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2004年05月04日(火) 08時42分

<牛肉偽装事件>農水省と業界実力者なれ合い毎日新聞

 大阪府食肉事業協同組合連合会(府肉連)による牛肉偽装詐欺事件は、国のBSE(牛海綿状脳症)対策の問題点を改めて提起した。中でも、農林水産省担当者が業者の要求を受け、府肉連副会長の浅田満容疑者(65)に牛肉の買い取りを要請したことは、農水省と業界実力者のなれ合いを浮き彫りにした。大阪府警は「食肉業界のドン」浅田容疑者の人脈・金脈の捜査で、多額の税金が投入されたBSE対策の暗部の解明を進めている。

◆調査に消極的

 なぜ金銭トラブルで20年近く絶縁状態だった2人が、国産に偽装した輸入牛肉を取引したのか。広島の食肉卸業の田尻正司容疑者(56)と浅田容疑者の接点解明が、大阪府警の捜査課題の一つだった。容疑者らの供述から判明したのは、農水省担当者の仲介。しかし、農水省の背景解明に向けた動きは鈍い。

 国内初のBSE感染牛発見後の01年秋、田尻容疑者は「肉が売れない。買い上げてほしい」と頻繁に農水省に求めた。買い上げ事業の対象となる業界6団体に、田尻容疑者の団体は入っていなかった。同省の担当者は業界実力者の浅田容疑者に買い取りを依頼。浅田容疑者は、約20年ぶりに田尻容疑者と取引した。

 はたして輸入肉と承知しての仲介だったのか。農水省は「制度対象外の肉を買え、とは言ってない」と否定する。しかし、浅田容疑者は「買い上げ対象の肉なら、わざわざ私個人に頼む必要はない」と供述している。

 さらに「あれは当時の武部勤農相サイドから要請された案件」と言う同省幹部もいる。浅田容疑者も周囲に「農水から『大臣案件』と言われた」と話していた。武部元農相の秘書は「田尻容疑者には農水省に行けと言っただけ」と釈明する。

 BSE対策事業の陰で浮上した政官業もたれ合いの構図。その中心に浅田容疑者がいた。農水省食肉鶏卵課は「特段なことがあれば、事実確認はしたい」と、これ以上の調査には消極的だ。

 一方で浅田容疑者は、農水省の対策の動きも的確につかんでいた。

 01年10月の買い上げ制度開始時、解体前の牛肉は隔離・保管し、市場が上向けば業者に買い戻させる計画だった。しかし同年12月、国民の不安解消を大義名分に隔離牛肉の焼却処分が決まる。

 浅田容疑者が統括する大手食肉販売「ハンナン」(大阪市)グループは、買い上げ制度決定とほぼ同時に、対象外の安い輸入肉や乳廃牛を買い集め、焼却場に肉を搬入するトラックも手配した。二転三転する農水省の対策を見越したように先手を打ち続けた。

 大阪府柏原市のごみ焼却場では02年1〜3月、約1600トンもの肉が焼却された。不正防止のため全箱検査が始まった02年4月には、既に肉の焼却はほぼ終了していた。

 雪印食品、日本食品、日本ハムグループに次ぐ業界大手による制度悪用の摘発。補助金に群がる業界だけでなく、不正を許した農水省の対応も改めて問われている。

◆当初から不正疑惑

 浅田容疑者が役員を務める府肉連と「大阪府同和食肉事業協同組合連合会(府同食)」は国産牛肉買い上げ制度で計1718トンを申請。特に府同食(1145トン)の約7割はハンナングループだった。2団体で全国食肉事業協同組合連合会(全肉連)の3割近くを占め、補助金受給額は計33億3000万円と全国の約16%に上る。その突出ぶりに、当時から不正申請疑惑がささやかれた。

 ここ数年、専従班を置いて浅田容疑者の周辺を調べていた大阪府警捜査2課は4月、強制捜査に踏み切った。捜索で段ボール約600箱を押収し伝票などを分析する一方、制度の仕組みなどについて農水省担当者らから聴取している。近く府同食を通じて数億円の助成金を不正受給していた補助金適正化法違反容疑で浅田容疑者らを再逮捕し、BSE対策を巡る事件の全容解明を進める。

 一方、グループ約60社の金庫番とされる「ハンナンマトラス」経理部長、小西和男容疑者(54)も逮捕した。同社は営業実態がないのに年商170億円を計上した。グループ会社間の資金の流れの解明も重要な課題だ。

 ある捜査幹部は「グループは暴力団とのつながりも指摘され、捜査を慎重に進めてきた。いかに税金を食い物にしてきたかを立証し、農水省などと浅田容疑者のもたれ合いも断ち切る」と言う。

 捜査は長丁場の様相だが、不透明な金の流れが出れば、さらに急展開する可能性を秘めている。

◆議員のタニマチ

 4月23日、東京都内のホテルで開かれた相撲部屋のパーティー。鈴木宗男前衆院議員は「わけあって来られなかった浅田会長さんにも心から感謝したい」とあいさつした。浅田容疑者は部屋の有力支援者。故中川一郎元農相を支援していた浅田容疑者は、元農相の秘書だった鈴木前議員にもグループ会社から高級車を提供するなど支援を続けてきた。逮捕後に公の席であえて浅田容疑者の名に触れたところに、両者の関係の深さがのぞく。

 大阪府羽曳野市の小さな食肉卸「浅田商店」を父から継いだ浅田容疑者は、畜産振興事業団(当時)が管理する輸入牛肉の大きな販売枠を獲得したが、87年、事業団幹部への贈賄容疑で警視庁に逮捕される。当時の捜査関係者は「国会議員に金を渡したと供述したが、彼にとって数百万円は一般人の1円くらいの感覚。タニマチ気取りで現金の趣旨を特定できなかった」と振り返る。

 農水省幹部は「『課長、それは違いまっせ』などといつもソフトな関西弁。声を荒らげたことはない」と語る。業界の知人は「表に出ることは避け、団体トップの地位は人に譲る。そんな方法でも周囲をまとめてきた。業界内での存在は大きい」と話す。疑惑を追及してきた共産党の宮原威・大阪府議団長は「周囲が配慮して浅田容疑者の望む方に勝手に動く。フィクサーたるゆえんだ」と指摘する。(毎日新聞)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040504-00000125-mai-soci