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2004年03月20日(土) 00時00分

文春仮処分『妥当』を識者検証 東京新聞

 週刊文春の出版禁止仮処分をめぐり、十九日の東京地裁は「処分は妥当」とする決定をした。表現の自由との絡みで、例外中の例外でなければならないとされる「事前差し止め」を、決定はどのような理由で追認したのか。専門家の意見をもとにその是非を検証する。 (社会部・文春問題取材班)

 決定は、「プライバシー権は極めて重大な保護法益」と位置づけ、侵害されれば回復困難なため「事前差し止めの必要は、名誉保護の場合よりも一層高い」とした。

 だが、青山学院大学の清水英夫名誉教授(憲法、言論法)は「プライバシー権の方が差し止めの必要性が高いという地裁の判断には疑義がある。ケース・バイ・ケースで判断すべきで、どっちが重いと一般化するのはおかしい」と批判する。

 また「一つの記事で雑誌の発売を差し止めるのは、他の記事も読者に届かないという重大な結果を招く。決定は記事を削除して雑誌を印刷すればいいと言うが、現実離れしている」と述べた。

 東洋大学の大石泰彦教授(メディア倫理・法制)は「プライバシー権は侵害されると事後的に回復できないため、より事前差し止めになじむことは事実」と一定の理解を示す。だが、「表現の自由が百パーセント保障される社会が恐ろしいのと同様、百パーセントのプライバシーが認められる社会も怖い。差し止めは例外であるべきなのに、田中元外相の長女を私人として形式論理を展開しているのは疑問だ」。

 決定は、「著名な政治家の娘であっても、長女は私人にすぎない」とし、長女の私生活に関する週刊文春の記事には「公共性も、公益性もない」とした。

 こうした判断に、大石教授は「田中家はただの政治家一家ではなく、戦後政治や最近の政治に果たした役割、影響を考えれば、制度的には私人であっても田中ファミリーの動静を伝えることに意義はある。興味本位の記事と言い切ることはできない」と言う。

 柳美里氏の著作「石に泳ぐ魚」訴訟の原告側代理人を務めた梓沢和幸弁護士も「田中外相の長女は“準公人”」と言い、「政治家の家族や周辺が違法献金の対象になる可能性だってある。それを明らかにしてきた報道の実績を地裁は考慮していない」と語る。上智大学の田島泰彦教授(憲法、メディア法)は「今回の判断に乗じ、政治家らが安易に出版差し止めを求めてくる可能性もある」との恐れを指摘した。

 決定は、「週刊誌は短期間で販売が終了してしまうので、小説などによる権利侵害の場合とは異なり、事前差し止めを認めない限り、救済方法がない」とした。

 ノンフィクション作家で最近、小泉純一郎首相の姉・信子氏のリポートを発表した佐野眞一さんは「より速報性がある新聞、テレビ、インターネットでは、より事前の差し止めが必要になる。話にならない根拠だ」と切り捨てる。長女のプライバシーの中身についても「いくらでもある話。重大な人権侵害とはいえない」と言う。

 田島教授は「今回の判断を含め、裁判所側は近年、表現の自由の重要性への配慮が足りない」と述べ、「こうした論理で差し止めが認められれば検閲と同じことになりかねず、ジャーナリズムの存在が危うくなる」と危ぐする。大石教授は「大部数の週刊誌の差し止めはこれまでなかった。政治権力者は差し止めという大きな武器を持った。表現の自由にとってはシビアな状況だ。メディアはその恐ろしさを踏まえながら、権力の動きを監視していかなければならなくなった」と語った。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20040320/mng_____kakushin000.shtml