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2004年04月22日(木) 00時00分

ハンナン事件検証 後ろ盾なくなり?摘発 東京新聞

 国の牛海綿状脳症(BSE)対策を悪用した牛肉偽装事件で逮捕されたハンナンの元会長浅田満容疑者(65)は、政界にも太いパイプを持つといわれる。牛肉買い取り事業を舞台にした同様の事件では、一昨年から昨年にかけ、雪印食品、日本ハムなど大手企業も摘発されている。なぜこの時期に食肉卸最大手のグループにメスが入ったのか。「ハンナン」を検証した。

■農水族人脈活用し急成長

 今回の事件の舞台である大阪府食肉事業協同組合連合会(府肉連)の副会長や、大阪府同和食肉事業協同組合連合会の代表理事も務める浅田容疑者は「食肉の帝王」と呼ばれ、業界に絶大な影響力を及ぼしてきたといわれる。その帝王が会長を務めていたグループ中核企業「ハンナン」とはどんな会社なのか。

 民間信用調査機関のデータによると、同社は非上場で資本金四億六千五百万円。年間売上高は千三百四十三億円(二〇〇二年)で大阪府内ではトップ。ハンナングループ全体では食肉卸業界最大手だ。社長は弟の暁(さとる)氏が務める。

■『手のひらに得意先書く』

 「食肉の帝王・巨富をつかんだ男」(講談社)の著書がある作家の溝口敦さんは「もともと父親の浅太郎氏が終戦直後の一九四七年、大阪府羽曳野市に食肉卸業『浅田商店』を開いたのがきっかけ。満氏は中学中退ながら得意先を手のひらに書いて覚え、抜け目なくチャンスを生かしながら日本ハムの子会社の役員に就任した。その後、家業に重点を移し、国内二十二社、海外五社を率いるハンナングループを築き上げた」と説明する。

 急成長の背景について溝口氏は、こう分析する。

 「一九七三年の石油ショック時に、農水省の外郭団体、畜産振興事業団(現農畜産業振興機構)が予測を誤り過剰輸入した牛肉をハンナン側が引き取った。これをきっかけに農水族の大物国会議員、故中川一郎氏との親交が生まれ、当時秘書だった鈴木宗男(元衆議院議員)氏へと政界人脈がつながっていった。さらに関西の有力暴力団幹部とも親しかった。こうした一面がある一方、弟を社長に据え、頭を低く構えながら、もうけのチャンスを逃さない冷徹な計算ができる経営者だった」

 浅田容疑者の政界との人脈の太さは有名だ。二〇〇〇年七月には太田房江知事が府幹部や、府議らとともに羽曳野市にある浅田容疑者のプール付きの豪邸で会食した事実が府議会でも明らかになっている。「手土産に肉をいただいた」と府幹部は答弁している。

■『厳しい差別のし上がる』

 鈴木宗男氏が使用していた高級乗用車もハンナングループの企業名義だった、という。元国会議員(大阪府選出)の秘書を務めた男性は言う。「選挙でも支援してもらっていたが、表に出てくる人ではない。元自民党幹事長の野中広務氏など、同和問題に理解の深い人を応援していた。成り上がり企業で血族的なバックアップもなく、厳しい差別の中で力でのし上がった。それだけに地位を維持するための後ろ盾が欲しかった。政界に近づいたのは、そのためだろう」

 二〇〇一年九月、千葉県でBSE感染が疑われる牛が見つかった。国民の肉離れを懸念した国は、全頭検査以前に解体された国産牛肉を買い取る方針を決定する。この際、対象の肉か否かを証明するため、当初は、解体処理の証明書と倉庫会社の在庫証明書を添付させる方針だった。ところが、業界の圧力で、在庫証明書のみで買い取ることが決定する。さらに、保管された牛肉は焼却処分することが決まる。この一連の過程で、自民党農水族の働き掛けがあったとされる。

 溝口氏は「ハンナンはグループ全体で千トンを超える量の肉を、浅田容疑者が代表理事や副会長を務める団体を通じて買い取り申請し、大金を得ている。これらの肉は一時保管後、ほとんど焼却処分された。農水省が検査方法を抜き取りから全箱を対象に変更する前にすべて燃やしており、まさに完全犯罪。浅田氏は有力国会議員や大阪府幹部、府議、さらには農水省の外郭団体などさまざまパイプがあり、役所の動きに先回りして動くことができたのでは」と推測する。

 雪印食品など大手食肉会社の牛肉偽装工作が発覚したのは一昨年初めだ。同じような詐欺事件なのに、今回の府肉連の摘発まで二年以上掛かったのはなぜか。

 溝口氏は「最も有力な証拠である牛肉そのものが失われたのが大きかった。物証が出なかったから。個人的には、摘発は無理だと見ていた。大阪府警の粘り強い捜査で企業内部からの証言が得られたり、帳簿などの証拠が押収できたのだろう。今回の事件ではグループ企業のハンナンマトラスの経理部長も逮捕されており、ここらへんを突破口に全容が判明するのでは」と推測する。

 前出の元国会議員秘書は「直感的に思うのは、野中氏や鈴木宗男氏など権力の後ろ盾がなくなったからではないかということだ」と話す。

 一方、共産党大阪府議団団長の宮原たけし府議は、「大阪府警は二〇〇二年にいったん内偵をストップした。それが昨年十二月に、捜査を再開した」と内情を明かす。これについて、地元の府警担当記者は「詐欺容疑で逮捕状を取った容疑者のうち、買い取り対象外の外国産肉を府肉連に持ち込んだ熊本の業者が容疑を認めたから着手できたのだろう。疑惑として報道されたハンナングループ内の話とは別で、それらについては当初、証拠がつかめなかったのでは」。

 さらに、こう続ける。

 「単なる詐欺で浅田容疑者を狙うというのはあり得ない。政界ルートを視野に入れているという見方もある。ただ、浅田容疑者をはじめ否認している容疑者が多く、本件を固めるのに必死というのが現状だ」

 取引先だった雪印食品による輸入牛肉の偽装事件を告発した西宮冷蔵社長、水谷洋一氏は、国の買い取り事業と今回の事件についてこう見る。

 「うがって見たら、偽装することを承知で作った施策にも見える。業者が、国民の税金で助けてもらったら、業者はその中から制度をつくるのに助力した政治家に献金を回す。官僚は官僚で、(事業の窓口となる)農畜産業振興機構に天下りして退職金をもらう。政官業の癒着の中で醸し出された利権というふうにも想像できる」

■『政官の責任押し付ける』

 「ハンナンがやった詐欺行為は救いようがないが、官僚も政治家もここに至るまでの責任を取らず民間だけになすりつけている。もっともそれは、今に始まったことではないが…」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040422/mng_____tokuho__000.shtml