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2004年06月04日(金) 00時00分

揺れる少女たち 小6女児殺害 容姿 『チョー気になる』 東京新聞

 「容姿の悪口書かれ、腹が立った」。長崎県佐世保市の小6女児殺害事件で、加害女児(11)はこう動機を話した。「悪口」にいらついていたともいう。思春期を迎えた少女にとって、容姿は最大の関心事だ。自分の外見に対する友達の反応に、一喜一憂する。「容姿」に揺れる少女たちの人間関係は、綱渡りのような危うさをはらんでいる。(蒲 敏哉、浅井正智、中山洋子)

■『髪キモイが一番むかつく』

 「おまえの髪ヘボイとか、キモイとかって言われるのが一番ムカツクよね。男子に言われるのも嫌だけど、チョー仲良かった子に言われるともっとムカツク」

 事件現場の市立大久保小に隣接する学区の小学校の六年女児(11)は、癖毛を指に絡めながらつぶやいた。

 加害女児は取り調べに対し、インターネット上で、自分の容姿を傷つけられるような書き込みを同級生の御手洗怜美(さとみ)さん(12)から複数受け取ったことを動機に挙げている。

 別の六年女児(12)は「殺しちゃうなんてあり得ない」と事件が信じられない様子だが、容姿の話には「化粧なんて考えないけど、低学年のころに比べると髪の毛は気にするようになった。お母さんと一緒に美容院に行く」と言う。

 加害女児も、身だしなみには関心があったようだ。女児の母親は、大型スーパーの有名下着売り場で働く。同僚の女性店員は「事件当日の勤務は休みだったが『事情でしばらく休む』と連絡があった。どうしてこんなことに」と心配しながらも「かわいい下着を娘さんにたびたび買っていたようだ」と話す。

 市内の美容院店主は「一昔前と違って今は男子も女子も美容院に来る。女子は『モーニング娘。』などのタレントと同じにしてほしいってのが多い。襟足をすいて軽く見せる、ウルフカット、シャギーカットと呼ばれる切り方が一番人気。十人女の子が来ると全員そうだね」と言う。

■多感な思春期 自己主張肥大

 さらに「六年生の子はおしゃれの新入生といった感じだが、その分、容姿のちょっとしたこと言うとものすごく反発される。大人の女性より物言いにはそりゃ気を使いますよ」と明かす。

 女児たちの容姿への執着について「保健室の先生」たちが見る子どもたちの状況は深刻だ。

 都内の私立小の養護教諭は「四年生くらいで、身体測定で体重が減ると喜ぶ。身長が伸びる時期で、体重が増えるのが当然なのに肥満傾向にない子でも『よかった』と言う。『ダイエットさせなきゃ』と口にする親御さんも多い」と言う。

 さらに「勉強に自信がない子たちは、人に自慢できるものを必死に探している。その一つがヘアスタイルだったり容姿だったりする」と話す。

 事件が起こった大久保小と同様、一学年一クラスの小規模な公立小に勤務する兵庫県の養護教諭は「最近の女の子は休み時間にしょっちゅうブラシで髪をとかす。手鏡も学校に持ってきている。自己主張の一つで、それが容姿に突出して肥大化している印象を受ける」と説明する。

 一方で「みんなで寄ってたかって冷やかす状況になると、傷はとても深くなる。悪口が、友人関係を断ち切るものだと感じてしまう」と微妙な人間関係を説明する。「特に、クラスが替わらないと、人間関係が固定されてしまう。友達関係で修正が利かず、努力して変わろうとしても、周りが認めない。変わりたいという気持ちとのギャップに苦しむ子もいる」

■ネット傷口広げ

 さらに別の問題を指摘するのは、埼玉県内の公立小の養護教諭だ。

 「最近の子どもたちが容姿を気に病む様子は、『もっとキレイになりたい』と思うこととは質的に違ってきている」と指摘、「ここ最近、保健室に来る子たちで一番多いのは、イライラしている子で、保健室でソファに乗ったり叫んだりして暴れる。数年前に二年生の小さな女の子も『誰かをなぐりたい』と言いながら歩いていた。精神的にとても不安定になっている」と言う。

 そんな思春期の女児の不安定な人間関係を増幅させる“装置”がネットのようだ。

 子どもの心の問題に詳しい教育研究所の牟田武生所長は「現代では、相手と対面し、表情を見ながら話すこと自体にストレスを感じる子どもが多い。集団で群れて遊ばず、誰にも汚されたくない趣味の世界を築いていく傾向が強い」と分析。

 その上で「とりわけ(ネット上で会話する)チャットは『おはよう』から始まって『おやすみ』を言うまで続き、親密度が高くなる分、相手を支配する感じになることもある。それだけに、ちょっと攻撃的な言葉が加えられると、過敏に反応し、高ぶった感情を解消するために突発的な行動に出てしまう可能性がある」と話す。

 今回の事件は、書き言葉のやりとりが原因といわれる。インターネットに詳しいジャーナリストの谷岡康則氏は「携帯メールの影響で、若者たちは長文を書かなくなった。短文による表現で、より誤解が多くなっている」と指摘する。

 確かに前出の私立小養護教諭は「お互いに『本心』をメールで送り合っている。短い文章でうまく書ききれなくて、『分かってくれない』『私を誤解している』などと保健室に相談しにくる子もいる」とトラブルはあるようだ。

■市内9万世帯 約3万軒接続

 佐世保市でもネットの普及は進む。前出の六年女児(11)は「学校にはパソコンクラブもあるがネットやメールの使用はできない」。一方で「アドレスを持って自宅でやりとりする人はごく少数いる。そういう子は携帯電話でしょっちゅうメールをしている。パソコンやっている子はついていけないくらいすごくやっている。事件の子たちもそういう感じでは」と話す。

 同市内でインターネット接続工事を手がける会社社長は「市内の小中学校のパソコン設置は昨年中にすべて終わっている。市内の世帯約九万軒のうち、既に約三万軒がネットに接続している」と同市でも多くの子どもたちがネットを利用できる環境にある。

 だが、牟田所長は「子どもたちはコミュニケーション能力に欠落がある。子どもが親や友達、地域社会との間で、自分の感情を相手に伝え、また相手から受け取るという関係をつくり上げていかなければならない」と子どもがネットに触れる際の課題を強調する。

■感情伝達能力 未成熟なまま

 東京・六本木で、少女たちのカウンセリングも行っている産婦人科医の赤枝恒雄氏は、こう懸念する。

 「家庭で一人前として育てられたこともなく、傷ついたこともない子どもたちの遊び道具として、ネットは危険すぎる。ネット上に文字として書かれると、子どもは何度も読み返し、恨みつらみを募らせることになる。書かれた言葉は消せないから、恨みを晴らすには相手を消すしかなくなる。予備軍はまだたくさんいる」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040604/mng_____tokuho__000.shtml