悪のニュース記事

悪のニュース記事では、消費者問題、宗教問題、ネット事件に関する記事を収集しています。関連するニュースを見つけた方は、登録してください。

また、記事に対するコメントや追加情報を投稿することが出来ます。

記事登録
2004年05月12日(水) 01時36分

5月12日付・編集手帳読売新聞

 一九五九年(昭和三十四年)、鹿児島県大口市にある神社の屋根裏から落書きが見つかった。一五五九年(永禄二年)の社殿改築に携わった宮大工が記したものである◆「(施主が)一度も焼酎を不被下(くだされず)候、何共(なんとも)めいわくな事かな」。工事の間、ふるまい酒にありつけなかった鬱憤(うっぷん)を落書きで晴らしたものと見える。仕事の後の一杯をよほど楽しみにしていたのだろう◆一日の疲れと憂さをグラスに浮かべて飲み干す。室町時代の職人衆も陶然たる酔い心地を浮世渡世の友にしていたようで、まんざら他人の気がしない。その「大衆の酒」という看板も、銘柄によっては当てはまらない時代らしい◆ブームのなかで「幻の焼酎」とも呼ばれる鹿児島県の芋焼酎「森伊蔵」の偽物をインターネットで販売し、三人が逮捕された。中身は別の焼酎に偽造ラベルを張った一升瓶三本のセットが通常価格の十倍、八万数千円で売れたという◆本物ならばその額を投じても惜しくない人が、少なからずいるのだろう。憂さを浮かべたら罰(ばち)でも当たりそうで、薩摩焼酎を愛した落書きの主もおちおち酔ってはいられまい◆寓話(ぐうわ)のキツネは手の届かぬ場所になっているブドウの実を、「あれはきっと酸っぱいのだ」と我が身に言い聞かせた。「酔っぱらってしまえば酒は酒」と負け惜しみを言ってみる。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20040511ig15.htm