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2004年03月12日(金) 00時00分

まだある 社保庁の年金流用 東京新聞

 大規模保養基地(グリーンピア)など年金関連施設の事業失敗のツケが、年金財源をむしばむ。年金積立金の事務費への充当は、割安家賃の職員宿舎建設をはじめ、「あれもこれも」と、法律の拡大解釈ともとれるほど際限がない。その背景には、「だれも責任を感じないシステム」が見え隠れする。 (星野恵一)

 「社会保険庁の非常勤職員が加入する厚生年金保険料のうち、雇用主として同庁が負担する保険料の財源は、実は国民の年金積立金なんですよ」。こう指摘するのは、民主党の長妻昭衆院議員だ。

 厚生年金の保険料は、加入者負担分以外は、雇用主と国が折半する仕組みだ。国家公務員の雇用主である国は、負担分を「人件費」として税金から支出するが、非常勤職員の雇用主である同庁は、雇用主負担分を積立金から「流用」しているというのだ。

 ■給与や諸手当年間10億円に

 まるで、国民が、同庁の非常勤職員の雇い主となったような格好だ。その額は、同庁によれば二〇〇四年度予算で十一億一千万円、〇三年度予算で約八億九千万円だ。

 長妻氏が言葉を継ぐ。「非常勤職員の一部給与にも積立金が充てられている」

 同庁の非常勤職員は約四千人で、年金徴収対策など専門的な事務に携わる職員や簡単な事務補助員がいる。同庁によれば、財政再建のために特別措置法が一九九七年に施行された後、給与や諸手当として流用された積立金は毎年十億円前後に上る。

 さらに、同庁職員約千七百人の健康診断の費用も、以前は国庫から支出していたが、今は積立金が財源だ。同庁資料では、〇二年度までの五年間で約三億三千七百万円が「流用」され、〇三年度も約七千万円を計上する。「健康保険加入者が健康診断を受けると、費用の一部は税金で負担されるが、年金の積立金は使われない。加入者にも使わないのに、それが社会保険庁職員の健康診断に使われる」。長妻氏は不合理を嘆く。

 こうした「流用」の根拠は、前出の特措法だ。同法では「業務取扱に関する費用」(厚生年金)、「業務の執行に要する費用」(国民年金)と、あいまいな表現で「事務費」を規定し、積立金を充てることを可能とした。

 その結果、巨額の積立金が年金給付以外に「流用」されてきたが、非常勤職員への保険料負担や職員の健康診断費用は、積立金を充てるのが適当だろうか。同庁に尋ねると「年金の事務にかかわる経費」と、答えにならない答えが返ってきた。

 ■箱物だけでなく事務全般にも

 拡大解釈は以前からある。厚生、国民両年金法は、加入者の福祉増進を目的に「必要な施設をすることができる」(原文のまま)と規定。これを根拠に、積立金でグリーンピアなどを造ってきた。年金相談員など一部の非常勤職員の諸手当もそうだ。解釈はこうだ。「法律の規定は、箱物だけではなく、事務全般を指す」(同庁)

 では、財政再建はできたのだろうか。予算ベースでみると、九八年度に税金から支出した同庁の事務費は約二千三百億円だ。積立金を財源とした事務費は六百八億円で、この中には、先の非常勤職員の保険料負担分や、特報面で追及した割安家賃の「職員宿舎」建設費が含まれる。年度を追うと、国庫財源、つまり税金の事務費は年々減少し、逆に積立金を財源とする事務費が増えている。〇三年度予算では、国庫財源の事務費は特措法適用以前と比べて半減し、積立金財源の事務費は、倍近い千七十三億円に膨れあがった。

 「つまり財政再建といって税金の負担を減らし、その不足分に充てるため、年金財源を削ってきただけだ」。財政再建の“まやかし”を長妻氏はこう指摘する。が、財務省関係者は「事務費は全体として減っており、その意味では財政再建になっている」と話す。

 さて、特措法以降の積立金の流用とは別に、繰り返し指摘されてきたのが、先のグリーンピアなど、健康福祉関連施設の問題だ。グリーンピアは全国に十三施設建設され、建設費総額は千九百十四億円に上った。財源は積立金だ。国は全廃の方針を決めている。

 「施設建設時の年金加入者に資するという考え方と、今の考え方が違ってきた。市民らに喜ばれてきたのも事実だ。ただ年金行政として考えたときの評価はどうかということでしょう」。こう話すのは、福島県二本松市のグリーンピア二本松(旧称)の運営にかかわってきた同県の担当参事だ。

 この施設は年金資金運用基金(旧・年金福祉事業団)が建設費を出し、運営を県に委託。県は同市とともに設立した財団法人に運営を委託し、さらに財団法人は、同市と民間会社が設立した株式会社に運営を委託するという方式だった。

 諸事情から民間会社が一昨年、事業撤退を決めたことと、国の全廃方針から、財団法人と株式会社は解散に追い込まれた。負債総額は約一億五千万円で、これは県と市が負担した。

 「運営はうまくいっていた。黒字の年もあった」と同市関係者は胸を張る。だが、建設費の約八十億円は、同基金が国から借り入れた資金で、現在も返済が続く。その返済資金は厚生年金の積立金だ。施設の固定資産税も同基金が負担するが、この財源も積立金だ。

 「建設費を負担して運営となると…、難しい。ただ、よほどの赤字でも施設があれば人が来る。地元にとってはマイナスはない」。同市関係者の本音だ。

 ■施設に人くれば地元にプラス

 運営を任せきりの同基金と、赤字でも施設があること自体を歓迎する委託先の地元。そして、基金に天下りする官僚たちは数年で代わっていく。

 「誰も責任を感じないシステムで、それがおかしい」。こう指摘するのは、年金問題に詳しい武蔵野大学大学院の川村匡由教授(社会保障)だ。

 施設は最終的に同市が同基金から買い取った。価格は約三億一千万円で、総整備費用八十億円との差額分が同基金の負債となり、その穴を埋めるのも積立金だ。

 この仕組みは、全国十三の施設はどこも一緒で、同基金が国から借りた建設費は、積立金から返済されている。すでに約二千七百億円が費やされ、〇三年度から二十年間で七百九十七億円が泡と消えていく計算だ。

 「五兆六千億円」。坂口力厚労相が、国会で明かした年金給付以外に積立金を使った額だ。

 その責任の所在もあいまいなままに積立金は削られ、年金関連の公益法人や特殊法人に天下った官僚OBは、高額な役員報酬を手にしてきた。一昨年度、年金関連の団体で役員を務める官僚OBは百四人で、報酬の総額は十億円に上った。

 川村氏は話す。「グリーンピアなどの施設は地方の活性化という意味はあったにしても、親方日の丸の経営で企業努力に欠けていた。さらに、何十年も中央官庁、地方官庁の天下りの温床にもなってきた。政府が将来の給付を減らし、保険料負担を重くする年金改革法案を通そうとするなら、国民を納得させるためには、天下りの問題にもメスを入れざるを得ない。政治の責任もある。厚生族議員や官僚OBが表に出て、自らの責任を明確にすべきだ」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040312/mng_____tokuho__000.shtml