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2004年03月18日(木) 00時00分

どうなる『表現の自由』 週刊文春出版禁止命令  東京新聞

 東京地裁が「週刊文春」の出版禁止の仮処分を命じたのに対して、発行元の文芸春秋は十七日、異議を申し立てた。地裁は、田中真紀子元外相の長女に関する記事がプライバシーを侵害しているという判断だ。出版の事前差し止めは異例。「表現・出版の自由」とは何なのか。ジャーナリズム論が専門の有山輝雄・東京経済大教授と、報道被害救済弁護士ネットワーク代表の坂井真弁護士に聞いた。 (社会部・佐藤直子、鬼木洋一)

■公人“優遇”判例続けるな 有山輝雄氏東京経済大教授 ジャーナリズム論

 プライバシーに立ち入った報道が望ましいわけではないが、現代の政治で、政治家とメディアは持ちつ持たれつの関係にあるのが現実だ。政治家は選挙になると、自分の家族などプライベートな部分を露出し、自らのイメージアップにつなげる。都合のいい時だけメディアを利用し、都合の悪いことは「プライバシー侵害」と主張して遮断するのはおかしい。

 とくに、真紀子さんは著名で有力な政治家だ。その周辺にいる人は、厳密には公人ではなくても、公人に近い人。長女が日ごろ、どの程度の私生活を露出していたのかは知らない。しかし、公人の周辺にある人の報道によって、市民は公人を評価する材料を持ちうる。

 公人の「愛人」報道は公職から退かせる端緒になる。その愛人のことが「書いてはならない人」でないのと同じだ。

 真紀子さんの長女は将来、選挙に出る、とも目される人。問題になった記事が、報道に値するものかどうかは吟味が必要だが、一般に出版差し止めは検閲的効果を持つ。メディアの行動に対する有効な解決策ではない。

 メディアに対しては、報道のあり方に対して反省も求めたい。しかし、ジャーナリズムは元来、既成の枠を乗り越えていく活動だ。時には危険なものにもなりうる。ぎりぎりの報道が社会を動かすこともある。

 近年、政治家ら公人の報道に対する損害賠償請求訴訟で、メディア側に高額の支払いを命じるケースが増えている。メディアに対する規制とみられ、今後もこの傾向は続くだろう。司法が、権力に近く、対抗手段を持ちうる公人を“優遇”するような判例を積み上げてはならない。

■過剰反応せず記事吟味を 坂井 真氏 報道被害救済弁護士ネット代表

 「出版差し止め」という結果だけをとらえて、短絡的に「メディア規制だ」と過剰反応するのは誤りだ。記事をしっかり吟味する必要がある。

 たとえば、青少年の教育問題に取り組む政治家が、実は家庭内では暴力をふるっていた、という内容の記事なら、ぜひ報道すべきだろう。その際、匿名で家族が登場するのは仕方ない。

 だが、週刊文春の記事を読む限り、真紀子さんの政治家としての資質とは何ら関係のない内容だ。報道する上での公共性はとうてい認められない。

 真紀子さんの長女は後継者候補で、純然たる私人ではない、との考えもあるかもしれない。だが、長女が後継者候補だとする、具体的な根拠は記事の中で示されていない。いくら有名な政治家の娘といっても、別人格だ。公人を親に持った人にプライバシーはない、という論理は成り立たない。

 近年、メディアによるプライバシー侵害や名誉棄損について、損害賠償額が高額化する傾向にある。この流れがメディア規制の強化につながる、と危ぐする声は強い。

 だが、私のように報道被害者と接している立場からすると、百万円を超えることがほとんどなかった数年前までの損害賠償額が低すぎた、との思いが強い。

 何年も法廷で争って勝訴しても、得られるのは弁護士費用にも満たない額だった。このため、報道被害を受けても、泣き寝入りする人が多かった。

 ただ、賠償額高額化の流れに政治家が便乗したり、法律によるメディア規制を実現しようとする動きは報道の自由を侵す恐れがあり、警戒が必要だ。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20040318/mng_____kakushin000.shtml