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2004年03月31日(水) 01時14分

3月31日付・読売社説(2)読売新聞

 [筋弛緩剤事件]「これを裁判員制度で裁けるか」

 スピード審理とはいっても、これほど時間がかかるようでは「裁判員制度」など、本当に機能するのだろうか。そんな疑念を抱かせる判決である。

 仙台市内のクリニックで起きた「筋弛緩(しかん)剤事件」で、仙台地裁は、一件の殺人、四件の同未遂罪で起訴された元クリニック職員の准看護師、守大助被告に対し、求刑通り無期懲役の判決を言い渡した。

 被告は、逮捕直後に犯行を「自白」したのち全面否認し、無罪を主張した。直接的な証拠は乏しく、状況証拠の評価が判決の行方を決める焦点だった。

 公判は、裁判員制度を念頭に、裁判の迅速化を図ろうとしたことから、「刑事裁判の新モデル」と注目されていた。

 検察、弁護側、裁判所は協力し、「三年以内の判決」を目指した。公判前の争点整理を積極的に行い、週二回の集中審理を行った。それでも、初公判から二年八か月、公判も百五十六回に及んだ。

 裁判員制度創設の法案が国会で審議されている。有権者から無作為に選ばれた国民が裁判官と共に刑事裁判に参加し有罪、無罪などを決めるというものだ。

 この制度の対象は、死刑や無期刑などが想定される重大事件だ。筋弛緩剤事件のような事件は、制度がスタートすれば裁判員が裁くことになる。

 裁判の迅速化には連日開廷の集中審理が不可欠になる。だが、最高裁が最近行った裁判員制度による模擬裁判では週三日開廷が限度だった。対応する裁判所の能力に限界があったからだ。

 検察官、弁護士、裁判官でも、今回の公判では週二日が精一杯だった。専門家ではない裁判員が参加する場合、さらに審理の時間を要するのではないか。

 現在の刑事裁判は、被告の動機から背景にある事情、犯行自体と細かく立証する方式だ。裁判員制度を導入するなら、事件の核心だけに絞って立証する方式に転換しなければならない。

 今回の判決は、筋弛緩剤の混入の事実を示す「科学鑑定」などを足掛かりに、多数の状況証拠を積み上げた「合理的推認」の結果である。「合理的推認」を重視して、裁判の核心である犯罪事実の認定を行ったのは、新制度を視野にいれた変化の表れだろう。

 この場合、事件全体の詳細な立証がないと、被告が、例えば、量刑などで不利になる可能性がある。だが、こうした問題点は、これまでの政府の司法制度改革推進本部の制度作りの過程でも、国会でも審議されていない。

 「筋弛緩剤事件」判決は、裁判員制度を司法の現場から考え直す契機だ。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20040330ig91.htm