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2004年02月28日(土) 00時00分

ポスト『オウム』 カルトは今 東京新聞

 麻原彰晃被告は、世紀末の世にハルマゲドン(世界最終戦争)をあおる「尊師の予言」で、弟子たちを大量殺人に走らせた。だが、新世紀となり、オウムの罪状が明らかになった今も「まもなく世界は滅ぶ」との終末の予言は、人々の間で語られている。「オウム危機」後も囁(ささや)かれる終末思想“信仰”の現状は−。

 ■「ハルマゲドンあると思う」

 「麻原彰晃を信じたりはしませんよ」

 東京・表参道で待ち合わせをしていた女子大学生(20)は屈託なく笑う。

 ダイエット食品のサンプルを抱えながら「さっき、もらったんです。幽霊やオカルトなんかも好きな方。でも、宗教って言われたら引いちゃいますけどね」。

 麻原被告がオウムで体現した、人類が滅ぶという終末観を、笑い飛ばす一方で「ハルマゲドンはあると思う」と言う。「北朝鮮の核疑惑なんかを見てたら、そのうち核戦争はあるだろうなと思うので」

 会社員男性(33)は「小学生のときは、三十歳で死ぬんだと思っていた。一九九九年に恐怖の大王がやってきて、地球が滅ぶという『ノストラダムスの大予言』が、すごく話題になったでしょう。怖くて眠れなかった」と苦笑する。

 この男性も「宗教なんて信じない」と言い切るが、新世紀になった今も、世界滅亡の予言は「信じるかも」という。

 ■「阪神大震災もあったから」

 「例えば『十年後に未知のウイルスが蔓延(まんえん)する』と言われたらそうかもしれないと思う。『大地震が起こる』と言われても、阪神大震災があったんだから」

 オウムも最初は、ヨガ教室を開く小さなグループだった。だが、麻原被告はやがて「終末」の予言を繰り返すようになり、オウムはハルマゲドンを自作自演する武装化集団に変質した。

 九〇年四月に「東京が危ない」と信者をあおり、石垣島セミナーを行った。説法などで「九七年にハルマゲドンが起こり、十人中九人が死ぬ。阪神大震災も地震兵器の実験の疑いがある」と繰り返した。だがハルマゲドンからの「救済」とは、オウムでの修行であり、身勝手な論理による「大量無差別殺人」だった。

 「死に対してリアリティーがなかった」と話すオウム元信者の三十代女性は、予言を信じていた当時の気持ちを振り返る。

 オウム入信前にいくつかの新興宗教に勧誘されたが「むちゃな論理だし、信じられない」とはねつけていた。それがたまたま悩みを抱えていた時期にオウムに誘われて「すーっと入った」。「尊師の前で、自分は無力だとの思いと同時に、社会に対しては“善”の側にいるという全能感を与えてくれた」という。

 「まだオウムにいる子たちは、自分がサリンを散布させられることはないと安心する一方、『実行犯は功徳を積んだ』と思っている。被害者だけではなく、実際にサリンをまいた実行犯たちがどんな気持ちだったかすら、想像しようとはしない」

 ■他者への共感力乏しい若者標的

 その上でこの女性はカルト(先鋭的な教団)につけ込まれる人々には「現実社会での経験が少なく、他者への共感力が乏しい」傾向があると指摘、終末思想に絡め取られた彼らの特徴を説明する。

 世紀末は過ぎた。もはやハルマゲドンが若者たちを引きつけ、現実を踏み越えさせる危険性はなくなったかに見える。

 「むしろ、最近の方が危ういかもしれない」

 かつて終末思想が濃厚な教団の一つに所属していた自営業男性(54)はこう危惧(きぐ)する。「カルトにとって終末思想は伝道の道具。社会不安が大きければ大きいほど、ハルマゲドンの実感がわく。人々の危機感につけ込むんです」

 その手口を知る都内のキリスト教系大学では危機感を強め、新入生に対して「宗教勧誘」などに気をつけるよう警告を発している。

 ■親しく声掛けてやがて加入強要

 上智大学では、新入生に対するガイダンスで注意するほか、構内に注意文を張り出す。同大学生部は「九〇年代後半から、特に細かく注意し始めた。一人でいる学生に『一緒にスポーツをやらない?』などと親しげに声をかけて、最終的に宗教団体への加入を強要するという手口が目立つようになったからだ」と説明する。青山学院大でもやはり、新入生に注意を呼びかける書類を配布している。

 多くの宗教は終末思想を内包している。思想が現実から逸脱し、事件を引き起こす例は少なくない。

 日本脱カルト研究所所属のある宗教研究者は「米国では、白人至上主義などのカルト宗教がからんだ集団自殺事件が多発している」と指摘する。ほかにも終末思想にからんで、二〇〇〇年にウガンダで『神の十戒回復運動』信者ら九百七十人以上が集団自殺した例などを挙げた。

 カルト問題に詳しい静岡県立大の西田公昭助教授(社会心理学)は「オウム真理教だけではなく、現在でも、終末思想に基づいた攻撃的な教団は存在する」と指摘した上で、その構図をこう説明する。

 「カルトは、その時代時代で、終末思想を『サポート』する状況や情報をうまく取り込んできた。七〇年代は、共産主義革命など政治思想的なもの、オウムが台頭した八〇年代は、社会改革や自己啓発などを。九〇年代はバブル後の経済不安や世紀末という時代的背景を巧みに組み込んできた」

 「頭の良い教団は、“市場調査”に優れている。人々が何に不安や恐怖を感じているかを調査し、その情報を使って巧妙に、人々の心理を操作する」と指摘する。

 さらに、終末思想と密接に結びつく「予言」についても言及する。

 「予言が外れたとしても、教団にとっては何ら問題ではない。なぜなら教団、教祖は先のサポート情報などをうまく利用しながら、内部的には、都合よく軌道修正するのが常だからだ。むしろ外れたことを外部から指摘された場合、教団内部がより強固になるという傾向もある」

 その上で、現在の社会状況をこう説明する。

 「終末思想と結びつくサポート情報が何でもある。イラク戦争、北朝鮮、鳥インフルエンザ、さらに警察や学校への不信と身近でも明るい方向がまったく見えない。カルトにとっては、非常に不安をあおりやすい時代になっている」

 ■非科学、破壊的現在ははやらず

 カルトはこの期に乗じて勢力を拡大しているのか。大正大の弓山達也助教授(宗教社会学)は「終末思想はバブル期だからこそ、若者に受け入れられた。『お金だけでいいのか』という自分探し運動が終末思想の背景になっている。現在は、非科学的なカルト志向ははやらなくなっている」と否定的な考えを示す。

 だが西田氏は違う見方だ。「今のカルトのありようは、破壊的ではなく、地球環境を訴えたり、癒しを強調したりと、むしろ顔の見えない、表面的にはソフトなミニカルトが乱立している時代だ。わずか四、五人のこともあるし、さまざまな肩書の人がカルト的なものを立ち上げている。いわば、あなたの隣のミニカルトといった状況だろう」


http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040228/mng_____tokuho__000.shtml