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2004年03月17日(水) 12時44分

社説2 週刊誌差し止めの重い波紋日経新聞

 田中真紀子前外相の長女についての記事が載った週刊文春の販売を禁止する仮処分決定を東京地裁が出した。「記事はプライバシーの侵害に当たる」という長女側の主張を認めたものである。

 政治家の家族であっても、みだりに私生活を公表されない利益を持っている。それが侵されそうになったら、防ぐ手立てを講ずることも認められるべきであろう。

 しかし、出版物の差し止めは、情報を国民に触れる前に遮断する効果がある。民主社会は、自由な情報の流通を前提に成り立っている。情報の遮断は、国民の耳や目をふさぐことになる。それが認められるには、よくよくの事情が必要である。

 そこで最高裁は、公職の立候補者について原則として出版物の差し止めは認められないが、記事の内容が真実でなく、公益を図る目的でないことが明白であって、被害者が重大で著しく回復困難な損害を被るおそれのあるときに限り差し止めを認めるという調整ルールを示した。

 このルールを今回の場合に当てはめたらどうか。祖父は元首相、両親はともに国会議員だが、本人は全くの私人である。有名政治家の娘というだけで私事をあれこれ公開されたのではたまったものではない。このケースでは、国民の知る権利より個人のプライバシーが優先すると裁判所は判断したのだろう。

 懸念されるのは、この決定が差し止めを簡単に認めがちな最近の裁判所の判断を加速しないかということである。確かに芸能人や政治家のプライバシーを売り物にする週刊誌や夕刊紙、テレビのワイドショーには批判が高い。相次いだ差し止め命令や高額の名誉棄損賠償金は、自業自得といえなくもない。しかしこれらも国民にとっては多様な情報源であることは否定しがたい。

 民主社会が表現の自由に高い価値を与えているのは、国民の政治参加だけでなく、自己の人格完成にも不可欠な権利であるからだ。そうであれば多種多様な情報が自由に流通することが望ましい。プライバシー保護との調整はこの二つの価値の実現に役立つかどうかで判断されることになる。私人のプライバシーを暴くだけの情報が役立つとは思えない。

 

http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20040317MS3M1700H17032004.html