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2004年06月09日(水) 00時00分

重大事件のたびナゼ?政治家失言  “小泉流”許す世論への甘えも    東京新聞

 社会は、長崎県佐世保市の小6女児事件を重く深刻に受けとめている。だが、ある閣僚は「元気な女性が多くなったのか」と言い放ち、別の閣僚は「ナイフは男、女は放火だった」という趣旨の解説をする。社会的影響の大きい事件で、自民党幹部らがいとも軽く失言を繰り返すのは昨年来の傾向だ。言葉から透けて見える小泉政権の「本性」とは−。

■安定政権になり顕著

 「私の若いころの犯罪のとらえ方、対策とずいぶん変化している。やはり相当、社会の変化を意識して犯罪、非行、治安対策を考えなければいけないと申し上げたかった」

 谷垣禎一財務相は八日の会見で、自らの失言について、そう釈明した。

 問題となったのは「昔はナイフは男、放火は女性の犯罪」という発言だ。この「解説」の事実関係について法務省の法務総合研究所に問い合わせると、「二〇〇二年度に放火罪で新たに受刑した人のうち男性は二百七十二人、女性は三十八人です」。同財務相の「若いころ」だった四十年前(当時十九歳)の一九六四年は、男性三百三十三人、女性三十四人(司法統計年報)で、女性が占める割合はほぼ変わっていない。

■持論こだわり訂正に応じず

 財務相は、それでも言い分にこだわる。「私が学生時代の刑事法の教科書には放火罪を分析し、女性犯罪の典型的なものであることに注意しなければならないという記述があった」

 一方、「元気な女性が多くなったのか」発言で物議を醸している井上喜一防災担当相は同日、「(発言を撤回する考えは)ありません」と、訂正に応じない考えを重ねて強調した。

 子どもや女性が被害者となる殺人、暴行事件について政治家の発言は、慎重の上にも慎重だったはずだった。しかし、小泉政権の安定した昨年来、こうした事件での問題発言が目立っている。

■被害者も女児 皆を傷付ける

 これらの発言に共通しているのが、女性に事件の責任を押しつけるかのような感覚だ。民主党の水島広子氏は危機感を強める。

 「井上さんは事件の社会的な影響の大きさを全く理解していない。私も含め親や子どもは事件に衝撃を受け、政府がどう対応するか注目した。そうした状況で閣僚の立場にある人が、軽々しく発言するのは人間性を疑う。今回の事件は被害者も女の子なので、皆を傷つけることになる。でも彼らは、女がわがままを言うから社会がこんなに悪くなったというタイプ」

 昨年は太田誠一氏らの発言に対して、さすがに与党からも野田聖子元郵政相が異議の声を上げた。

 当時の本紙インタビューで野田氏は「短絡的な発想で、子どもの事件とか、社会面的な問題を、すべてとは言わないが女性に責任を押しつけている」「小泉首相も、小渕さん(元首相)のころだったら首がとんでるような発言をしているが、国民が許容しちゃっている」と指摘した。しかし、今回も問題発言を取り巻く状況は似通ったままだ。

 小泉首相は七日、井上防災担当相らの発言について聞かれ、「あまり言葉じりをとらえない方がいいですよ」と答えている。

 八日になり、軽率な発言を慎むよう注意を促したものの、その真意は「未成立の法律がずいぶんある。そういう法案をたくさん抱えているのだから、発言にはよく注意してほしい」。井上担当相が兼務の有事法制担当相として所管する、有事関連七法案の審議への影響を心配してのことで、発言内容への苦言ではない。

 一連の問題発言の裏にある政治家の真意とはいかなるものなのか。

■「女性に責任」幼稚な本音

 コミュニケーション論に詳しい東京経済大の桜井哲夫教授(理論社会学)は、「ナイフは男の犯罪で、放火は女性の犯罪というのは根拠のない思いつきにすぎない。おそらく『八百屋お七』(井原西鶴の戯作のモデルとなり、恋しい男に会うため放火したとされる)を連想したのだろうが、統計とは全く関係ない」としながら、こう話す。「女性が社会的な権利を認められている状況が面白くないという気分がにじむ。しかも自らの発言をたいした問題じゃないと思っている」

