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2004年03月20日(土) 08時54分

3月20日付・読売社説(1)読売新聞

 [出版禁止追認]「被害の『回復』など出来るのか」

 文芸春秋の「週刊文春」最新号に対する出版禁止命令を追認する決定が出た。同じ東京地裁での同一の判断である。

 元外相、田中真紀子衆院議員の長女の私生活に関する同誌の記事をめぐり、東京地裁は、出版禁止の仮処分決定を不服とする文春側の異議申し立てを退けた。

 地裁の決定によると、長女は、「私人に過ぎず」、記事は「公共の利害に関する事項でないことは明らか」とした。

 そのうえで、「プライバシーは、極めて重要な保護すべき法益」だと判断し、「重大で、著しく回復困難な被害を被る恐れがある」として出版禁止の妥当性を認めた。

 地裁決定は、プライバシーの権利を、ひとたび侵害されると、回復するのが困難ないし、不可能とした。

 注目されるのは、事後の救済の余地が残されている名誉の保護よりも、プライバシーの保護は一層、事前差し止めの必要性が高いと付言したことだ。これは、画期的内容である。

 今回の決定が与える影響は極めて大きい。一部のメディアの興味本位の露骨なプライバシー侵害が横行するなかで、出版側の「売れさえすればよい」という姿勢がある。決定は、こうした風潮に厳しく猛省を迫るものだ。

 しかし、長女側の被害の回復は地裁決定が指摘するように不可能に近い。現実に今回の場合、出版禁止の仮処分決定の前に、多くの部数が出荷された。

 憲法が保障する「表現の自由」は民主主義の根幹だ。だが、地裁決定は、表現の自由が無制限に保護されているのではなく、プライバシーを侵害する表現は、「表現の自由の乱用」だと戒めた。

 こうした乱用は、表現の自由の内実をメディア内部から壊し、読者の信頼を失う自殺行為だ。

 一連の出版禁止をめぐる訴訟の意義を、メディア側は真摯(しんし)に受け止めなければならない。自律的な取り組みに力をいれる必要がある。

 新聞界では、社内に第三者委員会を設け、個々の苦情への対応を公表する動きが広がり、読売新聞社を含めて三十四社が実施している。

 日本雑誌協会も、苦情受け付けの「雑誌人権ボックス」を開設したが、第三者は入らず、結果も公表されていない。不透明かつ不十分な対応だ。

 メディア側は表現の自由に、いささかも甘えてはならない。「出版禁止」をめぐる司法判断は、「表現の自由」に値する、メディア側の実効ある自助努力を強く求めている。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20040319ig90.htm