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2004年03月20日(土) 01時16分

<週刊文春>異議退け、販売差し止め支持 東京地裁毎日新聞

 前外相、田中真紀子衆院議員の長女らの私生活を取り上げた「週刊文春」の販売差し止めなどを命じた仮処分決定に対し、東京地裁は19日、発行元の文芸春秋(東京都千代田区)が申し立てた保全異議を却下し、差し止め命令を支持する決定を出した。大橋寛明裁判長は「長女は純然たる私人として生活しており、記事には公益性がない。公表により著しい損害を被る恐れがある」と判断した。

 そのうえで「表現の自由は民主主義国家の基礎と言うべき重要な権利だが、無制限に保障されるものではなく、差し止めを命じた仮処分決定は相当だ」と結論づけた。文芸春秋側は決定を不服として、20日、東京高裁に保全抗告する。

 問題となったのは、17日発売の週刊文春(3月25日号)が3ページにわたって掲載した長女ら側の私生活に関する記事。

 決定は「長女は公務員でも選挙候補者でもなく、それに準じた立場にもない」ことなどから、記事は「公共の利害に関する事項」ではなく「公益を図る目的」もないと判断。さらに、「(報道内容は)純然たる私事に属することであって、他人に知られたくないと感じることがもっともであり、保護に値する」と認定した。

 また、出版による長女の不利益と、差し止めで生じる文芸春秋の不利益を比較し、「表現(記事)の価値はプライバシーの価値より低い」と長女ら側の主張をほぼ認めた。「小説に比べ販売期間が短い週刊誌の特性も踏まえると、差し止め以外救済方法がない」との見解も示した。

 16日夜に事前差し止めを認める東京地裁の決定文を受け取った文芸春秋側は、約77万部のうち約3万部の出荷を取りやめた。出荷済みの約74万部について、今回の決定は「(取次店に渡った段階で)販売行為は完了しており、差し止めの対象外」と事実上違法性を否定した。

 一方、長女らは「差し止めに違反した場合、1日当たり6766万円の制裁金を支払え」とも求めた。仮処分決定の効果を維持するための「間接強制」と呼ばれる手続きで、別の決定で金子直史裁判官は19日、命令に反した場合、同社に1日につき274万円を支払うよう命じた。同社は当初から「残りの約3万部は出荷しない」と表明しており、この決定の影響は少ないとみられる。

 この問題で出版禁止を求めた長女ら側の申し立てを受けた東京地裁の鬼澤友直裁判官は16日、「切除または抹消しなければ、販売や無償配布したり、第三者に引き渡してはならない」と、出版物の事前差し止めを認める異例の決定を出していた。【小林直】

 ◇解説

 週刊文春の販売などを差し止める仮処分を支持した19日の東京地裁決定は、表現の自由よりプライバシー権を重視して、文芸春秋側の主張を退けた。出版物の事前差し止めを例外的措置と位置づけた「北方ジャーナル事件」の最高裁判決(86年6月)も踏まえたうえでの判断で、週刊誌の記事としては特異とは言えない今回のケースでも、2度にわたって差し止めを「相当」と判断されたことは、雑誌報道の形態にも影響を与えかねず、業界に衝撃を与えそうだ。

 名誉棄損訴訟の判決では、従来、数十万〜数百万円だった賠償額が1000万円以上に引き上げられるケースも出始めている。特に週刊誌が敗訴するケースが多く、ベテラン裁判官は「本来は自助努力で是正してもらいたいが、編集方針に変化を感じない以上、ある程度『痛い』と感じる賠償を命じるしかない」と厳しい目を向ける。

 差し止め命令は、こうした流れの中で出された。ただ、損害賠償などの事後的な措置とは異なる事前差し止めだったため、「最高裁の基準に合致しているだろうか」と懸念を表明する裁判官もいた。しかし決定は「名誉なら侵害されても賠償で回復を図れるが、プライバシーは侵害されると回復困難」と述べ、名誉棄損が争われた北方ジャーナル判決と比べ、田中真紀子前外相の長女のプライバシーが問題となった今回のケースを「一層、差し止めの必要性が高い」と判断した。表現の自由を大きく制約する決定であることは間違いなく、異論も予想される。

 今回の仮処分決定を巡っては、単独審理だったことや、決定文に理由が付されていなかったことにも批判が集まった。異議申し立て後の審理では、複数の裁判官による合議に切り替え、決定文に異例とも言える20ページの理由を記載した。結論が与える影響を考慮した措置とみられ、一定の評価はできるが、当初から万全の態勢を取り、説明責任を果たすべきではなかったのか、という疑問は残る。【小林直】

 ◇ことば  保全異議の申し立てと保全抗告

 販売などを差し止めた東京地裁の仮処分決定は、民事保全法に基づく民事保全命令だった。同法26条は「命令を発した裁判所に保全異議を申し立てることができる」と規定しており、文芸春秋側は保全異議を申し立てた。申し立てを受けた裁判所は、口頭弁論または審尋を経て、異議を認めて命令を取り消したり、変更したり、異議を却下したりする決定を出す(同法32条)。19日の東京地裁決定はこれに基づくもの。地裁決定に不服なら、決定送達の翌日から2週間以内に高裁に保全抗告でき(同法41条)、高裁決定に憲法違反や判例違反などがある場合、送達の翌日から5日以内に最高裁に特別抗告や許可抗告(民事訴訟法336、337条)ができる。

 文芸春秋の話 仮処分決定が事前の販売差し止めを例外中の例外とした最高裁の判例に明らかに反することを再三主張してきたが、またしても一方的な判断が下されたことに怒りを禁じえない。今回の決定が前例として定着し、事実上の検閲の常態化に道を開き、国民の知る権利を奪う結果に至ることを憂慮する。

 田中前外相の長女の話 仮処分決定が認められたことをうれしく思います。言論の自由は非常に大切と考えていますが、今回は悪質で意図的なプライバシー侵害がありました。仮処分決定後も文芸春秋が販売を停止しなかったことで、本来意図していたこととは全く逆の事態になってしまい、精神的苦痛を感じています。

   ◇   ◇

 長女側の代理人の弁護士は19日の決定後、「文芸春秋には、完全回収、交通機関内の中づり広告の撤収を求める」とするコメントを発表した。(毎日新聞)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040320-00000052-mai-soci