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2004年03月11日(木) 00時00分

不安の卵1000万個 東京新聞

 鳥インフルエンザ感染に伴う移動制限のため、京都府周辺で出荷できない卵が十日までに一千万個を突破した。さらに一日九十万個ずつ増え続ける。出荷再開にこぎ着けたとしても、その卵は風評からなかなか売れそうもない。今後、新たな感染から供給量が減少しても不安感から消費量がそれを下回り、さらに卵があふれるという事態も。養鶏農家の思いは−。 (浅井正智、松井学)

 「仮に今すぐ移動制限が解除されても、風評被害のせいでこれまで生産した卵は賞味期限内でも引き受け手がない。ここにある卵はすべて商品にならない」

 兵庫県氷上郡の養鶏業者M氏(55)は、出荷できず山と積まれた卵の箱を見ながら深いため息をついた。

 京都府丹波町で発生した鳥インフルエンザで、先月二十七日以来続く感染農場から半径三十キロ以内の移動制限のため、京都、大阪、兵庫各府県には一日で八十七万六千個の卵が行き場を失ったまま保管されている。約二週間で総計一千万個をはるかに超える。

 M氏の養鶏場は約七万羽の鶏を飼い、一日で五万個近くの卵を生産する。これまでに抱え込んだ卵は五十万個に達する。

 自治体の中には保管場所の確保に乗り出すところも出てきたが、当事者の反応は冷ややかだ。二十万個あまりがたまってしまった業者T氏(56)の養鶏場では、保管場所が間に合わず、鶏ふん置き場を臨時の倉庫にしている。卵の保管場所としてはおよそ不向きに見えるが、同氏は「どうせ処分するだけだから、どこでも同じこと」と吐き捨てた。

 養鶏業者の間には「出荷できないのなら、いっそのこと焼却処分してほしい」(T氏)というあきらめムードまで広がる。しかしここにも“壁”がある。手続きがあまりに煩雑だからだ。

 八日、同郡内のある町役場に、町内すべての養鶏業者が集められ、町の農政担当者が焼却処分を希望する場合の手続きを説明した。

 まず町長あてに計画書を提出、運搬の際にはトラックの荷台を消毒、卵を積んだ上にビニールシートをかぶせ、さらに車全体を消毒する。車には防疫員も乗り込み決められたコースを走ることなどが条件−などと延々と説明する担当者に業者の我慢は限界を超えた。

 四十年来、養鶏業を営んでいるH氏(72)が「われわれは行政の指示で出荷制限させられた。それに輪を掛けて、なんでこんな面倒なことをやらなきゃいけないんだ!」とぶちまけた。反対論が続出し、結局、焼却は実施されていない。

■高価ブランド卵補償どうなるか

 養鶏業者にとって第一の心配は、出荷できなくなった卵の補償問題だが、やっかいなのはこの町内では付加価値のついたブランド卵の生産が盛んなことだ。通常Mサイズの卵の出荷価格は一キロ当たり百二十−百三十円なのに対し、T氏の養鶏場ではその倍の二百七十円。M氏のところでは四百円という高価な卵を生産している。「ブランド卵の生産は元手がかかっている。行政はそこまで考えていてくれるのか」とT氏は不安を漏らす。

 商品にならない卵を産み続ける鶏たち。そうと分かっていても、飼育を手抜きすることはできないジレンマとも闘っている。「エサの内容を変えて栄養価を落とせば、鶏が弱ってしまい、病気になるケースもある。普段通りの飼育をしていないと、いざ出荷再開というとき同じ品質の卵が生産できなくなる」(M氏)

 業者たちが最も恐れているのは、「移動(出荷)制限になっている間に、これまで一生懸命開拓してきた販路がほかの業者にとられてしまう」(H氏)という懸念だ。この地域の養鶏業は近県の奈良や三重などのライバル業者としのぎを削る。「一度失った販路を取り戻すのは容易ではない。われわれ養鶏農家には大した蓄えもない。こんな状態が続いたら、つぶれる農家も出てくるだろう」と悲観する。

 京都府養鶏協議会事務局の石川徹氏は「養鶏業者は移動制限が始まって以来、無収入の状態。資金繰りも苦しく、もはやがけっぷちだ。行政には一日も早い対策を講じてもらいたい」と深刻になりつつある業者の窮状を訴える。

 政府は、京都府を中心とする移動制限区域内の業者を対象に補償措置の検討に入ったが、石川氏は「補償額の基準をどの時点にするかなど具体的な話はまだ先。毎日たまっていく卵をどう処理するかで今は手いっぱいだ」と余裕のない養鶏農家の立場を強調した。

 さて、これまで鳥インフルエンザの影響で出荷できなかった膨大な量の卵はどうなったのか。

 大分県は広瀬勝貞知事が十日「鶏や鶏卵の出荷制限を十一日午前零時で解除する」と発表したが、出荷できなかった卵は約五百万個にのぼった。すべてケーキ向けなど加工用「液卵」として出荷する方針だが、買いたたかれるのは必至だ。

■京都・兵庫・大阪 推計で3540万個に

 発生が一番早かった山口県は約三千万個(二千二十トン)の卵がたまった。このうち約千九百万個は焼却処分され、残り約一千万個は加工用として売却予定だ。

 京都、兵庫、大阪の三府県にまたがる地域での出荷制限の解除は、早くて四月六日以降の見通しで、仮に、全量が処分されずに保管されると、推計で三千五百四十万個の卵が滞留する事態になる。

 京都府の畜産課担当者は「野鳥へのウイルス感染を調べるため、カラスの捕獲を始めており、結果次第では解除は先に延びる」と話しており、さらに卵だらけになる可能性も出ている。

 卵は国内自給率九割を超え、供給が安定していることから「物価の優等生」といわれてきた。今後、別の都府県の大規模養鶏場などに感染が拡大した場合、そんな卵の需給バランスに影響は出ないのか。

 農水省食肉鶏卵課の担当者は「養鶏は一番シェアの高い県でも全国の6%ほどで、もし有数の産地で鳥インフルエンザが発生したとしても全国で供給不足になる事態は考えにくい」と分析する。むしろ、養鶏業者の心配は逆のようだ。

 大手養鶏・採卵業者の流通担当者は「京都方面の卵の消費量は減少していると聞く。出荷の制限で品薄になる前に、感染拡大のニュースで消費者が卵を買わなくなる。卵はさらにたまる可能性がある」と話す。

■販売再開後の卵 気になる安全性

 消費者が気になるのは、出荷の制限を受けていた卵が販売された場合の安全性と表示だ。政府は加熱すれば安心と異例の文書を発表。表示も賞味期限のみで、産地表示は必要ないという。東京消費者団体連絡センターの池山恭子事務局長は「加工用は加熱されて安全だし、卵に直接さわっても人間への感染はないと思う。賞味期限の表示さえしっかりしていれば、私は気にせず買うと思います」と話すのだが…。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040311/mng_____tokuho__000.shtml