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2004年07月08日(木) 00時00分

確かなあした 欠陥住宅 生む要因に 建築士の名義貸し  東京新聞

 家を建てる際、設計図通りかどうかを確認、指導する「工事監理者」として自治体などへの申請書類に名前を載せながら、実際は監理をしない建築士が問題となっている。「名義貸し」と言われ、欠陥住宅を生む要因の一つとされる。昨年秋には「名義貸しは違法」とする最高裁判決も出た。欠陥住宅被害に遭わないために、消費者は工事監理の重要性を認識し、名義貸しを見逃さないようにすることが大切だ。 (西尾 述志)

 四十三歳の男性会社員は四年前、鉄骨三階建て住宅を建てる契約をA建設会社と結んだ。市役所に出した建築確認申請書=メモ参照=によると、B設計事務所の建築士が設計と工事監理を担当した。だが、実際の設計図と申請書に添付した設計図では軒高(地面から屋根の下までの高さ)が異なる上、現場の鉄骨が設計図より薄いことなどが分かった。多数の欠陥があるとして男性が代金の支払いを拒むとA社が提訴。男性もA、B両社に建て替え費用などの支払いを求め訴えた。

 軒高は高い方が工事しやすい利点があるが、一定の基準を超すと、建築確認申請時に構造計算書を出す必要がある。

 男性側の弁護士は「実際は基準を超す軒高なのに、建設会社側が計算書のチェックを免れるため、基準内の軒高にした設計図で申請した。鉄骨を薄くしたのは建築費を安くするためだ」と主張。さらに「建築士は『名義貸し』で、実際には工事監理をしていなかった」と指摘している。

 これに対し、建設会社側は裁判所に提出した書面で「申請後に施主に頼まれ、設計を変更して軒高を高くした」などと反論。建築士側も、工事現場に一度も行っていないことを認めつつ「工事監理を依頼されておらず、工事計画は消えたと思っていた。名義貸しではない」と主張している。

 なぜ、名義貸しが起きるのだろうか。建築士法などで、設計と工事監理は建築士にしかできないとされているが、規模の小さい建設会社や工務店には、必ずしも建築士がいるとは限らない。その場合、設計と工事監理を社外の建築士に依頼しなければならない。

 だが、日本建築士事務所協会連合会の専務理事鈴木俊夫さんは「実質的な工事監理は必要ないと考える業者もいる」と指摘する。実際に頼むと工事監理料がかかる上、経費削減のための手抜き工事がしにくくなるからだという。ただ、監理者がいないと建築確認申請ができないので、名前を借りるわけだ。

 建築士は、実際に監理しなくても、設計図作製や確認申請の代行、名義貸しといった一連の仕事で十万−三十万円といわれる報酬を得られる。業界関係者によると、収入減による生活苦や定年後の小遣い稼ぎで、名義貸しを伴う仕事を請ける建築士もいるという。

 消費者側にも問題がある。鈴木さんは「そもそも工事監理を知らず、知っていても軽視して、工事監理料の支払いを渋る場合がある」と指摘。消費者が名義貸しを容認してきた面もある。

 こうした中、最高裁は昨年十一月、欠陥住宅の損害賠償訴訟で、名義貸しは「建築士法違反」との判断を示し、物件購入者に建築士が四百九十万円を支払うよう命じた二審判決が確定した。この判決について、鈴木さんは「名義貸しを根絶する追い風になると思う」と期待し、日本建築家協会の専務理事柳沢璋忠さんも「建築士は襟を正すべきだ」と力を込める。

 行政の監督姿勢の甘さもある。国土交通大臣や都道府県知事は建築士法に基づき、名義貸しを含む問題行為をした建築士に対し、その程度に応じて戒告や一年以内の業務停止、免許取り消し処分ができる。だが、業界関係者は「処分が出たという話はあまり聞かない」と口をそろえる。

 国交省建築指導課によると、名義貸しの処分は二〇〇二年度で三件(いずれも業務停止三カ月)にとどまっており、「名義貸しは業界の慣行であり、問題が表面化しにくい」と説明する。消費者は、名義貸しが一因となった欠陥住宅の被害に遭ったら、国や県に建築士の処分を求めていくことも必要だろう。

<メモ>

 建築基準法は、建物を建てる時は、建築士の設計図を用い、工事監理者に建築士を選ぶことを建築主に義務づけており、工事前に、設計者と工事監理者の名前を書いた建築確認申請書を地方自治体などに提出しなければならない。違法建築を事前にチェックする手続きで、確認済証を受けないと工事に入れない。申請手続きは請負業者や設計事務所が代行することが多い。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kur/20040708/ftu_____kur_____000.shtml