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2004年04月24日(土) 00時00分

ぬるま湯体質 見切り ダイムラー『最高機関』 東京新聞

 ダイムラークライスラーが三菱自動車を支援する。国内では「合意済み」とみられていた動きが突然、崩壊した。三菱自はダイムラーのアジア戦略の軸だった。だがダイムラーは三菱自を事実上見捨てた。支援を前提に再建策を練っていた三菱グループは、ぼうぜん自失状態だ。“ゲルマンの変節”の裏には何があるのか、検証した。 (経済部・斉場保伸)

 ダイムラー支援打ち切りの情報が流れ始めた二十三日朝、東京都港区の三菱自本社には世界中のメディアから問い合わせが殺到した。「何が起きたのか分からない。頭の中が真っ白だ」。広報担当者はパニック気味だ。

 そのころ、隣のビルにある三菱重工本社には、同社、三菱商事、東京三菱銀行の最高幹部が集まり始めた。ダイムラー側とのぎりぎりの交渉に、深く関係してきた幹部たちだ。実は、三菱側とダイムラーの交渉は難航していた。七千億円を超える資金を投入し、大規模リストラを迫るダイムラー側に三菱グループの幹部たちは抵抗。「日本人が日本で働く場として三菱自動車を残したい」。幹部たちは訴えた。

 特に抵抗が強かったのは、岐阜県坂祝(さかほぎ)町の「パジェロ製造」閉鎖問題だ。同社は約千四百人の従業員が働き「パジェロは三菱ブランド車のシンボル」(三菱自幹部)だからだ。

 坂祝町側も三菱自に「残してほしい」と陳情を出していた。坂祝町は隣接の美濃加茂市などとの合併問題が浮上している。坂祝町内には「『パジェロ製造』で町の財政はいい」と合併に難色とも受け取れる意見もあった。だが−。

 二十二日、ドイツ・シュツットガルトのダイムラー本社では、「スーパーバイザリーボード」が開催された。日本では「監査役会」と呼ばれるこの組織は、ドイツ国内法で定めた企業の最高意思決定機関だ。この機関の決定は社長を超える。メンバーは二十人で、株主と従業員から半分ずつ選出される。

 今月七日ベルリンで開かれたダイムラーの株主総会では、「三菱自から手を引け」との批判が株主から噴出した。それでも監査役会が認めれば、ダイムラーのシュレンプ社長が掲げる支援路線は、実現する運びだった。しかし、監査役会が出した結論は「ナイン(ノー)」だった。

 ダイムラーグループの二〇〇三年の純利益は前年比90・5%の大幅減でクライスラー部門の赤字が足を引っ張った。ダイムラー自体の株価も、一九九八年のクライスラーとの合併時と比べ40%落ちた。一方、三菱自は〇四年三月期業績見通しで七百二十億円の最終赤字を見込む。

 監査役会は、ダイムラーの“双子の赤字”の存在を重くみた。さらに三菱自など日本側の大規模リストラへの抵抗を「相変わらずのぬるま湯体質」と判断。このままでは「共倒れになる」とみて、双子の一方を事実上切り捨てる決断をしたとみられる。

 ただ、ダイムラーは、アジア各国で高いブランド力を誇る三菱ふそうトラック・バスについては依然、欠陥車問題さえ片が付けば、アジアの商用車戦略の中核になりうると位置づけている。三菱自再建の一環で、ダイムラーはすでにふそう株の65%を手に入れ、子会社化している。ふそうという「うまみ」を手に入れた上で、三菱自という「重荷」を手放した展開に、あるトラックメーカーの関係者から「筋書き通り」との声さえ漏れる。

 クレディスイスファーストボストン証券の遠藤功治自動車担当アナリストも「もともとダイムラーは日本のトラック部門ほしさに二〇〇〇年当時、三菱自に出資した。ダイムラーにとって、三菱自の乗用車は、トラックのおまけだ」とみる。今回の電撃的な支援打ち切り劇の裏では、武骨さの中に隠れた、したたかなゲルマン戦略がうごめいていたようだ。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20040424/mng_____kakushin000.shtml