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2004年03月01日(月) 14時24分

社説1 事業者倫理にもとる感染鶏の出荷日経新聞

 ウイルスは典型的な寄生生物である。生きた細胞に感染するしか、増殖の道はない。生体の外部に出たウイルスの寿命はそう長くない。ウイルス病が広がるのは、感染した動物が動き回り、フンや体液、呼気などでウイルスをまき散らすからだ。

 鳥インフルエンザも例外ではない。最も危険なのは、感染してまだ生きている鶏である。ところが、京都府丹波町の採卵養鶏場「浅田農産船井農場」は、飼育中の鶏の大量死を隠して、高病原性インフルエンザに感染した鶏を大量に食肉用に出荷していた。「鶏舎を空にしたい」などといって、残りすべての鶏を出荷することも計画していたという。

 言語道断、というしかない。浅田農産の会長は「死んだら出荷できないので、生きているうちに出した」と公言し、「大量死はインフルエンザではなく、腸炎だと思っていた」と弁明している。

 たとえ腸炎だったとしても、生きた鶏は最も危険な感染源である。それを出荷することは、家畜衛生上は意図的な感染拡大と解釈されてもしかたがない。まして、日本中が鶏のインフルエンザ拡大に神経をとがらせているときに、匿名の通報があるまで大量死を1週間も隠し続けた。通報の遅れなどでは断じてない。この農場は一度も公的機関に通報していないのである。

 家畜伝染病予防法に照らして、厳正な事実解明と処分が必要だろう。法律以前の職業倫理も問いたい。食品を供給し、生物を大量に高密度で飼育する事業者として、安全や衛生の観念があまりにも希薄だ。

 渡り鳥の体内や人間に付着して伝播するといわれる鳥インフルエンザ。感染拡大を防ぐには、火ダネが小さいうちに消し止めていく愚直な作戦しかない。その中核にあるのが、事業者の確固たる倫理観だ。ウイルスが変異して、人命をも奪うパンデミックという大流行に発展するのを阻止する上でも、行政と事業者の協力関係は欠かせない。

 法律に基づいて感染地周辺の鶏と鶏卵の移動・出荷は制限される。その直接的な被害のほかに、安全が確認された後にも風評による被害が予想される。「正直者が損をしない制度」の整備も必要だろう。

 農水省は移動制限に伴う損失補償について、制度改正を検討していると伝えられている。透明で公正な制度設計が求められる。

 BSE問題での苦い経験、ずさんな買い上げ制度の下、事業者の倫理が大きく揺らいだことを忘れてはなるまい。

http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20040301MS3M0100S01032004.html