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2004年02月27日(金) 12時28分

社説1 「現代の狂気」を裁いた麻原死刑判決日経新聞

 オウム真理教元代表、松本智津夫(麻原彰晃)被告に、東京地裁が死刑の判決を言い渡した。松本被告の指示で引き起こされた一連の事件で27人が死亡し、約4000人が重軽傷を負い、いまも意識が戻らぬ人がいる。遺族の受けた悲しみ、社会に与えた衝撃、犯行の残虐さなどを考えると、妥当な判断であろう。

 松本被告を絶対者とあがめるオウム教団が組織的・計画的に実行した犯罪は、「現代の狂気」としか言いようがない。「貧者の核兵器」と呼ばれる毒ガス・サリンを住宅地や地下鉄内で散布し無差別大量殺人を行い、弁護士一家を殺害し、信者ら4人にリンチを加え殺した。多くの信者が人間らしいためらいも見せず、被告の命じるまま凶行に及んだ。

 被告は裁判で「弟子たちが暴走した」と責任転嫁を図った。だが、判決は、事件が被告の抱いた「国家権力を倒しオウム国家を建設して自ら王となり日本を支配するという野望」に基づくものであると認定した。被告の荒唐無稽(こうとうむけい)な野望のため多くの人々が犠牲になり、治安への信頼が揺らいだかと思うと、やり切れないものがある。

 8年近い裁判の途中から被告は審理を無視する態度を取り続け、遺族らが熱望した事件についての説明も謝罪もしなかった。刑事裁判には失われた正義の回復と再発防止への戒めという意味があるが、裁判の長期化でその意味が大幅に低下した。遅い裁判は、裁判とは言えない。

 いま刑事裁判の充実・迅速化を目指す刑事司法改革が進んでいる。この裁判を教訓として、「すべての裁判で2年以内の一審判決」が実現する方策を急ぐべきだ。「引き延ばし戦術」との批判があった弁護活動についても検討が必要であろう。

 松本被告への判決でオウム裁判は一区切りついた。だが、残された問題も多い。まず、なぜ多くの若者がカルト(狂信)集団にからめとられ残虐非道な犯罪に走ったか、という問題である。超能力や死後の世界への関心、現代社会への不安や不満など、「迷える若者」は少なくない。それに手を差し伸べる活動は十分ではない。経済の繁栄の中で精神世界を軽んじてきた戦後社会のつけと言えよう。

 オウム教団は、化学兵器だけでなく、生物兵器、核兵器の開発や自動小銃の大量製造に取り組んでいた。摘発が半年遅れれば、首都壊滅といった事態も起こり得た。事件後人員や装備の面で大規模テロ対策は急速に進んだ。だが、事件の兆候を見逃した捜査・警備の反省も不可欠だ。

http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/index20040227MS3M2700V27022004.html