力開発、雇用福祉事業)の無駄遣いはひどく、厳正に対処してほしい。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040714/mng_____tokuho__000.shtml