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2004年03月09日(火) 00時00分

カラス感染は脅威か 京都 鳥インフルエンザ  東京新聞

 京都府でカラス二羽から、鳥インフルエンザウイルスが検出された。野鳥から出たことで、野鳥が感染を広める可能性が強くなった。しかも、カラスは大都市に多く生息し、人とも接点が多い野鳥だ。知能が高く、どん欲な雑食で感染拡大防止に、とんだやっかいものが登場した。「強敵」カラスは脅威となるのか−。

■黒い知能犯 駆除も厄介

 「鶏舎の金網を二重にするとか、飼料管理をきちんとするとか、対策をあらためて徹底しなければ…」

 感染死したカラスが見つかった京都府丹波町近くの養鶏業者男性(42)は、憔悴(しょうすい)しきった口調でこう語った。

 「鳥インフルエンザだけじゃなく、ニューカッスル病など、鶏の法定伝染病は野鳥が運んでいる。もともとカラスや小鳥を近づかせないように網を張ったり、エサをそこらにほっておかんようにしている」と説明する。消毒などの防疫作業が増えた上に、カラス対策の徹底も求められ養鶏業者は悲鳴を上げている。

 カラスは知能が高いといわれ、その対策にも苦労が多い。「カラスはとにかく賢い」と途方に暮れるのは、京都府船井郡猟友会の松本貞昭会長(68)だ。

 同会は、丹波町や隣接する園部町などで、シカやイノシシなど畑を荒らす有害鳥獣の駆除を行っている。時期によっては、カラスも駆除対象になるという。

■鉄砲見るとすぐ逃げる

 「鉄砲を持っているのが見えると、すぐ逃げる。殺気を感じるのかもしれない。無関心を装って近づくか、あるいは待ち伏せするか、とにかくいつも知恵比べなんですわ」

 丹波町や園部町ではこの時期、カラスはまだそれほど里に下りてきてはいないという。

 だが「山中で大量死していても誰にも分からない。カラスの死がいを小動物が食べたり、イノシシが食べたりしてウイルスがまん延するかもしれない」と危ぐする。

 京都府森林保全課によると、昨年度に有害駆除で捕獲されたカラスは二千三百八十五羽に上るという。

 「丹波町で感染が分かって以降、手洗いやうがいなどを徹底してもらうよう駆除担当者に連絡した」と説明する。

 カラスは雑食でどん欲性も知られ、感染した肉などを食べる可能性もある。

■小動物や卵 何でも口に

 十年以上前から、展示動物の保護にカラス対策を行ってきた上野動物園の担当者は「何でも食べる。エサを奪うだけではなく、プレーリードッグの子など動物の赤ちゃんや卵などあらゆるものが標的になる。別の動物園では以前、生まれたばかりのトナカイの赤ちゃんが、カラスにお尻から腸を引っ張り出されて死んだ例もあった」と説明する。

 カラスの生態に詳しい宇都宮大の杉田昭栄教授(動物神経解剖学)は「カラスの脳の質は人間に勝るとも劣らない」とその知能の高さを指摘。同教授によると、カラスの神経細胞数は鶏の約六倍の密度で、鳥類では傑出している。

 「カラスはどれほど賢いか」などの著作がある唐沢孝一埼玉大講師(鳥類生態学)も「人工物で道具が作れるカラスの知能は、霊長類の中でも高度な知能を持つオランウータンなどに匹敵する」と語る。

■『都内は今のところ心配ない』

 そのカラス相手に石原慎太郎都知事は三年前、「撃退」宣言をして、生息数削減に取り組んでいる。都内のカラスは三万六千四百羽から昨年末には二万三千四百羽までに減少したが、まだ不十分との立場だ。
 
 東京のカラスへの感染について、都は今月初めに捕獲したカラスの一部を簡易検査したが、いずれも鳥インフルエンザウイルスは陰性だったという。だが、都から駆除を委託されている「イカリ消毒」の担当者は「カラスは行動範囲が狭いと聞くので、今のところ都内は大丈夫だとは思うが。いつどうなるか、気を抜けない」と不安げだ。
 
 都環境局の担当者は「現段階でウイルスが都内に移動してくるとは考えがたいが、今後、捕獲の際の衛生管理の見直しなども検討することになる」と話す。
 
 今回感染死したカラスについて、農水省の家禽(かきん)疾病小委員会専門委員の大槻公一鳥取大教授は「船井農場での鶏の大量死のピーク時期から考えて、カラスがウイルスを持ち込んだことは考えられない。船井農場で感染した可能性が高い」とカラスは“被害者”との見方だ。
 
 だがカラスに感染が確認された以上、ウイルスの運び屋となる可能性が心配される。山階鳥類研究所広報担当者は「ハシボソガラスの標識調査で、五カ月間に(直線距離で七百キロ以上離れた)北海道苫小牧市から茨城県小川町まで移動したことが確認されている。

 ハシブトガラスでも青森県から秋田県まで移動している」と広大な行動範囲を指摘する。
 「縄張りを持つ個体は広くても数十キロの範囲内で生活するが、繁殖に参加できない成鳥や巣立った若鳥などが、冬季など繁殖期以外に南方に移動する例がみられる」
 
■ハシボソガラス 700キロ移動した例

 だが、カラスによる感染拡大について大槻教授は「今回、カラスが鳥インフルエンザに対して(感染への)感受性が強いことが分かった。移動範囲の広いカラスがいたとしても、感染したカラスは(発症して弱るので)長距離の移動は無理で、拡大原因になりえない」と指摘し、他の野鳥による危険性を危ぐする。
 
 一方、平井克哉岐阜大名誉教授(獣医微生物学)は「船井農場に群がっていたカラスが感染した鶏をついばんで感染した可能性が高い。死体が二羽見つかっただけでカラスの感受性の強弱は分からない。カラスの感受性が弱かった場合、(感染で死なずにウイルスを運び)広範囲に広める可能性も否定できない」と警鐘を鳴らす。
 
 野鳥への感染が確認されたことで、国内流入原因として渡り鳥説が強まったが、大槻教授は「(四例発生した)西日本の野鳥調査は、東日本に比べ遅れている。今回のような事態にならないと、環境省の野鳥調査予算が付かなかっただろう」と後手に回る国の対応に納得がいかない様子。
 
■感染防止策『お手上げ』

 さらに同省の炭谷茂事務次官は八日の定例会見で、カラスなど野鳥による感染拡大の防止策について「なかなか手の打ちようがない」とお手上げ状態であることを認め、対策への不安は尽きない。
 
 渡り鳥説について大槻教授はこう危ぐする。「今のところカラス以外の野鳥からウイルスは見つかっていない。しかし今回、野鳥にウイルスの感受性があることが確認され、(カモなど)感受性の弱い渡り鳥に感染している可能性が高い。京都はまだ寒く滞留しているが、暖かくなると列島を伝って南北両方に移動する」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040309/mng_____tokuho__000.shtml