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2004年02月17日(火) 00時00分

小泉武夫の食味学 … 三面川の塩引き鮭読売新聞


味匠■っ川(きっかわ)では、紫外線があたらないようにと、建物内の天井に吊るす  鮭は日本では、古くから東北および日本海側一帯の河川で遡上するものが漁獲され、重要なたんぱく食となってきた。季節的な遡上という定期漁獲物の存在は、縄文文化社会の一つの基盤であったという学説まである。

 すでに奈良時代の多くの風土記に、その名所や食法が記されており、平安時代の『延喜式』に至っては、誠にもって詳しく鮭の食文化が記述されている。

 したがって日本各地の名産地には、この魚を祀る「鮭神社」や、鮭の供養塚をよく見ることができる。

 鮭は頭から尾の先まですべて食される魚で、昔はあまりにも遡上数が多く、これが保存法として塩引き鮭をつくる道に通じた。

 たんぱく質が豊富な上に脂肪や無機質も多含されているので実によく食べられ、稲作民族の日本人に、一方では魚食民族としての位置づけも為してしまった。はららご(卵巣で筋子やイクラのこと)や白子(しらこ)まで美味なので珍重され、また内臓なんぞまで塩からにして保存食とした。

 三面川の鮭の記述も大層古く、聖武天皇との関係まで記述している古文書もある。江戸時代の『料理山海郷』に三面川の塩引き鮭の詳しい製法が述べられているが、現在の製法もほぼこれと同じで、その伝統は頑(かたく)なに守られてきた。

 だから三面川の塩引き鮭は、今でも他の地方で行われている新巻鮭とは全く製法が異なり、時間と手間をかけ、実にスローフード的な感覚で行われている。

 今、日本の新巻鮭の多くが、ただの塩を塗(まぶ)しただけの味気ないものとなった中で、北海道の一部で伝わっている「山漬け」と並んで、実に貴重なつくり方を今に残すこの三面川塩引きこそ、日本人が心から求める塩引きである。

※キャプションの■は七を3つ

旅行読売2004年2月号より

http://www.yomiuri.co.jp/tabi/gourmet/fudoki/fd040203.htm