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2004年03月19日(金) 00時00分

暴走する支店長 過酷取り立て 東京新聞

 「夫婦二人で死んでください」−。かつての商工ローンの取り立てではない。UFJ銀行の支店長が貸し付け先に返済を迫った際の言葉といわれる。十七日の国会審議で、この会話メモが明らかにされた。金融機関による「貸しはがし」が激化するなか、メガバンクの担当者まで過酷な「取り立て」に駆り立てられたのだろうか−。 (藤原正樹)

 UFJ銀行A支店長「あなた、宗教は何かね」

 Bさん「私は仏教ですけど…」

 A支店長「クリスチャンなら死なないんだけどね。仏教か」「あなた、一人で死んじゃだめだよ」「死ぬときは、ご主人と二人で死んでください」

 Bさん「仏教徒でも死んだりしません」「(債務返済のため土地を売却した場合)譲渡税と手数料を置いていただける(売買代金から控除していただける)んですか、残債務を放棄してくれるんですか。前支店長はそう言っていましたけど、どうなんですか」

 A支店長「銀行がそんなの置くわけがないだろう」「そうか、税金が怖くて売れねえんだ」「もし税金のことが心配ならば、競売しちゃって、税金払わなけりゃいいんだ。競売だ」

 十七日の衆院財務金融委員会で、民主党の中塚一宏議員が暴露したUFJ銀行支店長による「取り立て」の内容だ。Bさんが民事再生法に基づいた裁判所への申立書類中の「面談記録」として記載されているやり取りで、昨年三月、Bさんの不動産賃貸会社内で交わされた会話だという。

■国会での指摘UFJは否定

 首都圏の商業地で土地を保有するBさんの父親はUFJ銀行の前身の旧東海銀行から一九八七年ごろ、所有地に出店したディスカウントストア建設資金二十億円などを借りた。一昨年一月の時点で、負債合計は約四十億円に膨らんでおり、それまで毎月一千万円以上返済してきたものの、資金繰りが苦しくなっていた。そのころ新たに赴任してきたA支店長は、Bさんの負債を「不良債権」として関連会社に売却することをBさん側に告げた。会話は、それに抵抗するBさんとA支店長のやり取りだ。

 国会では、中塚議員の質問に対し、寺西正司UFJ銀行頭取が「不良債権処理で個別の事情があり、機械的な対応はしないと決定しているが、顧客との間で解決を図れない例もある。しかし、話し合いで極力しんしに対応している。(この事案について)事実確認の上、適切に対応したい」と答弁した。その後、同行は文書で「不適切な発言を伴う債権回収の交渉については全くの事実無根である。本件は現在、債務者申し立てによる民事再生法のもと整斉と手続きが進められており、弊行も債権者として協力しているところである」と否定している。

 同行広報担当者も「死んでくださいなどと、言うわけがない。中塚議員の話は一方的で、(事実確認しようにも)言った言わないの話になってしまう。(やり取りを録音した)テープがないと理解して対応している」と反論した。

■本部長や常務“土下座営業”

 かつては商工ローンの過酷な取り立てが社会問題となったが、大手都銀が、こうした取り立てをすることはあり得るのか。

 元みずほ銀行支店長で作家の江上剛氏は、著作「起死回生」の最終章で、次のような描写をしている。

 あるメガバンク支店課長「(テーブルをけ飛ばし)バカ野郎。財産隠しているだろう。おまえが死ぬまで追いかけてやるからな」

 この支店から二千万円の無担保融資を受けたが返済できず破産した会社社長が昨年、会社更生法による再建の道を選び支店にわびに訪れた時の銀行側の対応だ。江上氏はこの記述を「実話だ」と証言する。

 「自分が現場にいた一年前も、腹を立てると顧客の前で、テーブルの上に足を上げてすごむ支店長はそこら中にいた。中塚議員が話したような過酷な取り立ては一般的だった」

 中小企業の経営相談に応じ「倒産110番」を設置する八起会の野口誠一会長も「バブル崩壊以降、銀行の担当者から『死んで保険料で払え』と言うヤクザ者まがいの取り立てがあったとの相談は、複数受けてきた。銀行だって、昔から荒っぽい取り立てがなかったわけでない」と明かす。

 金融ジャーナリストの田島智太郎氏も「(国会で中塚議員が取り上げた事案があったとされる)昨年三月は、歴史的な金融恐慌の危機にさらされていた時期で銀行全体が自己資本比率をキープしようと、本部長や常務まで“土下座営業”を行っていた。支店長レベルでは、常識ではあり得ないような暴言があっても不思議ではない」と分析する。

■末端幹部には電話鳴り続け

 「資産家が一カ月一千万円以上返済していたのが事実なら、銀行にとって上得意で、従来なら、貸しはがしをすれば銀行自体に傷が付くような相手だ。しかし切羽詰まった時期には、返済する意思があり資産がある相手が一番取り立てやすくターゲットになる」

 田島氏は金融庁の締め付けも、「貸しはがし」が激化した一因に挙げる。「金融庁は、マニュアルで銀行の資産査定を厳格化し不良債権処理を促す一方、不良債権となりやすい中小企業向け貸し出しを増やせと相反するノルマを銀行に五年間も課し続けている。末端幹部の支店長には朝昼晩、本部から数値目標が指令され電話が鳴りっぱなしになる。支店長は上からどやされるのが嫌で切羽詰まった心理状況に追い込まれる。貸しはがしする銀行担当者の側も、される側も“国の被害者”といえるだろう」

 銀行の厳しい「貸しはがし」は今後も続くのか。江上氏は「現在は状態の悪い会社の見極めがより早くなっている。『飛ばし』の形で、関連会社に債権を売り銀行本体から不良債権を切り離している。金融庁から二〇〇五年三月末までに不良債権半減という指令を受けており、来年四月のペイオフ全面解禁で財務健全性をアピールできない銀行は預金が逃げ、破たんに追い込まれる。格付けが低い中小企業の処理が加速度的に進む可能性が高い。その過程で、過酷な取り立ては今後も続く」と悲観する。

 田島氏も、こう予測する。「健全な銀行でも、金融庁が『問題あり』と認めれば公的資金を注入できる新法が今国会で成立するだろう。今夏前に少なくとも五、六行に公的資金が入り、ペイオフ全面解禁に向け、赤字企業切りが進む」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040319/mng_____tokuho__000.shtml