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2004年03月27日(土) 00時00分

豪州牛は『筋だらけ』『味劣る』 酷評にオーストラリア反論 東京新聞

 「オーストラリア牛肉は筋だらけ」(ゼーリック米国通商代表)「われわれが求める味としては劣る」(吉野家・安部修仁社長)−。米国産牛の輸入停止で、日本への輸出をほぼ一手に担うオーストラリアだが、味についてはひどい言われようだ。全頭検査をめぐる日米交渉の陰で見えにくい、オーストラリアの言い分を聞いた。 (早川由紀美)

 「吉野家、ゼーリック通商代表のコメントの意味することは、現在、米国の牛肉の輸入がストップしている中で、オーストラリア牛で代替するのは無理ですよと、それを伝えたかったのだろう。肉の味がどうのこうのということではなく、彼らにとっては米国産の牛肉の輸入再開をすることが重要ですから、日本政府に圧力をかけて輸入再開をしたいということだと思う。政治的なコメントだ」

 オーストラリア大使館のアレン・グラント農務担当参事官は語気を強める。

 オーストラリア肉牛協議会は、ゼーリック通商代表発言については「牛肉生産者に対する最大の侮辱は品質を酷評すること」として謝罪を求める声明を出している。「オーストラリアの牛肉は、牛丼にも向いている。実際、牛丼チェーンにも供給している。問題なのは牛丼に使う特定の部位の供給量が十分にないということだ。吉野家を含む牛丼チェーンは約二千五百万頭分を提供しているが、それだけの供給能力はない。それが実際の問題だ」

 オーストラリアで好んで食べられているのは、牧草牛だ。牧草地で放し飼いして育てる。脂身が少なく、赤身が多いというイメージは、そこから来ている。しかし、この五−十年は、日本向けに穀物飼育牛を増やしてきたようだ。

 豪州食肉家畜生産者事業団のサマンサ・ジャミソン駐日代表が説明する。

■脂肪分増加へ肥育場も整備

 「囲いを設けた肥育場(フィードロット)での穀物飼育も、日本の牛肉自由化後、霜降りの需要があると見込んで始められた。この中で、百日間以上、穀物を与える。穀物飼料はカロリーが高いので、長い期間与えれば与えるほど、脂肪分が増える」

 ジャミソン代表は、同事業団が出している二種類のパンフレットの写真を示し説明する。一枚は、青々とした牧草地で優雅に草をはむ牧草飼育牛の飼育風景、もう一枚が囲われたフィードロットでの飼育風景だ。「スローフード、スローライフというトレンドがあります。大自然の中で育てている牧草牛はスローライフというコンセプトには合っているといえるでしょう。肥育場でも牛は動き回れますが…」

 グラント参事官も皮肉を交えて話す。「面白いもので、スーパーなどに行くと、穀物飼育牛のところでも牧草の上に立っている写真が飾ってある。国産の、牧草なんて食べたことがないかもしれない牛でも、そういうイメージで販売戦略がとられている」

 とはいえ、日本では霜降りの需要は根強いのが実情だ。「オーストラリア国内では十二−十八カ月の非常に若い牧草飼育牛が出回っている。日本に出す場合はそれから肥育場に入れて穀物の餌を与える。米国からの輸入停止で、日本側からの需要が一月、二月に急増している。このため、肥育場に入れておく期間を二百日間から百五十日間に減らしている」

 同国大使館によると、オーストラリア産牛肉の昨年の対日輸出量は、米国をわずかに上回る約二十八万トンで、日本の牛肉輸入量の半分を占める。このうち穀物飼育牛は十一万トンとなっている。今年に入り、穀物飼育牛の輸出量は一月、二月の二カ月で前年同期比34%増えているという。牧草牛を日本向けに肥育場に入れている分、オーストラリア国内に出回る分が少なくなっていると言う。

 「オーストラリア国内の消費のピークは十二月から一月初めで、一月から三月は消費が落ち込んでいるので問題ない。ただそれは短期的な解決策で、長期的なものではない」(ジャミソン代表)

 同国は、米国の牛海綿状脳症(BSE)発生後、日本政府に対し、穀物飼育牛十万トン、牧草飼育牛十万トンの輸出量拡大が可能と説明してきた。「需要があり、いつまで米国からの輸入がストップするのかが分かっていればという条件のもとです」(同)

 だが、その「条件」の見極めが「現在、非常に難しい状況だ」とグラント参事官は明かす。「いつの日か必ず、米国産牛の輸入は再開される。そうすれば日本の業界は米国からの仕入れを再開するわけで、設備投資をするにも注意深くしなければいけないし、穀物飼育牛も非常に注意して増やさなければいけない」

 国内向けにも穀物飼育牛が出ていないわけではないが、穀物を与える期間は三カ月以内と言う。日本向けの穀物飼育牛を今後何カ月もかかって増産した時点で、米国からの輸入が再開した場合、オーストラリア国内で丸々肥えてしまった霜降り牛が宙に浮く事態にもなりかねない。

 米国産牛の輸入再開については、全頭検査の実施をめぐりこう着しているが、米国内では民間業者による自主検査の動きも出ている。

 二十五日の定例記者会見で農水省の石原葵次官は「わが国の消費者の意向に沿った動きと思われるので歓迎したい」とする一方で「あくまで米国政府が関与していただくことが大事」との姿勢も崩していない。

 前全国消費者団体連絡会事務局長で、現在雪印乳業の社外取締役を務める日和佐信子さんは「今、日米間で焦点になっているのは全頭検査だが、これ自体がリスクに見合わないオーバー規制だ」と指摘する。

 「本来は解体の際、異常プリオンのたまる特定危険部位をちゃんと除去できるかどうかを輸入再開の条件にするべきで、本質的なところの議論がなされていない。何でも米国の言いなりになるのは反対だし、米国産牛が安全かどうかは分からないが、議論は科学的になされるべきだ」

■メンツで交渉 引くに引けず

 そのうえで日和佐さんは今後について推測する。「もともと全頭検査が導入されたのは、行政の不手際で対応が後手に回り、BSE騒ぎが大きくなってしまったためだ。いわば行政のメンツのためにやったことなので、そのメンツを守るために今回の交渉でも引くに引けないのだろう。でも一方で科学的なものではないから、ころっと変わる可能性だってある。オーストラリアは穀物飼料を与えず、今まで通り育てておくのが無難では…」

 日本の現在の姿勢がいつまで続くと思うか、と尋ねるとグラント参事官は慎重に言葉を選んだ。「交渉の当事者ではないので何とも言えない。BSEはすべての関係者に影響を与える。できるだけ早く通常の状態に戻ればと望んでいる」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040327/mng_____tokuho__000.shtml