 中京大の田中克彦教授(言語学)も「今回の『元気な女性が多くなってきた』という発言は、『女はより多く我慢すべきだ』という“本音”の裏返しだ。本心では女性が社会に進出してきた状況と、これを推進する教育を苦々しく思っているため『それ見たことか』と言わんばかりの言動になる」と指摘する。

 さらに田中教授は「こうした発言は、特に男性の“本音”であり、社会の半分は特に問題だとは思っていない。政治家の失言が続くのも、選挙民がこうした発言を受け入れているためだ」と話した。

 前出の桜井教授も「イラク人質事件で、被害者家族の発言へのバッシングが象徴的だが、社会の鬱屈(うっくつ)した気分は何かのときに嫌がらせという形で出てくる。こうした気分は政治家の発言を支える土壌となっている」と説明し、「小泉首相はすべてをうやむやにし、対立点を作らないことにたけている。国民は強い主張をする人間に反発するが、あいまいさへの反応は鈍い。揺り戻しがこないから、政治家はタカをくくっている」という。

■冷たい心根、ふまじめ加速

 一方、政治評論家の森田実氏は「このごろの政治家は冷たくなった。人間を大事にするという気持ちを失っているという印象を受ける。もちろん汚職も派閥の争いもあったが、以前は人の不幸に対してもっと敏感だった。“本音”が温かみのないものだったとしても公言しないというマナーも廃れてきた」と断じる。

 森田氏は「政治家のモラルが崩れてきたのは森首相のころからだ。森首相は、仲間内で話す軽口を公でも平気で言うと批判されたが、ある時期まで政治家は、表でも裏でも品のない発言はしなかった。裏で下品なことを言う政治家は決してトップには立てなかったのに…」と振り返る。

 特に、小泉政権になってから「ふまじめ」が加速しているという。

■野党にも感染 追及しきれず

 「小泉首相の『人生いろいろ』発言などは、かつての国会なら保守からも不愉快だというやじが飛んだはずだ。それが、与党席はこのふざけた発言に喝さいをあげ、『いろいろ』『いろいろ』と節をつけて後押しする。小泉首相の“ふまじめ”さは、与党だけではなく野党にも感染している。野党の議員も似たようなレベルだから追及しきれない。政治家がものすごく幼稚になっている」と嘆息しながら予言する。

 「国民が“小泉流”を許す限り、自らの低レベルの発言も許されるという政治家の甘えは続く。悲惨な事件に対する人情があったらできないような軽口も、ずっと続く」

◇子どもや女性が被害者の事件に絡む政治家の問題発言◇

早大サークル集団暴行事件で

「集団レイプする人はまだ元気があるからいい」(太田誠一自民党行政改革推進本部長=当時、昨年6月)

「(酒席に)来る女性も女性。夜の2時、3時だってどういうことになるか分かるはず」(森喜朗前首相、同)

長崎市の男児誘拐殺人事件で

「(補導された少年の)親は市中引き回しのうえ打ち首にすればいい」(鴻池祥肇防災担当相=当時、昨年7月)

佐世保市の小6女児事件で

「男がむちゃやって、何かしでかすということはかつてあったかもわからんが、女の子がやったという、こういうのは初めてじゃないですか。男、女の差がなくなってきたんだね。ま、元気な女性が多くなってきたということですかな、総じて」(井上喜一防災担当相)

「カッターナイフで頚(けい)動脈を切るというような犯罪は昔は男の犯罪だった。井上防災相が言いたかったのも、そういう大きな変化があるんだということだと思うんだ」「私が若いころは、男の犯罪と女の犯罪とはかなり違ったところがあった。放火なんていうのは、どちらかというと女性の犯罪なんですね」(いずれも谷垣禎一財務相)

  ※所属はいずれも自民党







http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040609/mng_____tokuho__000.shtml