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2004年06月08日(火) 00時00分

『乗ってられない』『売ってられない』『つくってられない』 三菱自の再生は 東京新聞

 三菱自動車の乗用車にも欠陥隠しが発覚した。リコール対象は二十八万台に上る。とうとう主力の乗用車にも不祥事が飛び火した。しかも、二〇〇〇年のクレーム隠し事件の際も、この事実を公表しなかった。続く不祥事に、製造を支えてきた工場従業員やユーザーの落胆や怒りは収まらない。ブランド離れが加速するなか、再生への道のりは−。 (浅井正智、藤原正樹)

■岡崎工場所長『27年間やってきたのに』

 「三菱らしい車を造ろうと思ってこれまでやってきた結果がこれですから…」とある従業員(29)は、消え入りそうな声で話す。

 梅雨入りして二日目の七日朝、愛知県岡崎市の三菱自動車名古屋製作所(岡崎工場)に従業員たちが続々と出勤してきた。「広報を通すようにと言われているので」と足早に工場に向かう従業員の口は一様に堅い。それでも重い口を開いた従業員の言葉には、悔しさと戸惑いがにじんでいた。

 同社から分社した三菱ふそうによる「ハブ」の欠陥隠しなどで発表された再建策で、三菱自動車は岡崎工場閉鎖を決め、岐阜県などの工場に集約させることになった。そこへ今月二日、三日と立て続けに乗用車二十七車種計約二十八万台のリコール問題が発覚、製造現場に追い打ちをかけた。

 「われわれは一生懸命働いてきた。しかし会社の上層部と現場との風通しが悪かったために、不祥事を招いてしまった」と三十代前半の従業員は会社に不信感をぶつけた。

 「二〇〇六年度までに車体生産を終了する」。岡崎工場に突然の閉鎖通告があったのは先月二十一日だ。従業員は千八百人。一九七七年に操業が始まり現在コルト、グランディス、ギャラン、ディアマンテ、パジェロイオの五車種を一ラインで混流生産している。

■愛知在住8割は『家持ち』不安

 同工場の丹治正幸所長は「千八百人は社内の再配置によって十分雇用を確保できる」とリストラを行わない方針を示しているが、不安は募る。従業員のうち愛知県在住者は八割あまりで、「地元に家を持っていて県外への転勤を嫌がる人もいるはず」(岡崎市商工労政課)だからだ。

 三日に三菱自動車の岡崎洋一郎会長兼社長が同工場を訪問した。従業員の大半が参加した対話集会では雇用への不安などの声が上がった。工場近くの飲食店経営者(52)は、店に来る従業員の中には「社内放送で閉鎖を知らされたが、細かい中身は教えてはくれない。うわさ話ばかりでこの先どうなるか分からない」と打ち明ける人もいるという。

 自ら製造した乗用車の欠陥発覚に、同工場の労組幹部は「社のイメージを悪くさせたのは残念だ」と言うが、「今回の不祥事も四年前のクレーム隠しも(社の体質という)同じ根っこの問題。リコールの発表はそのウミを出すには必要なことだと思う」と話す。

 だが、丹治所長は「七七年以来、この工場で車を造り続けてきたという誇りがある。営々と築き上げてきたのに…という思いはある」と無念さを隠せない。

■ユーザー『会社の体質 利用者向いてない』

 一方、ユーザーからは怒りの声が上がる。

 岐阜県内の会社員(40)は「エンジンオイルがすぐ真っ黒になる。不完全なまま商品にして、ユーザーを実験台にしているような気がしていたが、今回の事件ではっきり分かった。企業体質が根本的に変わらない限り、三菱の車は買わない」と憤慨する。

 サービス面でもこの会社員は「三年前、名古屋地方で車が冠水するような集中豪雨があったが、三菱以外の各社は新聞広告などで『車の移動などご相談ください』と告知した。三菱はなんの手も打たなかった。客第一の商売をしているとは思えない」と断言する。

 石川県内の男性(64)も十年以上のユーザーだが、「ランサーを買ったが、ラジエーターの水漏れがひどくて二年でだめになった。販売店に『欠陥車じゃなかったのか』とクレームを付けたが『一年間の保証期間を過ぎていて対応できない』と言いくるめられた。買い替えて五年乗ったがエンジンオイル漏れが頻発した」と不信をあらわにする。

 さらにこの男性は「最近まで点検の際、書類に整備担当者の名前がなく、番号だけが記されていた。以前から『名前を出せ』と言っているのに、明示するようになったのは一年前からだ。会社の体質が、利用者を向いていないのは事実だ」と指摘する。

 パジェロに乗る都内の会社員(48)は「十年以上乗っていて問題はなかったけど、運が良かっただけだろう。もう絶対買わない」と力を込める。三菱車に乗る静岡県内の女性(67)も「営業マンの人柄がいいから乗っているようなもの。夫は『これじゃ(会社は)つぶれるなあ』とあきれている」と言う。

■路上がテストコース!?

 ディーラーにも困惑が広がっている。同県内の販売店営業マン(53)は「現場は一生懸命やってきただけで、上層部の暗部が明らかになり『エーッ』という感じだ。現場は平謝りで受け身で耐えるしかない。お客さんに下手に言い訳しても揚げ足を取られるだけなので…」と頭を抱える。

 今後の見通しについては「激励の声もあるが、また買ってくれるかどうかは別の話だろう」とやり切れない様子だ。

 実際、日本自動車販売協会連合会によると、先月の同社新車販売台数は、前年同月比56・3%の減と、ブランド離れは進む一方だ。

 三菱自動車は四年前にもクレーム隠しが発覚し、外部からも識者を招いて品質諮問委員会を設置したが、効果はなかったようだ。

 元委員の一人は「何かの儀式に参加させられたような空しさを感じる。委員会では問題化した案件だけについて討議したが、今回明らかになった他の不正は隠されていたことになる」とあきれ、「委員会で重点的に検討したのは、品質を上げるためのチェック体制など方法論で、欠陥を隠すような倫理面で問題があるとは思わなかった」と話す。

 三菱問題に詳しいジャーナリストの内田誠氏は「トラック運転手にはスリーダイヤモンドを隠して走る人も多くなっている。雪印乳業と同じようにブランドごと抹消されるしかないだろう」と悲観する。その上で、同社の体質を批判する。「ハブの30%に亀裂があった事実から想像すると、三菱自動車は必要不可欠な部品の各種試験などをやっていない。事実上、路上がテストコースで、ユーザーが“テストパイロット”だったことになる」

■開発データを国は審査せよ

 さらにこんな体質を放置してきた国交省にも矛先を向ける。「道路運送車両の走行装置の保安基準は『堅ろうで安全な運行を確保できるものでなければならない』などとあいまいで、実効的な検査体制はない。販売車両の認証をする国交省が安全責任を持たず、メーカーに全責任を任せている。国交省が各メーカーの開発データをチェックするような体制にしなければ、三菱と同じような不正は他メーカーでも起こり得る」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040608/mng_____tokuho__000.shtml