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2004年06月16日(水) 00時00分

『有事関連7法』読み解く絵本 市民らネットで警鐘 戦争できる国になる 東京新聞

 国民保護法など有事関連七法があっさり成立した。だが、法案を審議した国会議員ですら内容すべてをきちんと把握している人は少ないともいう。成立後も、あきらめずに法律を理解し、チェックしていこうという動きがある。そんな一つが、市民らが最近つくった絵本「戦争のつくりかた」だ。ネットを通じてじわりと各地に広がる。絵本で見る日本の姿は−。

■「戦争することに」あとで言う

 つくったのは、一橋大学大学院経済学研究科の今村和宏助教授や、「世界がもし100人の村だったら」をまとめた翻訳家池田香代子さんら。関西在住のりぼん山本さんが原案を書き、絵は井上ヤスミチさん。

 中心になった一人、主婦伊藤美好さんが経過を説明する。「国民保護法案は危ないと思い、メーリングリストで呼びかけたが反応が全くなく、どうやったら伝えられるか考えていた。五月になり、山本さんが原案を出し、メール仲間の全国の主婦や会社員ら二十数人が約千五百通のやりとりをしてまとめた。有事法制に詳しい弁護士らも監修に協力してくれた」

 第一版の五千部はほとんど配布され、改訂版七千部が刷り上がったばかりだ。「ネットからダウンロードして、大量に冊子にして配っている人もおり、実際に全国でどのくらいの人が使っているのか分からない」(伊藤さん)

 絵本は、すでに成立した法律や有事関連法などに基づいた「未来の日本」の一つの可能性を描いている。有事関連法の問題点を追及してきたジャーナリスト松尾高志氏に本文に沿って読み解いてもらった。

 (中略)わたしたちの国は、60年ちかくまえに、「戦争しない」と決めました。(中略)でも、国のしくみやきまりをすこしずつ変えていけば、戦争しないと決めた国も、戦争できる国になります。そのあいだには、たとえば、こんなことがおこります。

 わたしたちの国を守るだけだった自衛隊が、武器を持ってよその国にでかけるようになります。世界の平和を守るため、戦争でこまっている人びとを助けるため、と言って。せめられそうだと思ったら、先にこっちからせめる、とも言うようになります。

 戦争のことは、ほんの何人かの政府の人たちで決めていい、というきまりを作ります。ほかの人には、「戦争することにしたよ」と言います。時間がなければ、あとで。

 政府は、外国から攻撃を受ける可能性が高いとみた場合に、「武力攻撃予測事態」と認定することにした。そのうえで、対処するための基本方針をつくり、国会には「戦争準備することにしたよ」と事後承認を求める。つまり、この場合は「あとで」だ。

 実際に攻撃を受けた場合も、「武力攻撃事態」と認定して同様に手続きする。この場合は「時間がなければ、あとで」だ。

 首相は予測事態の場合は、自衛隊に出動待機命令、武力攻撃事態では防衛出動命令を出すことができる。

 こうした事態の認定にあたって首相が諮問するのが安全保障会議だ。「ほんの何人かの政府の人たち」とは、閣僚では首相、官房長官、外相、防衛庁長官、国家公安委員長、国土交通相の六人で実質的に決めるという意味だ。でも実際は、会議を補佐する「事態対処専門委員会」がふだんから案をつくっておく。委員会は自衛隊トップの統合幕僚会議議長という「軍人」を含めたごく少数のトップ官僚がメンバーで、戦争への手続きを事務的に仕切る。

 問題は、政府が答弁している周辺事態と武力予測事態の併存だ。この場合は、日本周辺で戦争が起きており、それに参戦している米軍に対して周辺事態法では、自衛隊が「後方地域支援」という作戦行動を実施することになっている。政府は、これは集団的自衛権の行使ではないとしているが、米国との戦争相手国がそう見るかどうかは別問題。

 この時、日本が武力攻撃予測事態と認定したら、相手国にはどう映るだろうか。

■「へんだな?」でも聞けません

 みんなで、ふだんから、戦争のときのための練習をします。なんかへんだな、と思っても、「どうして?」と聞けません。聞けるような感じではありません。

 戦前の隣組などを連想させるため、政府は国民の抵抗感が強いと考えて国民保護法への「民間防衛組織」の導入は見送った。しかし、同法は有事の際に避難住民の誘導や救難への協力を、自主防災組織とボランティアに要請することにした。当局お墨付きの組織をつくり、事実上の「民間防衛組織」として機能することを狙っている。国民保護法は平時から「国民の保護」のため「訓練」をすると定めた。

 いざという場合に備えて、都道府県や市町村は「計画」をつくるが、そのつくり方に問題がある。前述の自衛隊トップが入った政府の事態対処専門委員会がまとめた基本方針に基づき、都道府県が計画を策定する。その際に知事は首相と、市町村長は知事と必ず協議しなければいけないとされ、実態は中央集権そのものだ。

 さらに地方自治体が計画を策定する際には、「協議会」に諮問して作成しなければならず、この「協議会」には現職や退役自衛官が加わっているので、上からも下からも「軍の論理」が持ち込まれることになる。

■軍の論理少しずつ

 戦争が起こったり、起こりそうなときは、お店の品物や、あなたの家や土地を、軍隊が自由に使える、というきまりを作ります。いろんな人が軍隊の仕事を手伝う、というきまりも。(中略)

 自衛隊の任務遂行に必要があると認められる場合は、民間の土地、家屋の強制使用ができるようにするほか、「いろんな人」が軍隊の仕事を手伝うことについて、自衛隊法第一〇三条を実施する「政令」を新たに定めて可能とした。

 同時に米軍行動円滑化法(支援法)でも、米軍が戦闘行動する際に自衛隊と同じように行動できるように土地、家屋の提供を定めた。もし土地の強制使用を求められた際に、立ち入り検査を拒み、忌避すると罰則(二十万円以下の罰金)が科される。軍隊の仕事を手伝いたくないと思っても、命令は会社に対して出る。社内で処分される可能性があるので、実質的には強制力があるとみていい。

 わたしたちの国の「憲法」は、「戦争しない」と決めています。(中略)戦争したい人たちには、つごうのわるいきまりです。そこで、「わたしたちの国は、戦争に参加できる」と、「憲法」を書きかえます。

 絵本は「さあ、これで、わたしたちの国は、戦争できる国になりました」と続ける。そこで、子どもたちに呼びかける。「ここに書いてあることがひとつでもおこっていると気づいたら、おとなたちに、『たいへんだよ、なんとかしようよ』と言ってください。おとなは『いそがしい』とか言って、こういうことにはなかなか気づこうとしませんから」。そして、こう結ぶ。「わたしたちは、未来をつくりだすことができます。戦争をしない方法を、えらびとることも」

 今村助教授は絵本を出した意図をこう話す。「こういう絵本のような世の中をつくっていいのか、という問いかけです。法律は成立したが、法的な枠組みが通っただけ。各自治体の動きなど、市民が法律をきちんと知れば、危うい点を指摘することもできる。一人ひとりが何かできないか考えていこうということです」

 問い合わせは、りぼんぷろじぇくと=ファクス020(4665)1339。冊子(三百円)は旭屋書店銀座店で扱っている。ネットでは http://www.ribbon-project.jp/book/ で公開。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040616/mng_____tokuho__000.shtml